アイスランドの音楽

本項目はアイスランドの音楽(アイスランドのおんがく)について記述する。アイスランドには伝統音楽大衆音楽の他、活動的なクラシック音楽現代音楽シーンがある。アイスランドでは極めて音楽活動が盛んであり、「音楽大国[1][2][3]」と呼ばれている。アイスランド出身のよく知られているアーティストは、中世風の音楽グループであるヴォセス・トゥーレス、オルタナティヴ・ロックバンドのシュガーキューブス、シンガーのビョーク、 ハヴティース・ヒュルトとエミリアナ・トリーニ、ポストロックバンドのシガー・ロスポストメタルバンドのソルスターフィアインディフォーク/ロックバンドのオブ・モンスターズ・アンド・メン、ブルース/ロックバンドのカレオメタルバンドのスカルモルド、テクノインダストリアルバンドのハータリなどである。アイスランドの伝統的な音楽は北欧音楽の形式と関連している。人口がとても少ないにもかかわらず、アイスランドには多くの著名なバンドやミュージシャンがいる。

伝統音楽[編集]

アイスランドの音楽はとても長い伝統を持っている。リームルは頭韻を多く用いて押韻するバラッドで、通常はアカペラによって歌われる叙事詩物語である。 リームルヴァイキング時代の古エッダスカルド詩まで遡ることができ、複雑な隠喩と隠されたリズム、形式を用いている[4]。アイスランド特有の形式を復興させるための努力が続けられている。例を挙げると、1929年に立ち上げられたイズン (Iðunn) の設立をきっかけにリームル伝統の現代復興が始まった[5]

ポピュラー音楽[編集]

アイスランドのポピュラー音楽においては、インディー・ロックポップロックから電子音楽といった様々な分野で多くのバンドやミュージシャンが活動している。またメタルハードとコアのシ-ンで活気が増大し、アイスランドの音楽はますます認知されるようになっている[6][7]。よく知られたアイスランドのアーティストはオルタナティヴ・ロックバンドのシュガーキューブス、歌手のビョーク、 ハヴティース・ヒュルトとエミリアナ・トリーニ、ポストロックバンドのシガー・ロス、それだけではなく電子音楽グループに属すガス・ガスなどである。

広く知られているアイスランドのアーティストとしては多岐にわたる分野で活動するシンガー、作曲家のビョークがいる。ビョークは15回グラミー賞にノミネートされ、1500万枚以上のアルバムを世界中で売り上げ、その中にはアメリカ合衆国において2枚のプラチナアルバムと1枚のゴールドアルバムが含まれている[8]。 他には、ポストロックバンドのシガー・ロスと、そのリードボーカルのヨンシーがいる。アイスランド外での知名度も高く、『ザ・シンプソンズ[9] や『ゲーム・オブ・スローンズ[10]といったテレビ番組への出演歴もある。

エレクトロニカバンドであるムームのメンバーでチェリストヒドゥル・グドナドッティルは映画・ドラマの音楽を多数作曲しており、『ジョーカー』でアカデミー作曲賞を受賞しているほか、『チェルノブイリ』、『TAR/ター』、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』などの音楽を手掛けている[11][12][13][14][15]

2005年にはアイスランドのポピュラー音楽シーンについてのドキュメンタリー映画『スクリーミング・マスターピース』が製作された[3]

オルタナティヴとメタル[編集]

オルタナティヴ・ロックとメタルのシーンには活気があり、アイスランドのバンドがヨーロッパやアメリカ合衆国での大規模なフェスティバルに出演している。メタルバンドのソルスターフィアはアイスランド外に広く知られており、すでに1999年にはドイツのレコードレーベルとデビューアルバムを出す契約をしていた。ヴァイキング・メタルバンドであるスカルモルドは2013年の12月にアイスランド交響楽団と共に、首都に位置するコンサートホール、ハルパで、完売になった公演を2回した[16]

またアイスランドではエクストリーム・メタルブラックメタルも繁栄し海外から認知されている[17][18][19][20][21]。シーンの中で最も重要なアルバムの多くはエミッサリーのスタジオで録音をし制作したアルバムであり、この録音スタジオはアイルランドの音楽家スティーヴン・ロックハートが始めたものである[18]。また、カセットレーベルのヴァウナガンドル (Vánagandr) もまた、アイスランドのブラックメタルの成長において重要な役割を果たした[20]。2016年に、音楽フェスOration MMXVIがアイスランド初めてのブラックメタルフェスティバルとして誕生した。後に2017年と2018年、2回の開催をもって終了した[18]。2016年にブラックメタルバンドのミスシュルミング (Misþyrming) はロードバーンフェスティバルのアーティスト・イン・レジデンスとして選ばれた[22]。            

クラシック音楽[編集]

作曲[編集]

クラシック音楽がアイスランドに到達したのは比較的遅く、西洋クラシック音楽の枠組みで活動するアイスランドの作曲家が初めて現れたのは19世紀から20世紀初めである。こうした中にはスヴェインビョルン・スヴェインビョルンソンがおり、初めてのプロの作曲家として考えられている[23]。21世紀のアイスランドでは、数多くの現代音楽の作曲家が国際的な成功を獲得しクラシック音楽のシーンは活発化した[24]

演奏[編集]

クラシック音楽フェスティバルはレイキャヴィークとアイスランドの至る場所で毎年開催され、その中にはダークミュージックデイとレイキャヴィークミッドサマーミュージックが含まれている[25]。最もクラシック音楽の世界の間で有名なアイスランドの市民はロシアのピアニストウラディーミル・アシュケナージで、1968年にソビエト連邦から亡命したのちに、アイスランド人の妻と共に移住した。ウラディーミル・アシュケナージには1972年にアイスランドの市民権が与えられた[26]。他にクラシック音楽業界で国際的な経歴を持つ注目すべきアイスランドの演奏者としては、ヴァイオリニストでパシフィカ・クァルテットの一員であるグルビョルン・ベルンハルドソン[27]ヴァイオリニストのエルファ・ルン・クリスティンスドッティル[28] 、ピアニストのヴィキングル・オラフソン[29][30] 、そしてチェリストのサイウン・ソルステインスドッティルがいる[31]

国歌[編集]

アイスランドの国歌は「賛美歌」で、マティアス・ヨクムソンによって作詞され、スヴェインビョルン・スヴェインビョルンソンにより作曲された[32]

音楽組織[編集]

Iceland Musicはアイスランドの音楽を海外に広め促進するのを目標としている。Iceland Musicはアイスランドの音楽についての情報が載ったウェブサイトやニュースレターを運営し、ソーシャルメディアでも活動していて、読者がアイスランド音楽の展開に追いつくことができる[33]。ÚTÓNはIceland Musicの地方組織であり、音楽の普及促進の要素を音楽家に教育するだけではなく、一般的な相談受付や基金の管理もしている[34]

音楽情報センター (MIC) はほとんどはクラシック音楽作品からなる過去及び現代の音楽のための国営機関である。また、国際音楽情報センターの一部である[35]

サムトンは、アイスランドの著作者、パフォーマーやプロデューサーのための統括組織である[36]

脚注[編集]

  1. ^ 小倉悠加. “ジャンルなき孤島、アイスランド音楽のいま”. 東京交響楽団. pp. 24-26、p. 24. 2023年12月4日閲覧。
  2. ^ アイスランドの最新音楽シーンを紹介するイベントが開催 | Daily News”. Billboard JAPAN. 2023年12月3日閲覧。
  3. ^ a b ビョークやシガー・ロスらが出演!アイスランド音楽シーンを語る映画が日本公開決定 - CDJournal ニュース”. www.cdjournal.com. 2023年12月3日閲覧。
  4. ^ Rich, G. (1977). Icelandic Rímur. The Journal of American Folklore, 90(358), 496-497. doi:10.2307/539626
  5. ^ Cronshaw, pgs. 168-169
  6. ^ Chainey, Ian (2014年5月1日). “Invisible Oranges Iceland metal article”. Invisible Oranges. 2014年5月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年5月5日閲覧。
  7. ^ Kim (2013年1月28日). “Icelandic Metal is the Best Kind of Metal”. 2014年5月5日閲覧。
  8. ^ Björk”. www.bookingentertainment.com. 2023年10月5日閲覧。
  9. ^ sigur rós scores an upcoming episode of 'the simpsons'”. www.sigur-ros.co.uk. 2023年10月5日閲覧。
  10. ^ Sigur Ros Share Gloomy 'Game of Thrones' Cover”. www.rollingstone.com. 2014年6月16日閲覧。
  11. ^ ヒドゥル・グドナドッティル(ムーム)が劇伴、クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントン、ラミ・マレックら出演の『アムステルダム』公開”. BARKS (2022年9月29日). 2023年12月3日閲覧。
  12. ^ ヒドゥル・グドナドッティル、アカデミー賞受賞スピーチ訳。『ジョーカー』サントラで作曲賞を受賞”. uDiscoverMusic | 洋楽についての音楽サイト (2020年2月10日). 2023年12月3日閲覧。
  13. ^ ヒドゥル・グドナドッティル、音楽を担当した『ウーマン・トーキング 私たちの選択』”. BARKS (2023年2月14日). 2023年12月3日閲覧。
  14. ^ 管理人 (2020年1月31日). “ヒドゥル・グドナドッティルとは?:múmで活躍、『ジョーカー』『チェルノブイリ』のサントラで絶賛されるアイスランド人アーティスト”. uDiscoverMusic | 洋楽についての音楽サイト. 2023年12月3日閲覧。
  15. ^ 映画『TAR/ター』サウンドトラック発売決定。主演ケイト・ブランシェット指揮「マーラー:交響曲第5番」含む作品を収録”. uDiscoverMusic | 洋楽についての音楽サイト (2023年3月13日). 2023年12月3日閲覧。
  16. ^ Gourmet Viking Metal”. grapevine.is. 2014年6月16日閲覧。
  17. ^ “The Top 10 Metal Bands From Iceland” (英語). Metal Hammer. (2016年8月29日). http://teamrock.com/feature/2016-08-29/top-10-best-iceland-metal-bands 2018年3月11日閲覧。 
  18. ^ a b c “Snow, Booze, and Blood: Icelandic Black Metal Is Still on Top” (デンマーク語). Noisey. (2016年2月24日). https://noisey.vice.com/da/article/695vg8/oration-mmxvi-review 2018年3月11日閲覧。 
  19. ^ “Ten Bands Setting Iceland's Black Metal Scene Ablaze” (英語). Bandcamp Daily. (2017年10月12日). https://daily.bandcamp.com/2017/10/12/iceland-black-metal-bands-bandcamp/ 2018年3月11日閲覧。 
  20. ^ a b “Scene Report - Icelandic Black Metal - Terrorizer” (英語). Terrorizer. (2016年3月31日). http://www.terrorizer.com/news/features-2/scene-report-icelandic-black-metal/ 2018年3月11日閲覧。 
  21. ^ Look To The North: Why Icelandic Black Metal Is The Next Big Thing - Heavy Blog Is Heavy” (英語). www.heavyblogisheavy.com. 2018年3月11日閲覧。
  22. ^ grapevine.is (2015年10月1日). “Misþyrming Is Roadburn Festival's 2016 Artist In Residence - The Reykjavik Grapevine” (英語). The Reykjavik Grapevine. https://grapevine.is/culture/music/2015/10/01/misthyrming-is-roadburn-festivals-2016-artist-in-residence/ 2018年3月11日閲覧。 
  23. ^ Briefly About History of Icelandic Music”. The Árni Magnússon Institute for Icelandic Studies. The Árni Magnússon Institute for Icelandic Studies. 2016年11月13日閲覧。
  24. ^ Ice and fire: the classical music scene in Iceland”. The Guardian. 2016年11月13日閲覧。
  25. ^ Iceland Music Export: Festivals”. IMX: Iceland Music Export. Útón: Útflutningsskrifstofa íslenskrar tónlistar. 2016年11月13日閲覧。
  26. ^ ÍSMÚS: Icelandic Music and Cultural Heritage”. ÍSMÚS. ÍSMÚS. 2016年11月13日閲覧。
  27. ^ Review: The Pacifica Quartet Interprets Composers' 'Last Words'”. The New York Times. 2016年11月13日閲覧。
  28. ^ Nordic Music Council Prize:Nominees”. Nordic Council Music Prize. Nordic Council. 2016年11月13日閲覧。
  29. ^ machine.html Review: Philip Glass: The Études, Barbican, review: 'a well-oiled machine'”. The Telegraph. The Telegraph. 2016年11月13日閲覧。
  30. ^ Review: Ulster Orchestra is pulling out all the  stops”. Belfast Telegraph. Belfast Telegraph. 2016年11月13日閲覧。
  31. ^ Review: Argento Chamber Ensemble Brings Out Mahler's Inventive Side”. The New York Times. 2016年11月13日閲覧。
  32. ^ The Icelandic National Anthem”. musik og saga. 2005年11月11日閲覧。
  33. ^ About Iceland Music”. www.icelandmusic.is. 2023年10月5日閲覧。
  34. ^ Um Útón”. www.uton.is. 2023年10月5日閲覧。
  35. ^ About”. www.mic.is. 2014年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月23日閲覧。
  36. ^ Um Samtónn”. www.samtonn.is. 2014年12月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月23日閲覧。

参考文献[編集]

  • Cronshaw, Andrew (2000). “Waiting for the Thaw”. In Broughton, Simon; Ellingham, Mark; McConnachie, James et al.. World Music, Vol. 1: Africa, Europe and the Middle East. London: Rough Guides. pp. 168–169. ISBN 1-85828-636-0 
  • Steingrímsson, Hreinn. Dorothy Stone; Stephen L. Mosko. eds. Kvædaskapur: Icelandic Epic Song. オリジナルの2005-10-13時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20051013025159/http://shoko.calarts.edu/KVAEDASKAPUR/main.html 
  • The Icelandic music scene after the economic collapse Archived 2010-12-03 at the Wayback Machine.
  • The Real Icelandic Music Scene -- REDEFINE magazine
  • ICELAND MUSIC INFORMATION CENTRE”. 2014年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月23日閲覧。
  • Gourmet Viking Metal”. grapevine.is. 2014年6月16日閲覧。
  • Sigur Ros Share Gloomy 'Game of Thrones' Cover”. www.rollingstone.com. 2014年6月16日閲覧。

外部リンク[編集]