イロハモミジ

イロハモミジ
紅葉しかけの
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: ムクロジ目 Sapindales
: ムクロジ科 Sapindaceae
: カエデ属 Acer
: イロハモミジ A. palmatum
学名
Acer palmatum Thunb. (1784)[1]
シノニム
和名
イロハモミジ(いろは紅葉)
イロハカエデ(いろは楓)
タカオカエデ(高雄楓)
コハモミジ(小葉紅葉)
英名
Japanese maple

イロハモミジ(いろは紅葉[3]・伊呂波紅葉[4]学名: Acer palmatum)は、ムクロジ科カエデ属[注 1]落葉小高木または落葉高木である。別名で、イロハカエデタカオカエデなどとも呼ばれるが、単にモミジと呼ばれることが多い。

日本では最もよく見られるカエデ属の種で、紅葉の代表種。本種より作られた園芸種も多い(#変種・園芸種を参照)。

名称[編集]

和名イロハモミジは、葉が手のひらのように5 - 7つ裂片があり、この裂片を「いろはにほへと」と数えたことに由来する[4][5][6][7]。別名で、イロハカエデ(伊呂波楓)[8][4]タカオカエデ(高雄楓)[4][3]、コハモミジ(小葉紅葉)[4]、タカオモミジ(高雄紅葉)[1]、チョウセンヤマモミジ(朝鮮山紅葉)[1]ともよばれている。「タカオカエデ」の名は、京都の高雄山に多く、名所であることに由来する[9][6]。また、「カエデ」は葉の形がカエルの手(前脚)の形に似ることから「蛙手」の意味で名付けられたものである[6][7]

春の新緑と秋の紅葉が美しく、一般に「モミジ」と言えば、カエデ類を代表して本種のことを指している[8][4]植物学では、カエデとモミジは区別していない[5]。園芸上では、葉が鋭く深裂する場合はモミジ、浅く切れ込んでいる場合はカエデと称することが多い[5]

イロハモミジの花言葉は、「遠慮」「大切な思い出」とされる[10]

学名は「小さな手のカエデ」を意味する。ドイツ語での Fächerahornは「扇状のカエデ」の意味[11]

分布・生育地[編集]

東アジア日本朝鮮半島の南部[8][6]中国[10]台湾)に自生する。

日本では、本州福島県以南の太平洋側、四国九州に分布し[4][9][10]、平地から標高 1000メートル (m) 程度にかけての低山で多く見られる[8]。秋の紅葉が見事で、各所にもみじの名所をつくる[8]。山野に生えるほか、昔から人の手によって庭園や寺社の境内に植えられており[8]、庭木としてよく使われている[4]

特徴[編集]

落葉広葉樹小高木から高木[9][4]。樹高4 - 15 m[9]、幹の直径は 80センチメートル (cm) 以上に達する。樹皮は淡い灰褐色で[8]、成木では縦に筋が入るが、若木のうちは滑らかである[3]。一年枝は細く緑色や紅紫色で、日光が当たる側が赤く、日影側が緑色になる傾向がある[3]

対生し、葉身は長さ 3.5 - 6 cm、幅 3 - 7 cm で、掌状に深く 5 - 7裂する[4]。葉の大きさはカエデ類のなかで、最も小さい部類である[9]。裂片は細く、葉縁には鋭い大小不揃いの二重鋸歯があり[9]、裂片の先は長く尾状に伸びる[4](10 - 12月)には黄褐色から橙色、紅色に紅葉して散る[7]。ふつう、日当たりの良かった葉は赤く染まり、日当たりの悪かった葉は黄色くなることが多い[12]。落ち葉は、雨天のとき以外は次第に丸まって色褪せていく[13]。葉はオオモミジヤマモミジなどに似るが、本種の葉は一回り小さく、鋸葉が粗く不揃いなところで区別される。

期は(4 - 5月)[8]雌雄同株で、雄花両性花をつける[8][10]。若葉の芽生えと同時に、本年枝の先に複散房花序を出して、直径 4 - 6ミリメートル (mm) の花を下垂してつける[4][6]。花色は暗紫色で[4]、5個の片と、黄緑色もしくは紫色を帯びる萼片より小さい 5個の花弁をもつ。雄しべは8個つく[4]風媒花で花後に果実をつける[4]

果実は翼果で、長さ1 - 2 cm 程度の翼があり、秋(10月ごろ)に熟すと風を受けて回転しながら飛ばされる[7]

冬芽は枝先に仮頂芽を2個つけ、枝に対生して側芽をつける[3]。冬芽の芽鱗は8枚で外側の2枚が小さく、冬芽基部に毛や膜質の鱗片があるが、ない場合も多い[3]。冬芽わきの葉痕は細くてわかりにくく、維管束痕は3個ある[3]

ヤマモミジオオモミジは、本種の亜種とされることがある[7]。オオモミジは、イロハモミジに似ているが全体に大きく、果序は下を向いたまま果実が熟していくのが特徴である[14]

ヤマモミジ[編集]

ヤマモミジ(山紅葉[15]、学名: Acer amoenum var. matsumurae)は、ムクロジ科カエデ属の落葉高木。イロハモミジの亜種 (Acer palmatum subsp. matsumurae (Koidz) Ogata) または変種とされる場合があるが、オオモミジの変種 (Acer amoenum var. matsumurae) とされる場合もある。和名は「山モミジ」の意味である[16]

日本の北海道本州青森県から島根県日本海側の多雪地に分布し、山地に生える[15]。庭にも植栽される[16]。落葉高木で、高さ5 - 10メートル (m) になる[16]タカオカモミジは本種の1変種である[16]。若木の樹皮は滑らかで、太い幹の樹皮は縦に浅く裂ける[17]。一年枝は細くて無毛で、つやのある黄緑色をしており、短冊状に葉痕が詰まっていることもある[17]

は径5 - 10 cmで掌状に7 - 9裂し、一般にイロハモミジより大きめになるが[16]、変異が大きい。葉柄は長く、葉の基部は心臓形で、中央の裂片はやや長く先端は尾状に尖る[15]葉縁に大小不揃いの二重鋸歯があり[18]、単鋸歯のオオモミジとは違いが見られる[15]。秋の紅葉はイロハモミジと同様に美しい[18][16]

花期は晩春(5 - 6月)[16][17]。新葉よりもわずかに早く、本年枝の先端から散房花序を出して、暗赤色の花を下向きにつける[15][16]。花は雄花両生花があり、花弁は5個、雄蕊は8個つき、萼片は濃紅色をしている[15]。花が咲き終わると、花序(果序)の柄が上に持ち上がる[14]

果期は7 - 9月[10]。果実は翼果で長さ2 cmあり、ほぼ水平に開く[15]

冬芽は紅色で目立ち、芽鱗8枚に包まれており、基部は膜質の鱗片に包まれ縁に毛がある[17]。枝先に仮頂芽を2個つけ、側芽が枝に対生する[17]。葉痕は三日月形からV字形で、維管束痕が3個つく[17]

変種・園芸種[編集]

本種には下記をはじめとする様々な変種があり、また紅葉を観賞するのに園芸品種も多く作出されている[6][3]

  • ベニシダレ Acer palmatum var. dissectum Koidz.
  • ノムラカエデ Acer palmatum var. sanguineum (Nakai)
  • アオシダレ Acer palmatum f. aosidare Nemoto
  • チリメンカエデ Acer palmatum f. dissecta (thunb.) Sieb.et Zucc.
  • ヒガサヤマ Acer palmatum f. hikasayama Koidz.
  • シメノウチ(アオノ七五三) Acer palmatum f. linearilobum (Nakai)
  • オオサカズキ Acer palmatum f. ohsakazuki Koidz.

利用[編集]

イロハモミジは、美しい紅葉で知られる日本で最も有名なカエデである[9]。庭や公園、街路、寺社に多く植えられ、都市部でも鮮やかな赤色に紅葉し、多くの人に愛でられている[9]。一般にモミジといえば、本種やオオモミジ、ヤマモミジを差し、これらから多くの園芸品種も作り出されている[9]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ APG体系ではムクロジ科に分類されるが、古いクロンキスト体系新エングラー体系ではカエデ科に分類されていた[1]

出典[編集]

  1. ^ a b c d 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Acer palmatum Thunb. イロハモミジ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月23日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Acer palmatum Thunb. var. coreanum Nakai イロハモミジ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月23日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 107.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 9.
  5. ^ a b c 田中潔 2011, p. 141.
  6. ^ a b c d e f 邑田仁・米倉浩司編 2013, p. 174.
  7. ^ a b c d e 亀田龍吉 2014, p. 12.
  8. ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 139.
  9. ^ a b c d e f g h i 林将之 2008, p. 44.
  10. ^ a b c d e 田中潔 2011, p. 140.
  11. ^ Susanne Fischer-Rizzi : Blätter von Bäumen II. Hukusuisha. = 喜多尾道冬・林捷編『続・ドイツの樹の文化誌』白水社1994年(ISBN 4-560-01590-2)55頁。
  12. ^ 亀田龍吉 2014, p. 13.
  13. ^ 亀田龍吉 2014, p. 14.
  14. ^ a b 長谷川哲雄 2014, p. 28.
  15. ^ a b c d e f g 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 22.
  16. ^ a b c d e f g h 邑田仁・米倉浩司編 2013, p. 175.
  17. ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 108.
  18. ^ a b 林将之 2008, p. 45.

参考文献[編集]

  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名辞典』世界文化社、2014年10月5日、12-15頁。ISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、107頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、140-141頁。ISBN 978-4-07-278497-6 
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、9頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 長谷川哲雄『森のさんぽ図鑑』築地書館、2014年3月10日、28頁。ISBN 978-4-8067-1473-6 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、139頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 邑田仁、米倉浩司 編『APG原色牧野植物大図鑑II』(初版)北隆館、2013年3月25日、174-175頁。ISBN 978-4-8326-0974-7 

関連項目[編集]