オダライア

オダライア
生息年代: 510–505 Ma[1] PreЄ Є O S D C P T J K Pg N ↓
オダライアの復元図
保全状況評価
絶滅（化石）
地質時代
古生代カンブリア紀ウリューアン期 （約5億1,000万 - 5億500万年前）[1]
分類
界 : 動物界 Animalia 門 : 節足動物門 Arthropoda 階級なし : 大顎類 Mandibulata [2] 目 : †（和訳なし） Hymenocarina [2] 科 : †オダライア科 Odaraiidae [3] 属 : †オダライア属 Odaraia
学名
Odaraia Walcott, 1912 [4]
タイプ種
Odaraia alata Walcott, 1912 [4]

オダライア（Odaraia^[4]）は、約5億年前のカンブリア紀に生息した化石節足動物Hymenocarina類の一属^[2]。円筒状の背甲と飛行機のような尾をもつ^[3]、カナダのバージェス動物群で見つかった Odaraia alata という1種のみによって知られる^[5]。

名称[編集]

学名「Odaraia」は、発見地バージェス頁岩を含むカナダブリティッシュコロンビア州のオーダーイー山（Odaray Mountain）に由来する。オーダーイー山の名はファースト・ネーションのストーニー・ナコダ族の単語「odaray」に由来し、これは「滝が多い」を意味する^[5]。模式種（タイプ種）の種小名「alata」はラテン語の「ala」（翼）に由来し、本種の翼のような尾節に因んで名付けられた^[5]。

形態[編集]

• 
  オダライアの全身復元図（左から順に側面、背面と腹面）

全身

眼と付属肢

胴部末端

オダライアの化石標本

背甲長2.5cmから8cm以上、全長最大15cmと推測される^[3]。体の大部分が背甲に覆われ、先頭と末端の構造のみ常にその前後から突出する^[3]。

背甲（carapace）は体長の半分を超えるほど長大な円筒状で、両縁が向き合うほど体の腹面まで包んでいる。全体的に二枚貝状で左右に分かれ、背面の正中線が蝶番のように関節となり、末端がやや三角形に尖る^[3]。この背甲はほとんどの体節を覆い被さるが、胴部には融合せず、先頭のみ頭部に連結したと考えられる^[3]。背甲の直前には、3個の中眼（単眼）をもつ楕円形の小さな甲皮（anterior sclerite）と、その左右から短い眼柄に突出した1対の大きな複眼がある^[3][6]。それ以外の頭部構造はほぼ不明で、付属肢（関節肢）として1対の大顎（mandible）のみ確定的に発見される^[3][7]。Hymenocarina類において一般的な触角は見当たらず、二次的に退化消失した可能性がある^[3][7]。

胴部は約28から45節ほどの細いリング状の体節（胴節）からなり^[3]、後方ほど僅かに小さくなるが、ほぼ同形で、他の多くのHymenocarina類に見られる胸部と腹部の区分はない^[2]。各体節の後縁には細かな棘、腹面中央には1枚の砂時計型の腹板（sternite）^[2]、両腹面には枝分かれた1対の付属肢（胴肢）をもつ^[3]。胴肢の最も外側の枝は単調な鰭状で、内側の枝は十数節に分かれた歩脚型、後者は複数節に分れた原節（protopod）と7節の内肢（endopod）を表した可能性がある^[2]。Briggs & Whittington 1981 では、歩脚型の枝は途中から2つに枝分かれる二叉型と解釈された^[3]。

胴部の末端に続く尾節（telson）は3枚の平たい突起があり、飛行機の尾翼のように1枚は背面、2枚は左右に向けて張り出している^[3]。それぞれの突起は先端が尖り、外側に沿って2本の目立たない棘が生えている^[3]。

消化管の直径は体節の1/4ほど広く、頭部の所で腹面に曲がり返して、大顎直前の後ろ向きの口まで伸ばしたと考えられる^[3]。肛門は尾節の末端、すなわち3本の突起の間に開く^[3]。Butterfield 2002 によると、消化管はレアンコイリアなどに似た消化腺（digestive gland）がある^[8]。

生態[編集]

オダライアは活動的な遊泳性の海棲動物（ネクトン）であったと考えられる^[3][5]。ほとんどの胴肢は着地できないほど背甲に覆われたため、歩行用ではなく、波打つるように連動して遊泳や呼吸などの役割を果たした可能性が高い^[3][5]。また、大型かつ重心が体の背面に集中するため、現生のカブトガニ類のように仰向けで泳いた方がバランスと安定性を維持しやすかったと考えられる^[3][9]。尾節の突起はバランスと安定性を維持する他、ステアリングにも用いられたと考えられる^[3][5]。背甲と胴肢の空間で水流を作り、そこに流れ込んだ水中から餌をとったと推測される^[3][5]。大きな複眼と消化腺をもつことは活動的な捕食性を示唆する^[5]が、強大な口器や捕獲器はなかったため、餌は濾過摂食で獲れるほど微小な有機物であったと考えられる^[3]。

分類[編集]

いくつかの基本体制の共通点（頭部と胴部前半を覆い被さる二枚貝状の背甲・第2体節付属肢の欠如・大顎・リング状の体節）を基に、オダライアはカナダスピス、ワプティア、ブランキオカリスなどと共にHymenocarina類（目）に分類される^[2][10]。この類自体の系統位置は議論的で、1990年代から2010年代中期にかけて一般に基盤的な真節足動物と考えられてきた^{[11][12][13][14][15][16][17][18][19][20]}が、2010年代後期以降では大顎の再発見で大顎類と見直されつつある^{[2][21][22][10][23][24][25][26][27][28][7][29][30]}。

Hymenocarina類の中で、オダライア、ネレオカリスとフィブラカリスはいくつかの共通点（触角の退化・数多くの体節・同形の胴肢）を基に、時おり非正式的に「オダライア類」（odaraiids）としてまとめられている^[2]。中でもオダライアの特徴のうち、胸部と腹部の区分をもたない胴部はフィブラカリスに、両縁が向き合うほど円筒状の背甲はネレオカリスに似ている^[7]。しかし、この分類体系の単系統性は系統解析による支持を得られていない^[7]。

• 
  フィブラカリス

1990年代以前では、オダライアは一般に甲殻類と考えられた^[5]。原記載（Walcott 1912）では、オダライアは同じHymenocarina類のカナダスピスと共に軟甲類の甲殻類として分類され^[4]、その後のいくつかの文献記載（Fedotov 1925^[31], Henriksen 1928^[32]）もこの見解を踏襲していた。Størmer (1944, 1959) ではオダライアは甲殻類から除外された^[33]が、Moore 1969 に目と科未定のコノハエビ類の軟甲類として分類された^[34]。Simonetta & Delle Cave 1975 ではオダライアは新設したオダライア目（Odaraida）オダライア科（Odaraiidae）に含まれ、同目の新属新種 Eurysaces pielus も記載された^[35]。Briggs & Whittington 1981 ではオダライアに対して全面的な再記載を行われ、前述の Eurysaces pielus はオダライアの唯一の種 Odaraia alata のシノニムと見直された^[3]。オダライアの甲殻類的特徴、特に鰓脚類との類似点（数多くの体節・二枚貝状の背甲・複眼と単眼の配置・触角の退化など）をいくつか列挙されたが、甲殻類として異様な性質（特に尾翼状の尾節）も兼ね備え、また甲殻類との類似もほとんどが単に節足動物の祖先形質に過ぎない可能性が高く、甲殻類には含まれにくいことも示された^[3]。

オダライア（オダライア属 Odaraia）は、カナダブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩（バージェス動物群、カンブリア紀ウリューアン期、約5億1,000万 - 5億500万年前^[1]）で見つかった模式種（タイプ種）Odaraia alata のみ含まれる^[5]。

脚注[編集]

参考文献[編集]

関連項目[編集]

• Hymenocarina - オダライアが所属する目
  • ブランキオカリス、カナダスピス、ワプティア - オダライアと同じバージェス動物群における代表的なHymenocarina類
  • ネレオカリス、フィブラカリス - オダライアに似た特徴をもつとされるHymenocarina類
• バージェス頁岩、バージェス動物群