カバ

カバ
カバ
カバ Hippopotamus amphibius
保全状況評価[1][2]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 偶蹄目/鯨偶蹄目
Artiodactyla/Cetartiodactyla
: カバ科 Hippopotamidae
: カバ属 Hippopotamus
: カバ H. amphibius
学名
Hippopotamus amphibius
Linnaeus 1758[1][3]
和名
カバ[4][5]
英名
Common hippopotamus[1]
Hippopotamus[1]
Large hippo[1]

カバ(河馬、Hippopotamus amphibius)は、哺乳綱偶蹄目鯨偶蹄目とする説もあり)カバ科カバ属に分類される偶蹄類。

分布[編集]

サハラ砂漠以南のアフリカ大陸[1]

アルジェリアエジプトエリトリアモーリタニアリベリアでは絶滅[1]

形態[編集]

直線上に並んでいる眼・鼻孔・外耳を水中から出して周囲の様子をうかがう
大きく開いた顎と歯

体長3.5 - 4メートル[5]。体重はオス平均1,500kg 、メス平均1,300kg[6] [7] 。非常に大型のオスだと2,000kgを超えることもある。陸上動物としてはゾウサイに次ぐ3番目の重さとされる。分厚い脂肪と真皮・上皮で覆われるが、表皮は非常に薄い[5][4]。このため毛細管現象により水分は外側へ放出してしまう[4]。皮膚は乾燥すると裂けてしまい、水分消失量は5平方センチメートルあたり10分で12ミリグラムともされこれは人間の約3 - 5倍の水分消失量にあたる[4]

頭部は大型[5]。顔の側面に鼻・眼・耳介が一直線に並んで位置する[5]。これにより水中から周囲の様子をうかがいながら、呼吸することができる[5]。鼻孔は内側の筋肉が発達して自由に開閉することができ、水中での浸水を防ぐことができる[5]。下顎の犬歯は50センチメートルに達することもあり[8]、下顎2本の重量はオス2.1キログラム、メス1.1キログラムに達することもある[4]。一生伸び続けるが、上下の歯が噛みあい互いをすり減らすことで短く、鋭くなる[8]。闘争時にはこの犬歯が強力な武器となる。第3・4指の間が膜で繋がり水かき状になる[5]

皮膚表面を保護する皮脂腺・体温調節のための汗腺を持たないが、「血の汗」などと呼ばれるピンク色の粘液を分泌する腺がある[5][4]。この粘液はアルカリ性で乾燥すると皮膚表面を保護し、赤い色素により紫外線が通過しにくくなる[5][4]。主成分も分離されており、ヒポスドール酸 (hipposudoric acid)、ノルヒポスドール酸 (norhipposudoric acid) と命名されている[9][10]。 この粘液に細菌の増殖を防ぐ働きもあり、傷を負って泥中に入っても化膿するのを防ぐことができる[4][5]

生態[編集]

2000年代における棲息域
かつての棲息域
カバの親子
水より比重が大きいため、水底を歩くことができる

10 - 20頭のメスと幼獣からなる群れを形成して生活するが、乾季には100 - 150頭の群れを形成することもある[5]。オスは単独で生活するか、優位のオスは群れの周囲に縄張りを形成する[4][5]。口を大きく開ける・糞をまき散らす・後肢で蹴りあげる・鼻から水を出す・唸り声をあげるなどして威嚇し縄張りを主張するが、オス同士で犬歯で噛みつくなど激しく争うこともあり命を落とすこともある[4][5]。縄張りは頭や体を低くする服従姿勢をとれば他のオスも侵入することはできるが[5]、他のオスが縄張り内で交尾することは許容しない[4]。8年以上同じ縄張りを防衛することもあり[4]、このうちの1頭が12年縄張りを防衛した例もある[5]。 昼間は水中で生活し、夜間は陸上に上がり採食を行う[4][5]。陸上での行動範囲は水場から3キロメートルだが、水場と採食場の途中に泥浴びを行える場所があればさらに拡大し、水場から最大で10キロメートル離れた場所で採食を行うこともある[4][5]。通常体内に多量の空気を溜めこむと浮力により潜ることが困難になるが、四肢の重さにより潜水が可能になっている[8]。水中では泳がずに、後肢を後方へ伸ばし前肢だけで水底を移動する[5]。素早く水中を移動するときは後肢を用いることもある[5]。潜水時間は1分で、最長で5分[5]。陸上では短距離であれば時速30kmで走る事が出来る[11]

食性は植物食で、草本・根・木の葉などを食べる[5]。一晩のうち4 - 6時間ほどをかけて、30 - 40キログラムの食物を食べる[5]。体重と食事量の比率は、他の植物食の動物よりも低い(乾燥重量にすると体重の1 - 1.5 %、有蹄類では約2.5%)[4]。飼育下では体重4000キロのゾウ類は1日あたり約200キログラムの食物を食べるが、体重1500キロの本種は約50キログラムの食物を食べるとされる[5]。これは昼間に温度変化の少ない水中でほとんど動かずに、エネルギー消費を抑えているためと考えられている[5][4]

水中での睡眠時には呼吸のために無意識に浮上することがある。成体の場合、通常5分おきに浮上し、呼吸をしてまた潜水する。[8]

天敵はライオンである。ベナンではライオンの獲物のうちカバが17%を占める[12]コンゴではライオンの獲物のうちカバが20%を占め、ザンビアではライオンの重要な獲物になっている[13]

発情期間は2 - 3日[5]。飼育下では交尾時間は12 - 17分の例がある[5]。妊娠期間は210 - 240日[5]。主に水中で1回に1頭の幼獣を産む[5]。オスは生後5歳、メスは生後4歳程度で性成熟する[5]。平均寿命は約30年[5]

人間との関係[編集]

1864年に村上英俊によって編纂された仏和辞典『仏語明要』では、hippopotama の訳語を「川馬」としている[14]。1872年の石橋政方訳『改正増補英語箋』では hippopotamus の訳語を「河馬」としたうえで、読みを「かば」としている[14]。古くは hippopotamusが「海のウマ」と訳されることもあったようで、日本でも1862年の『英漢字典』・1872年の『英和字典』・1862年の『英漢字典』などでは hippopotamus の訳語を「海馬(うみうま)」としている[14]

ウガンダのエドワード湖ジョージ湖では個体密度(クイーン・エリザベス国立公園で1平方キロメートルあたり31頭に達することもあった)が高く、採食活動により湖岸の森林が消失し土壌が侵食された[4]。そのためアフリカ大陸では初めて野生動物の人為的管理計画として1962 - 1966年に生態的調査を行いつつ間引きが実施された[4]。これにより沿岸の植生が回復し他の動物の生息数も増加したが、間引きが停止すると状況は戻ってしまった[4]。ウガンダのクーデターによりこの試みは棚上げとなり密輸が横行するようになったが、本種の生態的知見はこうした計画による調査から得られたものも多い[4]

農地開発や湿地開発による生息地の破壊や水資源の競合、食用や牙用の乱獲などにより、1990年代から2000年代にかけて生息数は減少した[1]。2017年の時点では、以後は生息数は安定していると考えられている[1]。アフリカ東部や南部では地域によっては生息数が激減したものの、未だ生息数は多いと考えられている[1]。一方で2003年にコンゴ民主共和国では8年間で生息数が約95 %激減したという報告もある[1]。密猟・密輸されることもあり、特に政情が不安な地域では横行することもある[1]。1989 - 1990年には15,000キログラム、1991 - 1992年には27,000キログラムの牙が密輸されたと推定されている[1]。1995年にワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]

日本では2021年の時点でかば科(カバ科)単位で特定動物に指定され、2019年6月には愛玩目的での飼育が禁止された(2020年6月に施行)[15]

カバ牙の利用
ワシントン条約で国際取引が禁止されている象牙の代替品として、カバの牙が印鑑や工芸品の高級素材として使われることがある[16]。アフリカ大陸北東部(要するにかつて生息していたナイル川周り)の民族には、水の精タウエレトとして崇められ、カバを象った面とカバの牙から作った呪い用の杖バース・タスク英語版を持って占いの儀式を行った[17]

コロンビア[編集]

コロンビアにおいては、かつてパブロ・エスコバルが自宅の動物園で飼育するために密輸した、通称“コカインカバ”の子孫たち[18]が脱走・繁殖して問題となっている。

飼育[編集]

かつて、移動動物園をしたカバヤ食品の「カバ子」は、後に「デカ」と改名されいしかわ動物園で飼育された[19]東山動物園のカバの番(つがい)「重吉」(2代目)と「福子」(初代)は19頭の仔をもうけ、日本国内最多産記録を作った[20]。技術の向上から、1997年に大阪市天王寺動物園では日本で初めてガラス越しに水中を歩くカバを観察できるカバ舎を製作した[21]。この展示スタイルは富士サファリパークの「ワンダー・オブ・ピッポ」なども追随している。また、神戸市立王子動物園はスロープの傾斜を緩くしたバリアフリーを配慮したカバ舎を2003年に造っている。

その他[編集]

  • 名古屋鉄道関連会社の名鉄整備のCIとしてカバをモチーフにした「ヒポポタマス」というキャラクターを使用している。創業当時使用されていたボンネットバスの整備中の姿がカバに似ていたためこのキャラクターが生まれた。また自社が名古屋発祥で中部圏に広まった事と名古屋東山動物園で飼育されていたカバの重吉・福子の子孫が全国の動物園に広まっていたことにあやかって、ユーザーの事業が全国に広まるようにという願いもこめられている。[22]
  • 1981年東武動物公園開園に当たり、上野動物園でカバの飼育で名を馳せ、漫画『ぼくの動物園日記』のモデルとなった西山登志雄が初代園長に就任し、「カバ園長」として親しまれた。
  • 実際の生態や接触の少なさとは別に、古くから絵本やアニメ映画に擬人化して取り上げられることが多く、世界的に子どもから親しまれ、野生動物の中では著名な部類である。

呼称[編集]

属名 Hippopotamus は、「カバ」を意味する hippopotamus (ヒッポポタムス)をそのまま用いたもので、大プリニウス『博物誌』等にも言及のある古い言葉である。 さらに遡れば ἱπποπόταμος (ヒッポポターモス; < ἵππος 「馬」 + ποταμός 「川」)であり、当時はナイル川下流でも見られたカバに対してギリシア人が命名したものであった。なお、オランダ語では、nijlpaard(< Nijl 「ナイル川」 + paard 「馬」)という。

日本語の「河馬」は近代になってこれを直接訳したか、もしくは、ドイツ語で「カバ」を意味する Flusspferd (< Fluss 「川」 + Pferd 「馬」)を訳したもの。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m Lewison, R. & Pluháček, J. 2017. Hippopotamus amphibius. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T10103A18567364. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-2.RLTS.T10103A18567364.en. Downloaded on 02 May 2021.
  2. ^ a b UNEP (2021). Hippopotamus amphibius. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. [Accessed 02/05/2021]
  3. ^ Peter Grubb, "Hippopotamus,". Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 637 - 722
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t Richard M. Laws 「カバ」斎藤勝訳『動物大百科 4 大型草食獣』、平凡社、1986年、62 - 67頁。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 佐川義明 「安定した水中生活を営む カバ」『動物たちの地球 哺乳類II 6 イノシシ・カバ・キリンほか』第9巻 54号、朝日新聞社、1992年、164 - 166頁。
  6. ^ Owen-Smith, R. Norman (1992). Megaherbivores: The Influence of Very Large Body Size on Ecology. Cambridge University Press 
  7. ^ Pienaar, U. de V.; Van Wyk, P.; Fairall, N. (1966). “An experimental cropping scheme of Hippopotami in the Letaba river of the Kruger National Park”. Koedoe 9 (1). doi:10.4102/koedoe.v9i1.778. 
  8. ^ a b c d David Duganほか著、五十嵐涼子訳『巨大生物解剖図鑑』、スペースシャワーネットワーク、2016年、224-245頁。 ISBN 978-4-907435-73-8
  9. ^ カバの赤い汗から新物質のヒポスドリック酸を分離 紫外線カット(UVカット)、細菌防止に効果?(2004年6月24日時点のアーカイブ
  10. ^ 橋本貴美子、犀川陽子、中田雅也「カバの赤い汗に関する化学」『有機合成化学協会誌』第64巻第12号、有機合成化学協会、2006年、1251-1260頁、doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.64.1251 
  11. ^ Estes, R. (1992). The Behavior Guide to African Mammals: including hoofed mammals, carnivores, primates. University of California Press. pp. 222–226. ISBN 978-0-520-08085-0. https://archive.org/details/isbn_0520080858/page/222 
  12. ^ Leiden University (2011年10月25日). “Lions of West Africa : ecology of lion (Panthera leo Linnaeus1975) populations and human-lion conflicts in PendjariBiosphere Reserve, North Benin”. 2022年7月26日閲覧。
  13. ^ R. Norman Owen-Smith (1992年3月). “Megaherbivores: The Influence of Very Large Body Size on Ecology”. 2022年7月28日閲覧。
  14. ^ a b c 遠藤智比古 「カバの訳語考」『英学史研究』第1990巻 22号、日本英学史学会、1989年、119 - 136頁。
  15. ^ 特定動物リスト (動物の愛護と適切な管理)環境省・2021年5月2日に利用)
  16. ^ Identification Guide for Ivory and Ivory Substitutes(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約世界自然保護基金、トラフィック発効のPDF)
  17. ^ Stephen Quirke: Birth Tusks:The Armory of Health in Context-Egypt-1800 BC、Middle Kingdom Studies 3. London 2016、 ISBN 9781906137496 pp.179-209
  18. ^ “米裁判所、カバを「人間」として認める”. (2021年11月8日). https://tabi-labo.com/301871/wt-cocaine-hippos-become-humans 2022年1月1日閲覧。 
  19. ^ “58歳国内最高齢のカバ死ぬ カバヤ食品、宣伝で活躍”. 47news(共同通信. (2010年8月5日23:13). オリジナルの2011年2月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110205124918/http://www.47news.jp/CN/201008/CN2010080501000923.html 2013年5月11日閲覧。 
  20. ^ “カバ”. 東山動植物園. オリジナルの2013年5月11日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2013-0511-1704-15/www.higashiyama.city.nagoya.jp/04_zoo/04_02shokai/04_02_01/04_02_01-30.html 2013年5月11日閲覧。 
  21. ^ 飼育課:長瀬健二郎 (2006年10月). “アフリカサバンナゾーン完成”. 天王寺動物園発行情報誌『なきごえ』 vol.42-10 2006.10 Autumn. 大阪市天王寺動物園web(公益社団法人日本動物園水族館協会web内). 2013年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月11日閲覧。
  22. ^ 名鉄整備ロゴマーク「ヒポポタマス」の由来(2015年3月16日時点のアーカイブ[出典無効]

関連項目[編集]