琥珀

琥珀
Baltic amber. Polished stones
バルト海産の琥珀
分類 有機鉱物
シュツルンツ分類 10.C その他の有機鉱物
化学式 主成分 C10H16O+(H2S)>
結晶系 非晶質
へき開 なし
断口 貝殻状断口
モース硬度 2 ~ 2.5
光沢 樹脂光沢無光沢
蜂蜜色白色黒色
条痕 白色
密度 1,05 ~ 1,096(g/cm3)
光学性 透明、半透明、不透明
プロジェクト:鉱物Portal:地球科学
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琥珀のペンダント
古代から続く琥珀の道(古代から琥珀市場が開かれていたポーランド、カリシュ市)
2003年に再建された、サンクトペテルブルクエカテリーナ宮殿の「琥珀の間

琥珀(こはく)またはコハク: Amber、アンバー)は、天然樹脂化石であり、宝石である。半化石の琥珀はコーパル: Copal)、加熱圧縮成形した再生コハクはアンブロイド(: ambroid)という[1]

西洋でも東洋でも宝飾品として珍重されてきた。

鉱物に匹敵する硬度を持ち、色は飴色、黄色を帯びた茶色ないし黄金色に近い。

組成[編集]

琥珀は純物質ではないが、主成分は高分子イソプレノイドである。これは、樹液に含まれるテルペンが天然樹脂やその化石となる過程の高温・高圧の下で、酸化蒸発重合などの化学変化を起こし、その結果として生じた重合体である[2]

200℃以上に加熱すると、油状の琥珀油に分解され、さらに加熱を続けると黒色の残留物である「琥珀ヤニ、琥珀ピッチ」という液体になる[3]

名称[編集]

「琥」の文字は、中国において虎が死後に石になったものだと信じられていたことに由来する[4]。日本の産地である岩手県久慈市の方言では、「くんのこ(薫陸香)」と呼ばれる。

英名 amberアラビア語: عنبر‎ (ʿanbar龍涎香のような香りがするもの)に由来する。

古代ギリシアではエーレクトロン(古希: ἤλεκτρον)と呼ばれる。意味は「太陽の輝き」という意味である[5]

英語で電気を意味する electricity は琥珀を擦ると静電気を生じることに由来している[6]

古代ローマでは、 electrumsucinum (succinum)、glaesumglesum[7]などと呼ばれていた[8]

ベルンシュタインドイツ語: Bernstein)はドイツ語で「燃える石」の意で、琥珀を指す。これは可燃性である石であることから名づけられた。

琥珀の利用[編集]

装飾[編集]

ネックレスペンダントネクタイピンボタンカフリンクス指輪などの装身具に利用されることが多い。人類における琥珀の利用は旧石器時代にまでさかのぼり、北海道の「湯の里4遺跡」、「柏台1遺跡」出土の琥珀玉(穴があり、加工されている)はいずれも2万年前の遺物とされ、アジア最古の出土(使用)例となっている[9](ゆえに真珠や翡翠と並び「人類が最初に使用した宝石」とも言われる[10])。また、ヴァイオリンの弓の高級なものでは、フロッグと呼ばれる部品に用いられることがある。宝石のトリートメントとして、小片を加熱圧縮形成したアンブロイド、熱や放射線等によって着色する処理も行われている。

ロシアの琥珀なら宝飾品に使われるのは三割程度と言われ、宝飾品にならない物が工業用として成分を抽出して使われる。

ニス[編集]

熱で融解した琥珀にテレビン油またはアマニ油を溶解させた場合は、「琥珀ニス、琥珀ラッカー」と呼ばれる状態になり、木材の表面保護と艶出しとして塗布される[3]

薬用[編集]

その他の利用法として、漢方医学で用いられることがあったという。

南北朝時代医学者陶弘景は、著書『名医別録』の中で、琥珀の効能について「一に去驚定神、二に活血散淤、三に利尿通淋」(精神を安定させ、滞る血液を流し、排尿障害を改善するとの意)と著している[4]

ポーランドグダンスク地方では琥珀を酒に浸し、琥珀を取り出して飲んでいる。

古生物学[編集]

「アリ入り」琥珀

樹脂の粘性に囚われた小生物(ハエ、アリ、クモ、トカゲなど)や、毛や羽、植物の葉、古代の水や空気(気泡)が混入していることがある。特に虫を内包したものを一般に「虫入り琥珀」と呼ぶ。昆虫やクモ類などは、通常の化石と比較すると、はるかにきれいに保存されることから、化石資料としてきわめて有用である。

小説『ジュラシックパーク』のフィクションの設定は、琥珀内の蚊から恐竜の血とDNAを取り出して復元するというもので、作品発表当時のバイオテクノロジーで実際にシロアリでできたという事例がアイデア元となっている。ただし、数千万年前ともなると琥珀に閉じ込められた生体片のDNAを復元することは実際には不可能である[注 1]

市販の「虫入り琥珀」については、本物偽物も交えて、偽物には精巧稚拙いろいろある。年代の浅いコーパルをあえて琥珀の名称で売っているもの(これは本物)、コーパルなどを溶解させ現生の昆虫の死骸などを封入した模造品、樹脂でなくプラスチックなどで作った偽物、など。

香料[編集]

特定の条件で琥珀を燃やした時に松木を燃やしたような香りがするが、近年の琥珀の香りと呼ばれるものは、人工的に再現された香が特許として取得され使用されている[12][13][14]

それとは別に、近年のアンバーと呼ばれる香には、アンバーグリスを再現したものも指している[15][16]。このアンバーグリスは、琥珀と同様に浜に打ち上げられたマッコウクジラ結石である。

琥珀と似たような香木には、同様に樹脂の化石である薫陸というのも存在するがコハク酸を含まない。

産地[編集]

ポーランド、グダニスク琥珀製造業者組合のパレード

産地だけなら世界中にある。質と量が充実しているのはバルト海沿岸地域とドミニカ共和国。日本では岩手県久慈市で、質は良く、量は世界スケールで見れば少ない。

バルト海沿岸のプロイセンに相当する地域である、ポーランドポモージェ県グダニスク沿岸とロシア連邦カリーニングラード州が世界一の産地となっており、ポーランド・グダニスク沿岸とカリーニングラード州だけで世界の琥珀の85%を産出[17]し、その他でも、リトアニア共和国ラトビア共和国など大半がバルト海の南岸・東岸地域である。

琥珀の道
産地であるバルト海沿岸を中心に、琥珀の交易路が整備された。この交易路は琥珀の道(琥珀街道)という名称が付けられた。
ポーランド
白リン(表面は日光によって赤リン化)
ポーランドは琥珀の生産において圧倒的な世界一を誇り、世界の琥珀産業の80%がグダニスク市にあり、世界の純正琥珀製品のほとんどがこのグダニスク地方で製造される[18]
毎年、グダニスクでは国際宝飾展 AMBERMART が催される。また、琥珀博物館も建てられている。
※注意
バルト海沿岸では、第二次世界大戦に使われた白リン弾から白リンが漏出し、琥珀と間違えて火傷を負う事故が起きている。白リンは海中では発火しないが、人体に接触すると発火発熱するため、注意が呼びかけられている[19]
ドミニカ産のブルーアンバー英語版。青い波長のない光の下では普通の琥珀に見えるが、太陽光では青く見える。
アジア
日本岩手県久慈市近辺[20]。他には福島県いわき市千葉県銚子市などで産出される。
中国各地やミャンマー。インドネシアでは青色の琥珀も見つかっている。
中央アメリカ
ドミニカ共和国メキシコ合衆国ドミニカ産琥珀英語版には、歴史が新しめの熱帯林由来であるため虫や小型爬虫類などが入っている場合が多く、赤や黄色を帯びているものもあるが、有機物質のペリレン由来の青色も存在する[21]

歴史[編集]

もっとも古い琥珀は、上部石炭紀の地層の物とされている[22][23]

欧州では18世紀頃までは海洋起源の鉱物だと考えられていた。海に沈んで上ってくる太陽のかけらや、人魚の涙が石となり、海岸に打ち上げられたのだと広く信じられていた。琥珀と黄金の二宝石は、太陽の化身と特別視された。その一方で、紀元1世紀ローマの大プリニウスの著書『博物誌』には既に植物起源と知られていたことが記されている。

琥珀を擦ると布などを吸い寄せる摩擦帯電の性質を持つことは今日では有名であるが、歴史上最初に琥珀の摩擦帯電に言及をしたとされている人物は、現在は紀元前7世紀哲学者タレスとされている[24][注 2]

琥珀の蒸留物である琥珀油は、12世紀に知られていた。1546年にゲオルク・アグリコラは、コハク酸を発見した[25]。古代ローマの博物学者プリニウスは、既に琥珀が石化した樹脂であることを論じていたが[注 3][6][26]、その証明は18世紀のロシアの化学者ミハイル・ロモノーソフによってなされた[27]。1829年にイェンス・ベルセリウスは、現代的な手法で化学分析を行い琥珀が可溶性および不溶性成分からなることを発見した。

琥珀色[編集]

アンバー
amber
 
16進表記 #FFBF00
RGB (255, 191, 0)
HSV (45°, 100%, 100%)
マンセル値 0.5Y 8/14(?)
表示されている色は一例です

琥珀様の色、透明感のある黄褐色や黄金色黄色寄りのオレンジ色などを琥珀色または英語にならってアンバー: amber)と称し、ウイスキーの色あいなどに詩情を込める表現で用いられる。また、方向指示器黄橙色などもアンバーと称する事例も見られる。 英語では、純色のうちオレンジ色黄色の中間にあたる色(黄橙色)や信号機の黄色を amber と表現する場合がある[28]JIS慣用色名は #C67400 () の色を「こはく色」としている。

なお、JIS慣用色名や絵の具の色名などでアンバーを冠する「アンバー」「バーント・アンバー」「ロー・アンバー」等は、土壌由来の顔料「アンバー: umber)」に由来する茶系の色で、英単語としても別語である。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 生物遺体のDNA情報は521年に半分の割合で欠損するという研究がある。これに基づけば、数千万年前の恐竜時代のDNA情報はほぼゼロとなる[11]
  2. ^ その前は、紀元前4世紀の博物学者テオプラストスと言われていた
  3. ^ また、取引されている琥珀はヨーロッパ北部(バルト海周辺)の産であることも知っていた

出典[編集]

  1. ^ アンブロイド(コトバンク)
  2. ^ Elizabeth Owen; Eve Daintith (2009) (英語). The Facts on File Dictionary of Evolutionary Biology. Infobase Publishing. p. 8. ISBN 9781438109435 
  3. ^ a b Rudler 1911, p. 792
  4. ^ a b 仝選甫「薬食兼用の天産物 No.34 琥珀(コハク)」『漢方医薬新聞』2010年11月25日、8面。
  5. ^ (イーリアス 6.513, 19.398). King, Rev. C.W. (1867). The Natural History of Gems or Decorative Stones. Cambridge (UK). p. 315. http://www.farlang.com/gemstones/king-gems-decorative-stones/page_315 
  6. ^ a b P.A.セルデン・J.R.ナッズ著、鎮西清高訳『世界の化石遺産 -化石生態系の進化-』 朝倉書店 2009年 132ページ
  7. ^ ウィキソース出典 タキトゥス (ラテン語), De origine et situ Germanorum (Germania) [ゲルマニア], ウィキソースより閲覧, "ac soli omnium sucinum, quod ipsi glesum vocant," 
  8. ^ Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Amber (resin)" . Encyclopædia Britannica (英語) (11th ed.). Cambridge University Press.
  9. ^ 『日本の時代史1 白石太一郎編 倭国誕生』 吉川弘文館 2002年 ISBN 4-642-00801-2 p.118 - p.120
  10. ^ 立証は難しいがここでは国内有数の産地である岩手県久慈市の市勢要覧に従う。http://www.city.kuji.iwate.jp/data/open/cnt/3/5165/1/16kuji_youran.pdf
  11. ^ Matt Kaplan "DNA has a 521-year half-life : Nature News & Comment", 2012年10月10日)
  12. ^ Sorcery of Scent: Amber: A perfume myth. Sorceryofscent.blogspot.com (30 July 2008). Retrieved on 23 April 2011.
  13. ^ アメリカ合衆国特許第 3,703,479号
  14. ^ アメリカ合衆国特許第 3,681,464号
  15. ^ Aber, Susie Ward. “Welcome to the World of Amber”. Emporia State University. 2007年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年5月11日閲覧。
  16. ^ Origin of word Electron”. Patent-invent.com. 2010年7月30日閲覧。
  17. ^ http://www.polamjournal.com/Library/APHistory/Amber_in_Poland/amber_in_poland.html
  18. ^ https://books.google.co.jp/books?id=g6NVVpqhixIC&pg=PA137&lpg=PA137&dq=amber+poland+per+cent&source=bl&ots=nzSlMk-CEB&sig=9wrGCk6cBWnH5uLDxB_274GoYvw&hl=ja&ei=7W0WTcOzDI3Qca206eEK&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=0CEcQ6AEwBA#v=onepage&q&f=false
  19. ^ "Phosphorklumpen: Vermeintlicher Bernstein verbrennt Strandbesucher". Spiegel Online. 15 January 2014. 2014年1月15日閲覧
  20. ^ 縄文時代前期から中期にかけての青森市の遺跡・三内丸山遺跡から出土した琥珀は久慈産とされ、この時期から他地域との交流が確認できる。参考・『詳説日本史図録』(山川出版社、第5版2011年) p.3.
  21. ^ Bellani, Vittorio; Giulotto, Enrico; Linati, Laura; Sacchi, Donatella (2005-01). “Origin of the blue fluorescence in Dominican amber” (英語). Journal of Applied Physics 97 (1): 016101. doi:10.1063/1.1829395. ISSN 0021-8979. http://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.1829395. 
  22. ^ Grimaldi, D. (2009). “Pushing Back Amber Production”. Science 326 (5949): 51–2. Bibcode2009Sci...326...51G. doi:10.1126/science.1179328. PMID 19797645. 
  23. ^ Bray, P. S.; Anderson, K. B. (2009). “Identification of Carboniferous (320 Million Years Old) Class Ic Amber”. Science 326 (5949): 132–134. Bibcode2009Sci...326..132B. doi:10.1126/science.1177539. PMID 19797659. 
  24. ^ Electrochemical Supercapacitors for Energy Storage and Delivery: Fundamentals and Applications (Electrochemical Energy Storage and Conversion) 著者: Aiping Yu、Victor Chabot、Jiujun Zhang ISBN 1439869898 p.1
  25. ^ Life in Amber 著:George O. Poinar 23p
  26. ^ ウィキソース出典 ガイウス・プリニウス・セクンドゥス, “Liber XXXVII” (ラテン語), Naturalis Historia [博物誌], ウィキソースより閲覧, "Certum est gigni in insulis septentrionalis oceani et ab Germanis appellari glaesum, itaque et ab nostris ob id unam insularum Glaesariam appellatam, Germanico Caesare res ibi gerente classibus, Austeraviam a barbaris dictam. nascitur autem defluente medulla pinei generis arboribus, ut cummis in cerasis, resina in pinis erumpit umoris abundantia." 
    • 確かな話として、それ(sucinum)は北の海の島々で採れ、ゲルマン人たちはglaesum(ガラス*glasą)と呼んでいる。それゆえ、皇帝ゲルマニクスの艦隊が侵攻した島のひとつを、前述の蛮人たちはAusteraviaと呼ぶが、我々はGlaesaria(ガラスの地)と呼んでいる。それは、例えば桜の樹液や水分を豊富に含む松のレジン(松脂)のような、松の類の樹木から溢れた液体からできている。
  27. ^ Menshutkin, Boris N. (1952). Russia's Lomonosov, Chemist Courtier, Physicist Poet. Princeton: Princeton University Press. ASIN B0007DKTQU
  28. ^ Definition of amber in Oxford Dictionaries (British & World English)”. Oxford Dictionaries. オックスフォード大学出版局. 2013年3月27日閲覧。Definition of amber in Oxford Dictionaries (US English)”. Oxford Dictionaries. オックスフォード大学出版局. 2013年3月27日閲覧。yellow, orange の語も用いられる。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]