シモツケソウ

シモツケソウ
シモツケソウ、伊吹山(滋賀県米原市)にて、2016年8月6日撮影
シモツケソウ、伊吹山滋賀県米原市)にて、2016年8月
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
亜科 : バラ亜科 Rosoideae
: シモツケソウ属 Filipendula
: シモツケソウ F. multijuga
学名
Filipendula multijuga Maxim.[1]
和名
シモツケソウ
変種

シモツケソウ(下野草、学名Filipendula multijuga Maxim.[1])は、バラ科シモツケソウ属分類される多年草の1[3][4][5][6][7][8][9][10][11]

特徴[編集]

根茎は太い[7]は高さ20-100 cm[10]、直立し[8]、細長く、上部で枝分かれする[9]頂小葉は長い葉柄があり[8]奇数羽状複葉[10]、長さ5-10 cmで5-7裂し(5裂のものが多い[6])、先は鋭く尖り、縁に不揃いの鋸歯がある[4]根生葉側小葉は多数あり、長さ3-30 mm[3]、下部のものほど小さく[4]、8-10対が対生する[10]。葉の基部の托葉は半円状で[10]、薄く、乾くと褐色を帯び、茎に沿って立つ[4]直径4-5 mmで[4]、茎頂に集散状散房花序で多数付く[10]花弁は3-5個、倒卵状円形、縁に小さな凹凸があり[8]、淡紅色[4]雄蕊は多数で花弁よりも長く薄紅色、花糸は糸状[8]。花期は6-8月[11][10]雌蕊花柱は4-5個[9]片は4-5個、卵形、鈍頭で反り返り、毛はない[9]果実痩果、左右より扁平な長楕円形で、短い柄があり[7]、無毛だが、ときに縁に毛があり[4]、短い柄がある[3]。痩果の稜に毛がある変種は、アカバナシモツケソウ(赤花下野草、学名:Filipendula multijuga Maxim. var. ciliata Koidz.[2])と呼ばれている[3][9]。白色の花を付ける品種はシロバナシモツケソウ(白花下野草、学名:Filipendula multijuga Maxim. f. albiflora (Makino) Okuyama)と呼ばれている[12]染色体数は2n=14(2倍体)[3]

分布と生育環境[編集]

山地草地に生育するシモツケソウ、国の天然記念物伊吹山頂草原植物群落」(滋賀県米原市)にて

日本の固有種で、本州関東地方以西)、四国九州に分布する[3]基準標本は、日本のもの[3]田中澄江による『新・花の百名山』では、山梨県秩父山地にある乙女高原を代表する花の一つとして紹介されている[13]。変種のアカバナシモツケソウは関東地方北部、長野県と山梨県の山地に分布する[7]

山地帯から亜高山帯にかけての日当たりの良いやや湿った草地に生育し[3][10]、しばしば群落をつくる[4]ハマキガ科ヒメハマキガ亜科ニセギンボシモトキヒメハマキ幼虫食草としている[14]

種の保全状況評価[編集]

日本では以下の多数の都道府県で、レッドリストの指定を受けている。ニホンジカによる食害により、個体数が減少している地域がある[15]滋賀県の国の天然記念物伊吹山頂草原植物群落」においても食害が確認されていて、平成26年に緊急対策として山頂部の西遊歩道で植生保護柵の設置が行われている[16]吉野熊野国立公園特別地域内[17]大山隠岐国立公園[18]阿蘇くじゅう国立公園(阿蘇地域)[19]鈴鹿国定公園特別地域内[20]氷ノ山後山那岐山国定公園[18]などで、許可を受けずに採取又は損傷してはいけない植物の指定を受けている。

利用[編集]

観賞用になどで利用されている[5][10]。葉が黄金色のものもあり、園芸用として販売されている[11]

19世紀の前半、茎や花から鎮痛作用を持つ物質が抽出され、「SPRAEA」からスピール酸と名付けられた。これがアスピリンの原料である[29]

名前の由来[編集]

木本シモツケ(左)と草本であるシモツケソウ(右)

別名がクサシモツケ[4]。学名の名「Filipendula」は、「filum」(糸)と「penduls」(吊り下がった)との2語からなり、根が糸で小球を吊り下げた様子に由来し、種小名「multijuga」(多対の)は、沢山の花梗が対に分岐しているこに由来する[8]和名木本シモツケに似る草本であることに由来する[8][5]。「下野」(栃木県の古名)で多く見られたことに由来する[11]。花の色が薄い個体が、「ウスイロシモツケソウ」と呼ばれることがある[4]

シモツケソウとシモツケとの比較[編集]

シモツケソウとシモツケとの比較を下表に示す。

識別ポイント シモツケソウ シモツケ
外観の画像 シモツケソウ、夜叉ヶ池山(岐阜県揖斐郡揖斐川町)にて(2012年7月25日撮影) シモツケ、伊吹山(滋賀県米原市)にて(2014年6月20日撮影)
形態 茎がある草本[8] 幹がある木本[30]
葉の画像 シモツケソウ、伊吹山(滋賀県米原市)にて(2014年7月15日撮影) シモツケ、弓張山地(愛知県新城市)にて(2018年6月12日撮影)
葉の形態 5裂する頂小葉、先は鋭く尖り
縁に不揃いの鋸歯がある[4]
単葉で、狭卵形-卵形
先端は尖り
縁に不揃いの重鋸歯がある[30]
識別ポイント シモツケソウ シモツケ
花序の画像 シモツケソウ、伊吹山(滋賀県米原市)にて(2016年8月17日撮影) シモツケ、弓張山地(愛知県新城市)にて(2018年6月12日撮影)
花序の形態 集散状散房花序[10]
花期は6-8月[11]
複散房形花序[30]
花期は5-8月[30]
花の画像 シモツケソウ、伊吹山(滋賀県米原市)にて(2016年8月27日撮影) シモツケ、弓張山地(愛知県新城市)にて(2018年6月12日撮影)
花の形態 花弁は3-5個[8]
雄蕊は多数[8]
花弁は5個[31]
雄蕊は25-30個[30]
識別ポイント シモツケソウ シモツケ
果実の画像 シモツケソウ、伊吹山(滋賀県米原市)にて(2015年9月20日) シモツケ、伊吹山(滋賀県米原市)にて(2013年10月12日撮影)
果実の形態 左右寄り扁平な長楕円形で
短い柄がある[7]
球形の袋果で5個集まってつく[30]

脚注[編集]

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “シモツケソウ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月23日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “アカバナシモツケソウ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月24日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h 清水 (2014)、216頁
  4. ^ a b c d e f g h i j k 林 (2009)、410頁
  5. ^ a b c 牧野 (1982)、220頁
  6. ^ a b 久保田 (2007)、148頁
  7. ^ a b c d e 佐竹 (1982)、175頁
  8. ^ a b c d e f g h i j 大川 (2009)、169頁
  9. ^ a b c d e 前沢 (1970)、78-79頁
  10. ^ a b c d e f g h i j 小野 (1987)、433頁
  11. ^ a b c d e 高村 (2005)、230頁
  12. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “シロバナシモツケソウ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月24日閲覧。
  13. ^ 田中 (1995)、161-163頁
  14. ^ 〓、坂巻 (1995)、267頁
  15. ^ a b 福岡県の希少野生生物 福岡県レッドデータブック2011、シモツケソウ”. 福岡県. 2019年1月24日閲覧。
  16. ^ 天然記念物の概要” (PDF). 米原市. pp. 19-20. 2019年1月24日閲覧。
  17. ^ 吉野熊野国立公園特別地域内で許可を受けずに採取又は損傷してはいけない植物”. 三重県. 2019年1月24日閲覧。
  18. ^ a b c 岡山県版レッドデータブック2009” (PDF). 岡山県. pp. 115. 2019年1月19日閲覧。
  19. ^ 阿蘇くじゅう国立公園(阿蘇地域)における行為規制一覧” (PDF). 熊本県. pp. 2. 2019年1月24日閲覧。
  20. ^ 鈴鹿国定公園特別地域内で許可を受けずに採取又は損傷してはいけない植物”. 三重県. 2019年1月24日閲覧。
  21. ^ 宮崎県版レッドリスト及びレッドデータブックについて”. 宮崎県 (2018年4月17日). 2019年1月24日閲覧。
  22. ^ 植物絶滅危惧Ⅰ類(603種)(平成27年度改訂)”. 鹿児島県 (2016年4月27日). 2019年1月24日閲覧。
  23. ^ グリーンデータブックあいち2017 維管束植物編)” (PDF). 愛知県. pp. 41. 2019年1月24日閲覧。
  24. ^ 三重県レッドデータブック2015” (PDF). 三重県. pp. 496. 2019年1月24日閲覧。
  25. ^ 熊本県の保護上重要な野生動植物リスト−レッドリスト2014−、リスト 維管束植物” (PDF). 熊本県. pp. 8. 2019年1月24日閲覧。
  26. ^ 京都府レッドデータブック2015、シモツケソウ”. 京都府. 2019年1月24日閲覧。
  27. ^ 大切にしたい奈良県の野生動植物(植物・昆虫類)のレッドリスト、維管束植物” (PDF). 奈良県. pp. 6. 2019年1月24日閲覧。
  28. ^ レッドデータブックおおいた2011、シモツケソウ” (PDF). 大分県. 2019年1月19日閲覧。
  29. ^ 瀧井康勝『366日誕生花の本』日本ヴォーグ社、1990年11月30日、290頁。 
  30. ^ a b c d e f 菱山 (2011)、129頁
  31. ^ 林 (2011)、276頁

参考文献[編集]

  • 大川勝德『伊吹山の植物』幻冬舎ルネッサンス、2009年10月20日。ISBN 9784779005299 
  • 高村忠彦(監修) 編『季節の野草・山草図鑑―色・大きさ・開花順で引ける』日本文芸社〈実用BEST BOOKS〉、2005年5月。ISBN 4537203676 
  • 久保田修『高山の花―イラストでちがいがわかる名前がわかる』学習研究社、2007年6月。ISBN 978-4054029033 
  • 小野幹雄、林弥栄(監修) 編『原色高山植物大図鑑』北隆館、1987年3月30日。ISBN 4832600079 
  • 清水建美、門田裕一、木原浩『高山に咲く花』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑8〉、2014年3月22日。ISBN 978-4635070300 
  • 菱山忠三郎(監修) 編『樹皮・葉でわかる樹木図鑑』成美堂出版、2011年6月。ISBN 978-4415310183 
  • 田中澄江新・花の百名山文藝春秋、1995年6月。ISBN 4-16-731304-9 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年3月17日。ISBN 458253502X 
  • 〓良燮、坂巻祥孝「北海道産ハマキガ科とシンクイガ科(鱗翅目)の新寄主植物」『蝶と蛾』第45巻第4号、日本鱗翅学会、1995年、doi:10.18984/lepid.45.4_263NAID 110007708010 
  • 林弥栄『日本の樹木』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2011年11月30日。ISBN 978-4635090438 
  • 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421 
  • 前沢秋彦『高山植物』保育社〈標準原色図鑑全集 11〉、1970年1月。ISBN 4586320117 
  • 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZENCID BN00811290全国書誌番号:85032603https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001728467-00 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]