チャパラ湖

チャパラ湖
ハリスコ州チャパラから西方向を眺望
チャパラ湖の位置(メキシコ内)
チャパラ湖
チャパラ湖 (メキシコ)
チャパラ湖の位置(ハリスコ州内)
チャパラ湖
チャパラ湖 (ハリスコ州)
チャパラ湖の位置(ミチョアカン州内)
チャパラ湖
チャパラ湖 (ミチョアカン州)
所在地 ハリスコ州ミチョアカン州
位置 北緯20度12分 西経103度07分 / 北緯20.200度 西経103.117度 / 20.200; -103.117
流域国 メキシコの旗 メキシコ
面積 1,112 km2
周囲長 215 km
最大水深 11 m
平均水深 4.5 m
水面の標高 1,524 m
淡水・汽水 淡水湖
プロジェクト 地形
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衛星写真。左上の小さな湖はカヒティトラン湖スペイン語版

チャパラ湖(チャパラこ、スペイン語: Lago de Chapala)は、メキシコ中西部にある淡水湖。メキシコで最大のである[1][2]

概要[編集]

メキシコ中西部のハリスコ州ミチョアカン州に跨る位置にあり、うちほとんど(86%)はハリスコ州が占める。標高は1,524 m。長さ82 km、幅19 kmで、東西に細長い形をしている。深度は浅く、平均深さ4.5 m、深いところでも11 m程度である。面積は1,112 km2だが、歴史的には縮小傾向にある。水量が降水量や流入河川の水量、周囲の開発等により変動するため、過去には812 km2まで減少したことがある[1]

シエラ・マドレ山脈英語版西シエラ・マドレ山脈、メキシコ新期火山帯が交接する高原にあり、盆地状の地域が火山によって堰き止められて形成されたと考えられている[3][4][5]

680万年前に形成された古代湖である[6]

河川[編集]

主な河川には、トルーカ付近を水源とし、チャパラ湖東部へ流入するレルマ川英語版(全長734 km)と、チャパラ湖北東部から流出し太平洋へ注ぐグランデ・デ・サンティアゴ川英語版(全長460 km)がある。この両河川を合わせてレルマ-チャパラ-サンティアゴ水系をなし、その流域総面積は12万 km2に及ぶ[7]。上流であるレルマ川流域には多くのダムが建設され、ミチョアカン州とグアナフアト州穀倉地帯形成に寄与している[1][3][5][6]

主な流入河川
流出河川

気候[編集]

レジャーや漁獲のため多くの舟が浮かぶ。

温暖な気候で、平均気温は19度、平均水温は21度であり、凍結することはない。快適な気候を生かし、魚釣りや舟遊びなどのレジャーが楽しめるため、大衆的な観光地保養地として発展を遂げた[1][2]

周辺[編集]

湖畔の観光地・チャパラ。

湖の北48 kmの位置に、メキシコの第二都市でハリスコ州の州都グアダラハラがある。湖畔の町としては、オコトラン英語版スペイン語版チャパラ英語版ティサパン・エル・アルト英語版ハマイ英語版スペイン語版など。特に北岸のチャパラは、19世紀末にグアダラハラ在住のイギリス人が湖畔に別荘を建て、風光明媚で温暖な地と紹介したことから観光地としての開発が進んだ。ほか、民芸品の産地であるアヒヒック英語版、織物の産地ホコテペク英語版など[1][8][9][10]

20世紀中盤以降は、退職した米国人が引退後に移住する場所として人気がある[11][12][13]

経済と環境[編集]

国際宇宙ステーションからの衛星画像。右下方向が北。左下が東岸にあたり、干拓地が農地となっている。
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国際宇宙ステーションからの衛星画像。右下方向が北。左下が東岸にあたり、干拓地が農地となっている。

先コロンブス期には土着の半農半漁の民族集団が湖畔に複数存在したが、17世紀末からスペイン人による本格的な入植が始まった。19世紀末にイギリス人による別荘開発を契機に観光地として開発され、一大ブームとなった。1920年には鉄道も敷かれ、グアダラハラやメキシコシティとも繋がった。当時のメキシコ大統領ポルフィリオ・ディアスも同地で長期休暇を過ごすなど上流階級の社交場ともなり、イギリスの作家デーヴィッド・ハーバート・ローレンスのメキシコを舞台にした小説『翼ある蛇』(The Plumed Serpent)も同地で執筆された[1][8]

1906年には東岸のオコトラン、ラバルカ英語版ラパルマスペイン語版にかかる一帯が干拓され、5万ヘクタールの農地となった(うち4.5万ヘクタールがミチョアカン州)[1][4]

チャパラ湖の湖水域は増減を繰り返しながら総体的には縮小傾向にあり、1970年代に1,740 km2あったが、1980年代には1,048 km2、2001年には812 km2となった。これはレルマ川流域の農地開発が進み、河畔の農地での水使用量増加に伴う流入水量の減少や、同湖を水源とするグアダラハラ都市圏の急激な人口増加が原因と考えられる。実際にチャパラ湖の湖水はグアダラハラへポンプ送水され、産業用水の6割を担っているとされる。気候の変動も加わって年間の蒸発量(1,910 mm)が降水量(893 mm)の2倍を超えている状況にある。レルマ川からは沿岸の工場排水、生活排水、畜産汚水、重金属なども流れ込むため、湖水の減少も相まって水質の悪化、富栄養化が深刻化しており、この影響か藻類の異常繁殖や外来種の増加も見られる。先コロンブス期から白魚が湖の名物として知られていたが、漁獲量は1980年代の600 tから近年では100 t未満に減少した[1][14]

こういった状態を改善するため、規制の強化、汚染源の削減、生産システムの改善、ガバナンス強化の促進に向けて取り組んでいる組織や関係諸機関が増えている。2007年にチャパラ湖でメキシコ国内では初めて統合的湖沼流域管理(ILBM)プラットフォームが取り入れられた[6]

自然[編集]

チャパラ湖に飛来するペリカンの群れ。
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チャパラ湖に飛来するペリカンの群れ。

湖内には2つの小規模な島がある。このうち大きい方のメスカラ島スペイン語版はかつてメキシコ独立戦争の激戦地で、現在でも当時の遺構が残されている[15]。小さい方のアラクラネス島英語版スペイン語版は、西シエラ・マドレ山脈に住む先住民族のウイチョル族から、先祖が生まれ出た島として神聖視されている[1]

湖畔には泥火山間欠泉がある。チャパラの町には温泉が湧出し、観光資源のひとつになっている[5][9]

冬期にはペリカンの飛来地として有名で、湖を覆いつくすような鳥の群れが観光の目玉になっている[16]。また、アメリカサンカノゴイコオニクイナなどの鳥類およびオナシハナナガコウモリ英語版クビワペッカリーピューマなどの哺乳類も見られる[17]

魚類の種類も豊富で、9つのグーデア科英語版Goodeidae)の固有亜科が見られるほか、独自の進化を遂げたトウゴロウイワシ科英語版AtherinidaeMenidia contrerasiMenidia sphyraenaMenidia promelasなどを含む[17])や、湖固有のアメリカナマズ科英語版IctaluridaeIctalurus dugesiiなどを含む[17])、ハマギギ科イトヒキハマギギ属英語版Bagre)、コイ科ヤツメウナギなどの魚が生息している。シャジクモ目Charales)に属する希少な藻類も確認できる[18]

またザラアシドロガメの亜種・チャパラドロガメ(Kinosternon hirtipes chapalaense[19]メキシコガーターヘビ英語版の亜種Thamnophis eques obscurus[20]など、大部分がチャパラ湖にしか生息しない爬虫類も存在する。

このような生物多様性の重要性が再認識され、2009年にラムサール条約に登録された[1][17]

語源[編集]

チャパラの名称は先住民の言葉に由来するが、意味は「水浸しの場所」「水の上のバッタ」「小さな鍋」など諸説ある[8]

画像[編集]

チャパラの町・高さ25 mからのパノラマ風景。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j 『世界地名大事典』(2014)「チャパラ湖」。
  2. ^ a b 『ブリタニカ』小項目4(1991)。
  3. ^ a b 『日本大百科全書』(1988)。
  4. ^ a b 『世界大百科事典 3』(1988/2007)。
  5. ^ a b c 『コンサイス 外国地名事典』(1998)。
  6. ^ a b c アレハンドロ・フアレス・アギラール「メキシコの湖:磨かれる鏡」(PDF)『NEWSLETTER ~水を守り 湖を救う~』67号、公益財団法人 国際湖沼環境委員会(ILEC)、滋賀県草津市、2020年3月、3頁、ISSN 0912-74022023年3月4日閲覧 
  7. ^ ポルトガル(約9.2万 km2)やオーストリア(約8.3万 km2)の面積を上回り、ギリシャ(約13.2万 km2)に匹敵する。
  8. ^ a b c 『世界地名大事典』(2014)「チャパラ」。
  9. ^ a b 『マイペディア』(1994)。
  10. ^ 『地球の歩き方 B19』(2014)。
  11. ^ naomi 「メキシコ最大の湖:チャパラ湖」 - 地球の歩き方Web、 2011年11月22日公開、2023年3月5日閲覧。
  12. ^ 桜井悌司 「統計・ランキングに見るラテンアメリカその8 引退生活に適した国ランキング2020」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会、2020-07-13公開、2023年3月5日閲覧。
  13. ^ McCleery, Kathleen (2015年7月7日). “Why Retirees are Flocking to Mexico (Video Report)”. PBS NewsHour. https://www.vallartadaily.com/why-retirees-are-flocking-to-mexico-video-report/ 2023年3月5日閲覧。 
  14. ^ 中村正久第18回世界湖沼会議 メキシコの湖沼を通して考える持続可能な社会の構築」(PDF)『NEWSLETTER ~水を守り 湖を救う~』67号、公益財団法人 国際湖沼環境委員会(ILEC)、滋賀県草津市、2020年3月、2頁、ISSN 0912-74022023年3月4日閲覧 
  15. ^ Robert M. Burnet "The Battle Of Mezcala Island", Chapala.com, 2023-03-05閲覧。
  16. ^ 冬のメキシコは野生動物観察の宝庫【メキシコ】 - 海外旅行・海外生活の情報ならワウネタ海外生活 -メキシコナビ-(エイアイエスイー株式会社)、2020/02/03、2022/03/04閲覧。
  17. ^ a b c d Lago de Chapala | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2011年1月1日). 2023年4月14日閲覧。
  18. ^ Rodrigo Moncayo-Estrada & Héctor René Buelna-Osben (2001). “Fish Fauna of Lake Chapala - Past and Present”. The Lerma-Chapala Watershed (Jiutepec, Mexico: Mexican Institute of Water Technology): 215-242. doi:10.1007/978-1-4615-0545-7_10. ISBN 978-1-4613-5125-2. https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4615-0545-7_10 2023年3月4日閲覧。. 
  19. ^ Rhodin, A.G.J.; J.B. Iverson; R. Bour; U. Fritz; A. Georges; H.B. Shaffer; P.P. van Dijk (2017). Turtles of the World: Annotated Checklist and Atlas of Taxonomy, Synonymy, Distribution, and Conservation Status. 7 (8 ed.). 1–292. doi:10.3854/crm.7.checklist.atlas.v8.2017. ISBN 9781532350269. http://images.turtleconservancy.org/documents/2017/crm-7-checklist-atlas-v8-2017.pdf 
  20. ^ Conant, R. (2003). “Observations on garter snakes of the Thamnophis eques complex in the lakes of Mexico's transvolcanic belt, with descriptions of new taxa”. American Museum Novitates (3406): 1–64. doi:10.1206/0003-0082(2003)406<0001:OOGSOT>2.0.CO;2. hdl:2246/2832. https://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/178201. 

参考文献[編集]

  • 『世界地名大事典 9 中南アメリカ』 朝倉書店、2014年、730頁「チャパラ」項(篠原愛人著)、731頁「チャパラ湖」項(篠原愛人著)。
  • 『日本大百科全書 15』 小学館、1987年、377頁「チャパラ湖」項(高木秀樹著)。
  • 『世界大百科事典 18』 平凡社、1988年初版/2007年改訂新版、156頁「チャパラ[湖]」項(田嶋久著)。
  • 『【新訂】マイペディア 小百科事典』 平凡社、1994年、904頁「チャパラ(湖)」項。
  • 『ブリタニカ国際大百科事典 4 小項目事典TBSブリタニカ、1974年初版/1991年第2版改訂、342頁「チャパラ湖」項。
  • 『コンサイス 外国地名事典 〈第3版〉』 三省堂、1998年、570頁「チャパラ湖」項。
  • 地球の歩き方 B19 メキシコ 2015-2016版』 ダイヤモンド・ビッグ社、1985年初版/2014年改訂17版第1刷、148頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]