テルル化水銀

テルル化水銀
識別情報
CAS登録番号 12068-90-5 チェック
特性
化学式 HgTe
モル質量 329.18 g/mol
外観 黒に近い色をした立方晶
密度 8.1 g/cm3
構造
結晶構造 閃亜鉛鉱型構造、cF8
空間群 F-43m, No. 216
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

テルル化水銀 (Mercury tellurid)とは、化学式HgTeで表される水銀テルル二元化合物であり、II-VI族半導体に関連した半金属である。テルル化水銀はコロラド鉱英語版として自然に産出する。

性質

[編集]

化学的性質

[編集]

テルルと水銀の結合は弱く、その生成熱はおよそ-32 kJ/molである。これは、水銀の同族元素であるカドミウムとテルルとの化合物であるテルル化カドミウムの生成熱と比較して1/3にも満たない。テルル化水銀は、例えば臭化水素酸のようなによって容易に腐食される。

物理的性質

[編集]

テルル化水銀は立方晶系結晶構造を取り、その格子定数はおよそ0.646 nmである。体積弾性係数は42.1 GPa熱膨張率はおよそ5.2×10-6 K-1。静的比誘電率は20.8、動的比誘電率は15.1である。熱伝導率は2.7 W·m2/m·K。前述の結合の弱さに起因して硬度は2.7×107 kg/m2と低い。

ドープ

[編集]

テルル化水銀に亜鉛などを不純物としてドープすることでp型半導体が形成される。また、ホウ素アルミニウムガリウムインジウムなどの第13族元素ヨウ素およびなどをドープすればn型半導体となる。テルル化水銀自体は、伝導帯価電子帯が重なり合った半金属であり[1]、水銀のエネルギーバンド上に生じる正孔がキャリアーとして働き、p型半導体のようにふるまう。

結晶成長

[編集]

テルル化水銀のバルク結晶は、高水銀蒸気圧下で溶融した水銀およびテルルから結晶成長させることで得られる。また、スパッタリングや有機金属気相成長法によってエピタキシャル成長をさせることができる。

トポロジカル絶縁体

[編集]

2007年、テルル化水銀の量子は独特の新しい物質状態である「トポロジカル絶縁体」の特性をよく示すことが理論的および実験的に明らかとされた[2]。このような物質は、バルク状態では絶縁体であるが、試料末端近傍の限られた位置においては、その電子の状態ために電流を流すことができる。量子ホール効果とは異なり、この独特の状態を作り出すために磁場を必要としない。さらに、逆位置の試料末端近傍では逆のスピンが投影される。

出典

[編集]

参考文献

[編集]
  • Properties of mercury cadmium telluride, Ed. J. Brice and P. Capper, EMIS datareview, (INSPEC, IEE, London, UK, 1987).
  • Properties of Narrow-Gap Cadmium-Based Compounds Ed. P. Capper (INSPEC, IEE, London, UK, 1994) ISBN 0-85296-880-9
  • Tellurium and Tellurides, D. M. Chizhikov and V. P. Shchastlivyi, 1966, Nauka Publishing, Moscow
  • Mercury selenide stoichiometry and phase relations in the mercury-selenium system, N. Z. Boctor and G. Kullerud, Journal of Solid State Chemistry Vol. 62, pp. 177–183 (1986) doi:10.1016/0022-4596(86)90229-X
  • Total-energy study of the equation of state of HgTe and HgSe, Z. W. Lu, David Singh, and Henry Krakauer, Phys. Rev. B vol. 39, pp. 10154 (1989).
  • M. Konig et al. (2007). “Quantum Spin Hall Insulator State in HgTe Quantum Wells”. Science Magazine Vol. 318 (No.5851): 766-770. doi:10.1126/science.1148047. 
  • Wang, Yang; N. Mansour, A. Salem, K.F. Brennan, and P.P. Ruden (1992). “Theoretical study of a potential low-noise semimetal-based avalanche photodetector”. IEEE Journal of Quantum Electronics 28 (2): 507–513. doi:10.1109/3.123280.