ムクドリ

ムクドリ
ムクドリ
ムクドリ
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: スズメ目 Passeriformes
: ムクドリ科 Sturnidae
: ムクドリ属 Sturnus
: ムクドリ S. cineraceus
学名
Sturnus cineraceus Temminck, 1835
和名
ムクドリ
英名
White-cheeked Starling

ムクドリ椋鳥・鶁[1]・白頭翁[1]学名: Sturnus cineraceus)はスズメ目ムクドリ科鳥類の1種[2]。英名は White-cheeked Starling または Grey Starling

形態[編集]

全長24cm ほどで[3]、およそスズメハトの中間ぐらいの大きさである。尾羽を加えるとヒヨドリより一回り小さい。翼と胸、頸は茶褐色で、頸から頭部にかけてと腰に白い部分が混じり、足およびは黄色い。

雄は胸や腹・背が黒っぽく、雌は褐色に近い。

分布[編集]

東アジア中国モンゴルロシア東南部、朝鮮半島日本)に分布する。

日本国内ではほぼ全域に分布する留鳥で、北部のものは冬には南部に移動するようである。低地の平野や低山地にかけて広く生息し、都市部などの人家付近や田畑などでもよく見られる。

生態[編集]

雑食性で、植物の種子や果物、の幼虫などを好んで食べる。地面に降りて歩いて虫などを探すこともあれば、木の枝に留まってカキなどの熟した実をついばむ様子も観察される。椋の木の実を好んで食べるため「椋鳥」と呼ばれるようになったといわれているが、これに限らず幅広く食べている。

繁殖期は春から夏で、番いで分散し、木の洞や人家の軒先などの穴に巣を作る。両親ともに子育てを行い、とくに育雛期には両親が揃って出掛け、食糧を探して仲良さそうに歩き回る様子が観察される。

繁殖期は巣で寝るが、ヒナが巣立つと親子ともに集まって群れを形成するようになり、夜は一か所に集まってねぐらを形成する。ねぐらには 10km 以上の範囲から集まり、冬は数万羽の大群となることもある。かつては河原の広葉樹や人家の竹藪に集まっていたが、そういった環境は開発で減少したため、都市部の街路樹などにねぐらをとる例も増えている。

鳴き声は「ギャーギャー」「ギュルギュル」「ミチミチ」など。かなりの音量であり、大量にムクドリが集まった場合には、パチンコ店内の音量と同じレベルに達する。

都市部などでも、非常に多くの群れを成して生活する場合がある。そのため、大量の糞による汚染被害や、鳴き声による騒音被害が社会問題化している。夜11時を過ぎても大きな鳴き声が止まらない場合もあり、深刻な問題として議論されているが、法的な問題もあって解決に至らない場合もある。

ギンムクドリとの雑種[編集]

かねてより、本種とギンムクドリ交雑個体と考えられるものが観察されていたが、2009年5月、高知県宿毛市で本種の雌とギンムクドリの雄が交雑したことが報告された[4]

人間との関係[編集]

文化的な関わり[編集]

日本語の「ムクドリ」の語源としては、ムクノキの実を好むからとする説[5][6]、常にムクノキに棲んでいるためとする説[6]、騒がしいので「むくつけしとり」の略とする説[5]などがある。群になる特徴から「群来鳥」「群木鳥」「雲鳥」などの表現もある[6]

日本の方言では、モクドリ[7]、モク、モズ、クソモズ、モンズ、サクラモズ、ツグミ、ヤマスズメ、ナンブスズメ、ツガルスズメなど様々に呼ばれている[要出典]。秋田県の古い方言では、ムクドリのことを「もず」「もんず」と呼んでいる[要出典]

日本では、文学の中にムクドリがしばしば登場する。椋鳥は冬の季語と定められている。江戸時代、江戸っ子は冬になったら集団で出稼ぎに江戸にやってくる奥羽信濃からの出稼ぎ者を、やかましい田舎者の集団という意味合いで「椋鳥」と呼んで揶揄していた[8][5]。俳人小林一茶は故郷信濃から江戸に向かう道中にその屈辱を受けて、「椋鳥と人に呼ばるる寒さかな」という俳句を残している。明治時代には、森鷗外が、日本=世界の中の田舎者という意味で、海外情報を伝える連載コラムに「椋鳥通信」というタイトルをつけた[9]

宮沢賢治の短編童話『とりをとる柳』に「もず」として登場する、千ほどの集団で一斉に木から飛び立つ様子が描写された鳥が、標準和名のモズではなく本種であったと指摘されている[10][11][12]

モーツァルトピアノ協奏曲第17番第3楽章には、ムクドリのさえずりを基にした旋律が主題として用いられているといわれるが、これは別種ホシムクドリについての逸話である[13]

人間の暮らしとの関わり[編集]

ムクドリは日本に広く生息しているため、野鳥観察において、大きさを表現するための物差し鳥として利用されている[要出典]

またムクドリは、現在の日本では食用にはされていないが、『大和本草』には食用にされてきたことをうかがわせる「味よし」という記載がされている[14]

益鳥として[編集]

ムクドリの群がる木(茨城県土浦市土浦駅前)
ねぐらに帰る前に群がるムクドリ(愛知県長久手市熊田にて)

ムクドリはもともとは、農作物に害を及ぼす虫を食べる益鳥とされていた。平均的なムクドリの家族(親2羽、雛6羽)が1年間に捕食する虫の数は百万匹以上と研究されている。

当時[いつ?]害虫を1匹駆除するのに1円かかるといわれていたため、ムクドリ1家族で年間に百万円以上の利益を国家にもたらす「農林鳥」とたたえられたほどである。

害鳥として[編集]

生息環境の破壊により、ムクドリが都市に適応して大量に増殖すると、鳴き声による騒音や糞害などがしばしば問題になる。日本国内では1994年からは狩猟鳥に指定されている[15]

農研機構では、鳥が天敵に捕まった時に発声する声を、鳥に忌避行動を起こさせる「ディストレス・コール」として用い、ムクドリやスズメを追い払う効果を試みている[16][17]

2021年には、強力なLEDライトを当てることで効果を出している自治体もあるが、他の地域にムクドリが移動するだけであり、イタチごっこの状態が続いている。

脚注[編集]

  1. ^ a b 落合直文著・芳賀矢一改修 「むくどり」『言泉:日本大辞典』第五巻、大倉書店、1928年、4534頁。
  2. ^ 山形則男・吉野俊幸・五百澤日丸=写真、五百澤日丸・山形則男=解説『新訂 日本の鳥550 山野の鳥』文一総合出版、2014年、234頁。ISBN 978-4829984000 
  3. ^ 高野伸二『フィールドガイド 日本の野鳥』(増補改訂版)日本野鳥の会、2007年10月。ISBN 978-4-931150-41-6 
  4. ^ 佐藤重穂、木村宏、平田幸、岡井義明「高知県宿毛市におけるムクドリとギンムクドリの異種間つがいによる繁殖事例」『日本鳥学会誌』第59巻第1号、日本鳥学会、2010年6月3日、76-79頁、doi:10.3838/jjo.59.76NAID 1300044969972011年6月29日閲覧 
  5. ^ a b c 大橋弘一 + Naturally『鳥の名前』東京書籍、2003年、196頁。 
  6. ^ a b c 安倍直哉『野鳥の名前』山と渓谷社〈山渓名前図鑑〉、2008年、317頁。 
  7. ^ 佐久市志編纂委員会編纂『佐久市志 民俗編 下』佐久市志刊行会、1990年、1386ページ。
  8. ^ 大久保忠国、木下和子 編『江戸語辞典』東京堂出版、2014年9月。ISBN 978-4-490-10851-4  [要ページ番号]
  9. ^ 山口徹「文芸誌『スバル』における「椋鳥通信」 : 一九〇九年のスピード」『學術研究. 国語・国文学編』第53号、早稲田大学教育学部、2005年2月25日、39-49頁、NAID 1100046171222014年2月15日閲覧 
  10. ^ 『明日へのことば』【宮沢賢治の願い、鳥と人間の共生】[要検証]
  11. ^ ムクドリ”. 野鳥マップ. 一橋植樹会(一橋大学). 2013年7月15日閲覧。
  12. ^ 『野鳥』1982年12月号 [要文献特定詳細情報] [要ページ番号]
  13. ^ ブライト, M. 著、丸武志 訳『鳥の生活』平凡社、1997年9月、309-310頁。ISBN 978-4-582-52724-7 
  14. ^ ムクドリ”. 徒然野鳥記. C.E.C (2007年9月1日). 2013年7月15日閲覧。
  15. ^ 中央農業総合研究センター 鳥獣害研究室 (2005年3月11日). “鳥種別生態と防除の概要:ムクドリ” (PDF). 国立研究開発法人農研機構. 2013年7月15日閲覧。
  16. ^ 中村和雄, 飯泉良則、「【原著】Distress Call によるムクドリのねぐらの移動」『野生生物保護』 1995年 1巻 2号 p.69-76, doi:10.20798/wildlifeconsjp.1.2_69
  17. ^ 農林水産省農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター. “忌避音による鳥の追い払いと音発生装置”. 国立研究開発法人農研機構. 2017年8月25日閲覧。

関連項目[編集]