私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
日本国政府国章(準)
日本の法令
通称・略称 リベンジポルノ被害防止法、リベンジポルノ対策法
法令番号 平成26年法律第126号
種類 刑法
効力 現行法
成立 2014年11月19日
公布 2014年11月27日
施行 2014年11月27日
所管 総務省総合通信基盤局
国家公安委員会
警察庁
生活安全局サイバー警察局
主な内容 リベンジポルノによる被害防止
関連法令 わいせつ物頒布等罪児童ポルノ禁止法プロバイダ責任制限法AV出演被害防止・救済法
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私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(しじせいてきがぞうきろくのていきょうとうによるひがいのぼうしにかんするほうりつ)は、日本法律リベンジポルノ被害防止法リベンジポルノ対策法などと通称・略称される。

2013年10月に発生した三鷹ストーカー殺人事件を機にリベンジポルノへ対処する契機が強まり、2014年11月に国会で成立した。 第三者が被写体を特定できる方法で、プライベートとして撮影された性的画像記録を不特定または多数の者に提供した場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金を科す。画像記録を拡散させる目的で特定の者に提供した場合も1年以下の懲役または30万円以下の罰金としている。また、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)に基づいたネット上の画像削除についてプライベートとして撮影された性的画像記録に関しては特例を設け、発信者の反論がない際に削除するまでの期間について通常は7日間の照会期間を2日間に短縮する規定が設けられた。

主務官庁は警察庁生活安全局人身安全・少年課と総務省総合通信基盤局電気通信技術システム課で、内閣府男女共同参画局男女間暴力対策課および法務省刑事局刑事課と連携して執行にあたる。

内容

目的(1条)
私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって名誉または私生活の平穏の侵害があった場合における特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)の特例および当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めることにより、個人の名誉および私生活の平穏の侵害による被害の発生またはその拡大を防止することを目的とする。
定義(2条)
  • 私事性的画像記録」:次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(撮影対象者)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(第三者)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)その他の記録をいう。
  1. 性交または性交類似行為に係る人の姿態
  2. 他人が人の性器等(性器、肛門または乳首をいう。)を触る行為または人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させまたは刺激するもの
  3. 衣服の全部または一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等もしくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出されまたは強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させまたは刺激するもの
  • 私事性的画像記録物」:写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。
私事性的画像記録提供等(3条)
  • 私事性的画像記録の公表罪:第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定または多数の者に提供した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
  • 私事性的画像記録物の公表罪:前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定もしくは多数の者に提供し、または公然と陳列した者も、同項と同様とする。
  • 公表目的提供罪:前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、または私事性的画像記録物を提供した者は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処する。
  • 親告罪:前三項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
  • 国民の国外犯:第1項から第3項までの罪は、刑法3条の例に従う。
プロバイダ責任制限法の特例(4条)
プロバイダ責任制限法3条2項および3条の2第1号の場合のほか、特定電気通信役務提供者(同法第2条第3号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。)は、特定電気通信(同条第1号に規定する特定電気通信をいう。)による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者(同条第4号に規定する発信者をいう。)に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれにも該当するときは、賠償の責めに任じない。
  1. 特定電気通信による情報であって私事性的画像記録に係るものの流通によって自己の名誉又は私生活の平穏(名誉等)を侵害されたとする者(撮影対象者(当該撮影対象者が死亡している場合にあっては、その配偶者、直系の親族または兄弟姉妹)に限る。)から、当該名誉等を侵害したとする情報(以下この号および次号において「私事性的画像侵害情報」という。)、名誉等が侵害された旨、名誉等が侵害されたとする理由および当該私事性的画像侵害情報が私事性的画像記録に係るものである旨(次号において「私事性的画像侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し私事性的画像侵害情報の送信を防止する措置(以下「私事性的画像侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があったとき。
  2. 当該特定電気通信役務提供者が、当該私事性的画像侵害情報の発信者に対し当該私事性的画像侵害情報等を示して当該私事性的画像侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会したとき。
  3. 当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該私事性的画像侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
支援体制の整備等(5条)
国及び地方公共団体は、私事性的画像記録の提供等による被害者の適切かつ迅速な保護およびその負担の軽減に資するよう、被害者が当該提供等に係る犯罪事実の届出を行いやすくするために必要な捜査機関における体制の充実、私事性的画像侵害情報送信防止措置の申出を行う場合の申出先、申出方法等についての周知を図るための広報活動等の充実、被害者に関する各般の問題について一元的にその相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他必要な措置を講ずるものとする。
被害の発生を未然に防止するための教育および啓発(6条)
国及び地方公共団体は、私事性的画像記録等が拡散した場合においてはその被害の回復を図ることが著しく困難となることに鑑み、学校をはじめ、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、自己に係る私事性的画像記録等に係る姿態の撮影をさせないこと、自ら記録した自己に係る私事性的画像記録等を他人に提供しないこと、これらの撮影、提供等の要求をしないこと等私事性的画像記録の提供等による被害の発生を未然に防止するために必要な事項に関する国民の十分な理解と関心を深めるために必要な教育活動および啓発活動の充実を図るものとする。

附帯決議

2014年11月18日参議院総務委員会は法案可決に際し附帯決議全会一致決議し、法施行に当たり政府が私事性的画像記録等に関し実現すべき努力義務を定めた。[1]

  • 被害に関し、件数等の実態把握に努めること。
  • 拡散抑制に向け、提供手段等の高度化及び多様化に対応すべく、その動向を分析し、地方公共団体等との適切な情報の共有を図ること。
  • 拡散した場合においてはその被害の回復が著しく困難となることに鑑み、プロバイダ等による削除が迅速かつ適正に行われるよう、必要な要請や支援を行うこと。
  • 提供等による被害の防止に資するため、関係行政機関民間企業等と連携して必要な教育活動及び啓発活動を実施し、国民の十分な理解と関心を深めるよう努めること。
  • 本法の実効性を高めるため、外国のサーバーを経由するなどした場合における被害回復及び処罰の確保に資する国際協力の取組を強化すること。
  • 本法の執行に当たり、私事性的画像記録であることを認識していない第三者が第三条第一項から第三項までの行為を行った場合、罪を被らないように配慮すること。

適用例

同法の初適用は、2015年1月下旬に福島県のショッピングセンターの駐車場で元交際相手の性的な写真数十枚をばら撒いた33歳の男を同年2月19日に逮捕した例である[2]。リベンジポルノをネット上にアップロードする行為での初適用は、同年3月11日にツイッターへの投稿で39歳の男を逮捕した例である[3]

同年3月27日、本人の顔が写ってなくても本人と認識可能としてリベンジポルノをツイッターに投稿した50歳の男性を逮捕[4]。同月30日、本人と特定できる情報と共にポルノ画像を掲示板サイトにアップロードしたとして43歳の男性を逮捕[5]、復讐の意思がなくても本人の許可がなければ処罰の対象となるとされた。

同年4月2日、法施行以降警察に寄せられているリベンジポルノに関する被害者からの相談件数が昨年末の約1か月で110件に達したと警察庁が公表した。110件のうち被害者の9割が女性、約6割が20代以下であった。また、全国で報道されている事件以外にも3件の摘発があったことが公表され、法改正後の摘発件数は7件、投稿者に直接警告や削除命令を出したケースも49件となった[6]

同年5月17日、交際相手以外が盗撮した動画をネット上で販売したとして5人を逮捕[7]。同月22日、13年前に交際していた相手のリベンジポルノをネット上に掲載したとして逮捕[8]。同年6月19日、LINEでリベンジポルノを送信し復縁を迫り女性を脅迫したとして逮捕[9]

同年6月23日、投稿者以外の第三者がリベンジポルノ画像を拡散(転載)させた事での初逮捕として、LINE知人女性の裸の画像を投稿し逮捕された男性とその画像をダウンロードし別のグループトークに同じ画像を投稿した男性を逮捕[10]。同年7月15日、リベンジポルノを「ツイッター」に投稿した男性に懲役2年、執行猶予3年の有罪判決[11]。同年8月28日、ツイッターにリベンジポルノを投稿したとして男性を逮捕[12]。同年10月6日、ツイッターにリベンジポルノ投稿と嫌がらせ目的のなりすまし投稿を繰り返していたストーカー男性を逮捕[13]。同年12月9日、インターネットの交流サイト(SNS)上にリベンジポルノを公開したとして男性を逮捕[14]。2016年10月19日、盗撮無修正動画を配信した容疑でサイト運営会社社員と盗撮実行犯含め17人を逮捕[15]

脚注

  1. ^ 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律案に対する附帯決議2014年11月18日 参議院総務委員会 2015年11月17日閲覧
  2. ^ リベンジポルノで男逮捕 福島、被害防止法違反容疑で初 日本経済新聞 2015年2月20日
  3. ^ ツイッターに元交際相手の裸写真”. 産経ニュース. 2015年3月11日閲覧。
  4. ^ 後ろ姿や顔が写っていなくてもリベンジポルノ 女性の裸投稿容疑の男逮捕 警視庁”. 産経ニュース. 2015年3月28日閲覧。
  5. ^ 41歳パート女性の「裸画像」投稿…元交際相手を逮捕”. 産経ニュース. 2015年3月31日閲覧。 元交際相手の裸画像など ネット掲載の疑いで男逮捕”. TBSNews. 2015年3月31日閲覧。
  6. ^ リベンジポルノ1カ月110件 被害相談、20代以下6割 新法施行で初集計”. 産経ニュース. 2015年4月2日閲覧。 リベンジポルノ相談、防止法施行1か月で110件”. TBSNews. 2015年4月2日閲覧。 「リベンジポルノ」相談、1カ月で110件 14年末”. 日本経済新聞. 2015年4月2日閲覧。
  7. ^ 芸能プロ社長盗撮画像公開で逮捕 “リベンジポルノ規正法”適用の裏側”. 東京スポーツ. 2015年5月18日閲覧。
  8. ^ リベンジポルノ:カジノ研究の第一人者を逮捕 兵庫県警”. 毎日新聞. 2015年5月22日閲覧。
  9. ^ 女性に裸の写真送り復縁迫る 防衛省職員逮捕 秋田県警”. 産経新聞. 2015年6月20日閲覧。
  10. ^ LINEに知人女性の裸の画像 リベンジポルノで初の逮捕 警視庁”. 産経新聞. 2015年6月24日閲覧。
  11. ^ リベンジポルノで有罪判決 元大学生に札幌地裁”. 産経新聞. 2015年7月31日閲覧。
  12. ^ リベンジポルノ容疑、九州で初めて男を逮捕 ツイッターに女性画像 大分県警”. 産経ニュース. 2015年8月28日閲覧。
  13. ^ ツイッターに女性の裸画像 リベンジポルノ容疑で逮捕 北海道警”. 産経ニュース. 2015年10月16日閲覧。
  14. ^ リベンジポルノ容疑で男を逮捕 県警 /岡山”. 毎日新聞. 2015年12月9日閲覧。
  15. ^ 盗撮動画を配信容疑、サイト運営会社従業員ら十数人逮捕”. 朝日新聞社. 2016年10月19日閲覧。 トイレや大衆浴場で盗撮した女性の盗撮動画を有料配信-サイト運営者から撮影者まで異例の組織全体立件 福岡・沖縄県警”. 産経新聞社. 2016年10月20日閲覧。

出典

関連項目

外部リンク