井上雄彦

いのうえ たけひこ
井上 雄彦
2024年、芸術選奨贈呈式にて
2024年、芸術選奨贈呈式にて
本名 成合なりあい 雄彦たけひこ
生誕 (1967-01-12) 1967年1月12日(57歳)
日本の旗 日本鹿児島県伊佐市(旧・大口市
国籍 日本の旗 日本
職業 漫画家
活動期間 1988年 -
ジャンル 少年漫画
青年漫画
代表作SLAM DUNK
バガボンド
リアル
受賞
公式サイト INOUE TAKEHIKO ON THE WEB
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井上 雄彦(いのうえ たけひこ、本名:成合 雄彦(なりあい たけひこ)、1967年1月12日 - )は、日本漫画家鹿児島県伊佐市(旧・大口市)出身。血液型はB型。

概略[編集]

代表作に『SLAM DUNK』・『バガボンド』・『リアル』など。スポーツや闘いを通じて青年の成長を描いた作品、現実的な人物描写やストイックな作風で知られる[3][4]

1988年、手塚賞入選の「楓パープル」でデビュー(この時は本名名義)。1990年、現在の名義である「井上雄彦」に変更して連載を開始した『SLAM DUNK』は日本におけるバスケットボールブームの火付け役となる[5]。1998年からは宮本武蔵を題材にした『バガボンド』、1999年からは車椅子バスケットボールを題材にした『リアル』を連載。『バガボンド』による文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。2012年には平城遷都1300年記念アジアコスモポリタン賞文化賞を受賞。

来歴[編集]

小・中学校時代は剣道部に所属し、高校から当時まだマイナーだったバスケットボール部に入部し主将を務める。その一方で、子供の頃から絵を描くことを好み、高校の終わり頃より漫画家になることを意識するようになる。幼少期から特に好きだった漫画は水島新司ドカベン』で、他にも影響を受けた漫画家に池上遼一(『男組』)、小林まこと等の名を挙げている[6]

鹿児島県立大口高等学校3年の時、芸大進学を前提に美術予備校の夏期講習を受けるが、「金がかかる」という理由で進路変更し、地元に近い熊本大学に進学する。20歳の時に週刊少年ジャンプに投稿した作品が編集者・中村泰造の目に止まり[7]、本格的に漫画家の道を歩むために1987年大学を中退し上京。当時『シティーハンター』を連載中の北条司のアシスタントを10か月ほど務め、ここで漫画制作の基本的な技術を身につけた[6][8]。1988年、投稿作品『楓パープル』が第35回手塚賞に入選、漫画家としてデビューする。

週刊少年ジャンプ上で原作付きの初連載『カメレオンジェイル』やバスケの読み切り作品等を経て、1990年より『SLAM DUNK』を連載開始する。当時国内でのバスケットボールの人気度はさほどでなかったが、回を重ねる毎に人気を増し、やがて空前の大ヒットとなる。1993年にはアニメ化もされた。また、連載終了後10年を経た2006年には、文化庁によるアンケート企画「日本のメディア芸術100選」においてマンガ部門1位に選出されている。

1996年、6年間続いた『SLAM DUNK』が連載終了する。いくつかの小品を経て、1998年より『モーニング』にて、吉川英治の小説『宮本武蔵』を原作とした『バガボンド』の連載を開始する。並行して1999年からは本人曰く「TVで観て興味を持った」車椅子バスケットボールを題材にした『リアル』の不定期連載を『週刊ヤングジャンプ』にて開始、2019年現在、バガボンドは休載中である。この2作品について井上は「漫画の先人が作り上げてきた『マンガ的な手法やマンガ的記号』を『バガボンド』では極力使わないようにし、逆に『リアル』ではそれらを最大限に発揮して描いている。」と語っている[9]

バスケットボールとの関わり[編集]

井上は中学までは剣道部で活動していたが、高校では球技を始めたかったことや剣道部に実兄がいて照れくさかったことなどからバスケットボール部に入部した。インタビューによれば当初はバスケットにそれほど興味を持っていたわけではなく、友達に誘われて「ふと入った」感じだった、と語っている。自身はそれほど背が高くなかったためガード的なポジションを務めることが多かったという[10]

漫画家を目指すようになってからは「とにかくバスケット」を描こうと決めており、当時バスケットを題材にした漫画はなかったため「(自分が描くまでは)誰もやらないでくれよ」と思っていたという [5]。『SLAM DUNK』連載時にもバスケットボールチーム「TAKECHANS」を結成しポイントガードを担った。また『SLAM DUNK』終了後はBS1放送のNBA中継にゲストとして何度か出演している。

2004年頃から井上は「バスケットボールそのものに対しての感謝の気持ちを形にしたい」[11]との思いからスポーツ奨学金の設立を構想、2006年に「スラムダンク奨学金」を設立した[12]。バスケットボールのプロ選手を目指す日本の高校生を対象にアメリカのプレップスクール(大学入学準備校)への留学を助け、プロスポーツ選手を目指す留学生も多い進学校での勉学の道を支えている。

ちなみに、『SLAM DUNK』において一部の登場人物の顔などは、自身の高校の部活仲間や大学のサークル仲間がモデルとなっている[要出典]

年譜[編集]

受賞歴[編集]

作品リスト[編集]

連載作品[編集]

カメレオンジェイル(『週刊少年ジャンプ集英社、1989年33号 - 44号)渡辺和彦原作
初連載作品。自在に姿を変化させる「危険請負人」カメレオン・ジェイルを主人公とした探偵もの。
SLAM DUNK(『週刊少年ジャンプ』集英社、1990年42号 - 1996年27号)
不良青年だった主人公・桜木花道が、高校バスケットボールの世界に入り活躍する様を描く代表作。桜木たちがインターハイに挑戦する半年間の1シーズンが6年をかけて描かれた。
HANG TIME(『週刊少年ジャンプ』集英社、1993年45号 - 48号)
ボブ・グリーンの『マイケル・ジョーダン物語』を原作にした作品。『SLAM DUNK』連載中に短期集中連載された。
BUZZER BEATER(『月刊少年ジャンプ』集英社、1997年2月号 - 1998年8月号)
バスケットの「宇宙リーグ」の模様を描いたSF・バスケット漫画。1996年よりオンラインコミックとして連載されたのち『月刊少年ジャンプ』に連載。WOWOW日本テレビでアニメ化された。
バガボンド(『モーニング』講談社、1998年40号 - )
吉川英治の小説『宮本武蔵』を原作とした作品。佐々木小次郎を聾啞者として描くなど、原作にはない独自の視点で描かれる場面も多い。長期休載を挟み2016年時点も不定期で連載中。
リアル(『週刊ヤングジャンプ』集英社、1999年48号 - )
骨肉腫によって片足を失った戸川清春、自分の起こしたバイク事故で同乗者に障害を負わせてしまった野宮朋美、交通事故で半身不随となった高橋久信を中心に車椅子バスケットボールの世界を描く作品。『週刊ヤングジャンプ』に不定期連載され単行本が年1巻のペースで刊行されている。

短編作品[編集]

楓パープル(『週刊少年ジャンプ』集英社、1988年32号)
第35回手塚賞に入選したデビュー作。バスケットボールを題材にしており、主人公の流川楓のほか、後に『SLAM DUNK』に登場することになるキャラクターの原型が表れている。
華SHONEN(『週刊少年ジャンプ』集英社、1988年42号)
演劇部を舞台にした、女の子のような美少年(『楓パープル』の流川楓を流用)と活発な女の子とのラブコメディ。
JORDANみてーに(コミックス『カメレオンジェイル』第2巻描き下ろし、1989年)
高校バスケットの日本選抜を題材にした読み切り作品。
赤が好き(『週刊少年ジャンプ増刊』集英社、1990年サマースペシャル)
『SLAM DUNK』のパイロット版的短編作品。主人公・桜木の人物像のほか、『SLAM DUNK』の主要人物がほぼそのまま登場する。この作品の直後に『SLAM DUNK』の連載が開始された。
BABY FACE(『週刊少年ジャンプ』集英社、1992年3・4合併号)
23歳の孤独な殺し屋を描いた読み切り作品。『SLAM DUNK』連載中に掲載された。
ピアス(『週刊少年ジャンプ』集英社、1998年9号)
海沿いの街を舞台に、小学6年生の少年りょうたと少女あやこをめぐる読み切り作品。後に『週刊ヤングジャンプ』2001年49号にもアンコールとして掲載された。
JUMP少年(『トカイモン―トウキョウワカモノブック』小学館、1999年)
I LOVE THIS GAME(『Adidas MANGA FEVER』、2002年)
サッカーを題材にした読み切り作品。
『リアル×リオパラリンピック』(集英社、2016年)
リオデジャネイロパラリンピックを取材して出版[18]

イラスト・デザイン他[編集]

  • 1995年、アシックスとのコラボレーションによりバスケットボールシューズ “HIGH TIME” を発表、1996年グッドデザイン賞受賞[19]
  • 「第1回JBL男子トーナメント大会」ポスター描き下ろし(1996年)
  • 「NBA解体新書」 カバーイラスト描き下ろし(1996年)
  • 「NBA雑学バイブル」 カバーイラスト描き下ろし(1997年)
  • 「FILA素人GAMES」ポスター描き下ろし(1997年)
  • 資生堂「Aleph」CM演出(1998年)
  • 1on1」(プレイステーション用ソフト)キャラクターデザイン&ストーリコンセプト(1998年)
  • 資生堂「uno」CM演出(2005年)
  • PRIDE 男祭り 2005-ITADAKI-」 イラスト・題字[20]
  • 2005年、ユニクロのTシャツデザインコンテスト「UTGP」に審査員として参加、同時に自身もコラボレーションTシャツをデザインした。なお大賞には漫画家・内藤曜ノ介による作品「親父超え」が選ばれている[21]
  • ロストオデッセイ」(Xbox 360用ソフト)メインキャラクターデザイン(2007年)
  • 『薩摩のキセキ 日本の礎を築いた英傑たちの真実』(2007年、総合法令出版、西郷吉太郎・西郷隆文・大久保利泰・島津修久著)表紙イラスト
  • 隠し砦の三悪人」、描き下ろしポスター(2007年)
  • 2007年11月、紀伊国屋書店ニューヨーク店オープン記念の壁画を制作。
  • 同年11月、集英社と講談社の共同による『バガボンド』『リアル』のリミックス広告を実地。このうち読売新聞朝刊に掲載された広告が第12回読売出版広告大賞を受賞。
  • 2008年から2010年まで東京・熊本・大阪・仙台を巡回し、自ら「最後」と銘打った「井上雄彦 最後のマンガ展」が開催された。
  • 2009年9月15日 NHK総合テレビプロフェッショナル 仕事の流儀「闘いの螺旋、いまだ終わらず〜漫画家・井上雄彦」。
  • 2011年5月、ナイキとのコラボレーションによりバスケットボールシューズ “NIKE AIR ZOOM BRAVE IV IT” と「ナイキ DRI-FIT IT ブカツ S/S Tシャツ」を発表。
  • 2012年3月、エキサイトと共同でスマートフォンアプリ「Smile by Inoue Takehiko」を発表。ダウンロードは無料で、iOSAndroidに対応している。
  • 同年5月、『空白』を出版[22]
  • 2013年、式年遷宮に合わせて伊勢神宮絵巻「承(しょう)」(水墨画)を奉納、全国巡回展示後、2016年4月27日 - 6月27日にせんぐう館で公開された[23]
  • 2015年10月24日、スケッチ集『円空を旅する』(美術出版社)発売[24]
  • 2017年4月、三原カズトによる漫画『巻物ザムライ』(ふんわりジャンプ連載)の題字を担当。

共著[編集]

  • 井上雄彦、伊藤比呂美『漫画がはじまる』スイッチ・パブリッシング、2008年6月。全国書誌番号:21439355
  • 冲方丁、井上雄彦(述)「描きながら考え、道が見えてくる」『にすいです。 : 冲方丁対談集』角川グループパブリッシング、2013年。全国書誌番号:22203192
  • チームリアル(編)『リアル×リオパラリンピック』集英社、2016年。全国書誌番号:22840984。別題『Takehiko Inoue,na animação da Paralimpíada Rio 2016! : 井上雄彦、熱狂のリオへ』。

アシスタント経験者[編集]

関連番組[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Selection for Basis_Japanese - 受賞者プロフィールと受賞理由
  2. ^ 【第46回日本アカデミー賞】「THE FIRST SLAM DUNK」が最優秀アニメーション作品賞”. 映画.com. 2023年7月11日閲覧。
  3. ^ 井上 雄彦 インタビュー”. 文化庁メディア芸術祭. 文化庁 (2007年). 2022年2月4日閲覧。
  4. ^ 世界に誇る日本の漫画家、井上雄彦氏インタビュー”. CNN.co.jp. CNN (2012年11月30日). 2022年2月4日閲覧。
  5. ^ a b 朝日新聞社 2006, pp. 60–70.
  6. ^ a b リーマン 2005, pp. 113–128.
  7. ^ 漫画家 井上雄彦(いのうえ・たけひこ)さん(3/3)”. 朝日新聞 DO楽 (2009年5月9日). 2011年8月16日閲覧。
  8. ^ 「井上雄彦が語る「師匠・北条司から学んだ事」」『CITY HUNTER COMPLETE EDITON VOLUME:02』2003年12月15日発行、ISBN 4197802145、210頁
  9. ^ 「大特集 井上雄彦『リアル』」『ダ・ヴィンチ』12月号、メディアファクトリー、2007年、15-33頁。 
  10. ^ 今井 2002, pp. 40–51.
  11. ^ ビジネスジャンプ・井上雄彦インタビュー(2010年10月6日時点のアーカイブ
  12. ^ 奨学金について”. 2023年7月11日閲覧。
  13. ^ 『バガボンド』吉川英治(原作)、講談社〈モーニングKC ; 2340〉、2014年7月、第9版、ISBN 9784063883404全国書誌番号:22447565
  14. ^ 『リアル』第14巻、集英社〈YOUNG JUMP COMICS〉、2014年12月、ISBN 9784088900773全国書誌番号:22510174
  15. ^ “「SLAM DUNK」アニメ映画の監督・脚本は井上雄彦、2022年秋公開へ”. 映画ナタリー (ナターシャ). (2021年8月13日). https://natalie.mu/eiga/news/440833 2023年7月11日閲覧。 
  16. ^ “【映画大賞】井上雄彦監督が新人賞「『スラムダンク』としての正解は何か…と夢中で探した結果」”. 日刊スポーツ (日刊スポーツ新聞社). (2023年12月27日). https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202312270000671.html 2023年12月27日閲覧。 
  17. ^ 第74回『芸術選奨』受賞者を発表 佐藤浩市、池松壮亮、中村勘九郎、藤井フミヤら”. ORICON NEWS. oricon ME (2024年2月28日). 2024年2月28日閲覧。
  18. ^ 『リアル×リオパラリンピック』チームリアル(編)、2016年。全国書誌番号:22840984、別題『Takehiko Inoue, na animação da Paralimpíada Rio 2016! : 井上雄彦、熱狂のリオへ』。
  19. ^ HIGH TIME紹介ページ
  20. ^ 男祭り2005公式サイト
  21. ^ UTGP2005[1]
  22. ^ 『空白』スイッチ・パブリッシング〈SWITCH LIBRARY〉2012年5月。全国書誌番号:22101871。別題『SWITCH INTERVIEW Apr. 2010-Mar. 2012』
  23. ^ 日経トレンディネット「漫画家・井上雄彦が伊勢神宮に奉納した墨絵が公開」”. 2016年5月30日閲覧。
  24. ^ 漫画家・井上雄彦が "お師匠さん" と呼んだ、江戸の修行僧「円空さん」とは何者か?”. 産経ニュース (2015年10月23日). 2015年10月23日閲覧。
  25. ^ 「キングダム」アニメ化決定!井上雄彦×原泰久の師弟対談も | ニコニコニュース
  26. ^ ヤングマガジン公式サイト|WEBヤンマガ
  27. ^ 井上雄彦 Inoue Takehiko(@inouetake)さん | Twitter
  28. ^ 井上雄彦 Inoue Takehiko(@inouetake)さん | Twitter
  29. ^ 井上雄彦 Inoue Takehiko(@inouetake)さん | Twitter
  30. ^ 井上雄彦 Inoue Takehiko(@inouetake)さん | Twitter

参考文献[編集]

主な執筆者の姓の50音順

  • 『ニッポンのマンガ 手塚治虫文化賞10周年記念』朝日新聞社(編)、2006年、60-70頁。 
  • 今井栄一「INTERVIEW『スラムダンク』から『バガボンド』へ」『SWITCH』第20巻第3号、スイッチ・パブリッシング、2002年、40-51頁。 
  • ティム・リーマン『マンガマスター』美術出版社、2005年、113-128頁。 

関連資料[編集]

発行年順

  • 『井上雄彦ぴあ:武蔵、熊本へ』〈ぴあmook〉2009年4月。全国書誌番号:21728147
  • 「『スラムダンク 完全版 全24巻』井上雄彦 集英社 2002年」『最近の中高校生の日常を描いた本のリスト/2000年~2010年発行で登場人物が中高校生もの』神奈川県学校図書館員研究会、2011年7月13日、国立国会図書館〈レファレンス協同データベース〉。
  • 中村トオル『井上雄彦100+1』東京:雷鳥社、2012年。別題『人生を変える信念の言葉』。ISBN 9784844136354
  • 金益見『贈りもの』講談社、2012年、全国書誌番号:22176809。別題『安野モヨコ・永井豪・井上雄彦・王欣太ー漫画家4人からぼくらへ』。
  • Casa BRUTUS特別編集『ガウディと井上雄彦』〈マガジンハウスムック〉、2015年。全国書誌番号:22552514。別題『THE GAUDÍ PILGRIMAGE WITH TAKEHIKO INOUE』。
  • 山脇智子「井上雄彦『バガボンド』」『わたしが魅せられた漫画』清水正(監修)、日本大学芸術学部図書館、2015年、333頁。全国書誌番号:22646600
  • 辻惟雄、泉武夫、山下裕二、板倉聖哲(編集委員)「展示風景 井上雄彦(いのうえたけひこ)」『日本美術全集』小学館、2016年。
    • 第四章 80「井上雄彦(いのうえたけひこ)最後(さいご)のマンガ展(てん)」
    • 第四章 81「エントランス・スペース・プロジェクト」

外部リンク[編集]