北海タイムス事件

最高裁判所判例
事件名 法廷等秩序維持に関する法律による制裁事件についてなした抗告棄却決定に対する特別抗告
事件番号 昭和29(秩ち)1
1958年(昭和33年)2月17日
判例集 刑集第12巻2号253頁
裁判要旨

 一 新聞が真実を報道することは、憲法第二一条の認める表現の自由に属し、またそのための取材活動も認められなければならないことはいうまでもないが、その自由も無制限であるということはできず、たとい公判廷の情況を一般に報道するための取材活動であつても、その活動が公判廷における審判の秩序を乱し、被告人その他訴訟関係人の正当な利益を不当に害するが如きものはもとより許されないところである。

二 刑訴規則第二一五条は憲法第二一条に違反しない。
大法廷
裁判長 田中耕太郎
陪席裁判官 島保齋藤悠輔藤田八郎河村又介小林俊三入江俊郎垂水克己河村大助下飯坂潤夫奥野健一
意見
多数意見 全会一致
反対意見 なし
参照法条
法定等の秩序維持に関する法律2条1項,憲法21条,刑訴規則215条
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北海タイムス事件(ほっかいタイムスじけん)とは取材の自由と法廷内の写真撮影規制に関する訴訟[1]

概要[編集]

1953年12月10日釧路地方裁判所第一号法廷において行われた、釧路市内の寿司店で見習い職人が殺されて売上金3,000円が奪われた強盗殺人事件の初公判で、北海タイムスのカメラマンが事前に裁判所書記官から写真撮影は公判開始前に限る旨の裁判所の許可を告知されていたにもかかわらず、裁判官が入廷して公判が開始された後、人定質問のため被告人が証言台に立った際に記者席を離れ、裁判長の制止を無視して裁判官席の設けられている壇上に上って被告人の写真1枚を撮影した[1][2]

同日に釧路地裁は、北海タイムスのカメラマンの行為が法廷秩序維持法第2条第1項に該当するとして、カメラマンに過料1000円を言い渡した[1][2]。地裁の決定を不服とした当時の北海タイムス社長をはじめとして社長室が中心となってカメラマンを支援し、カメラマンは札幌高等裁判所抗告したが、1953年12月10日に札幌高裁は抗告を棄却した[1][2]。カメラマンは最高裁判所に特別抗告をおこなった[1]

1958年2月17日に最高裁は「新聞が真実を報道することは憲法第21条の認める表現の自由に属し、そのための取材活動も認めなければならない。しかし、この自由は無制限ではなく、公判廷における秩序を乱し、被告人らの正当な利益を不当に害することは許されない。刑事訴訟規則第215条が公判廷での写真撮影の許可を裁判所の裁量に委ねたことは憲法には違反しない」として特別抗告を棄却し、過料決定が確定した[1][2]

その他[編集]

最終的に敗訴が確定したため、1981年に刊行された『北海タイムス三十五年史』には、事件の記述は一行もない[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f 憲法判例研究会 2014, p. 164.
  2. ^ a b c d e “北海タイムス事件(メディア戦後事件史 新聞週間に考える:2)”. 朝日新聞: p. 29. (1995年10月18日) 

関連書籍[編集]

  • 憲法判例研究会『判例プラクティス憲法 増補版』信山社、2014年。ISBN 9784797226362 

関連項目[編集]