序曲 (山田耕筰)

序曲 ニ長調(じょきょく にちょうちょう、: Eine kleine Ouverture in D-dur)は、日本作曲家山田耕筰が作曲した序曲である。現在確認できる限りにおいて、日本人が作曲した最初の管弦楽曲であるとされている。

作曲の経緯[編集]

ドイツベルリン王立アカデミー高等音楽院に留学中に、指導教官のカール・レオポルト・ヴォルフの与えた管弦楽曲作曲課題として、1912年の2月から3月22日にかけて作曲された[1]

メンデルスゾーンシューマンなどの、初期ロマン派の音楽を模範として作曲されている[2]

初演[編集]

1915年5月23日帝国劇場にて行われた、東京フィルハーモニー会管弦楽部第1回公開試演において、作曲者指揮により初演された[3]

編成[編集]

フルート2、オーボエ2、クラリネット(A管)2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ弦楽五部

作品の概要[編集]

Allegro assai(二分音符=100)、ニ長調、4分の4拍子、展開部を欠くソナタ形式。演奏時間3分31秒。

冒頭から、弦楽器で、音階を駆け上がるような第1主題が提示される。この主題が確保されると、楽器同士の下降音形のかけあいの形をとる推移部分となり、属調であるイ長調で流麗な、やや音域の広い第2主題が提示される。この主題もすぐに確保され、嬰ハ短調から嬰ヘ短調に転じつつ、第1主題に基づく新たな旋律が現れる。ニ長調の属七の和音が、偶成和音を挟みつつ11小節間引き延ばされ、ニ短調の響きに到達すると、意表をついて第1主題がニ長調で再現される。推移の部分は提示部よりも引き延ばされ、ニ短調への傾きを見せる。やがて、第2主題もニ長調で再現される。半音階的な低音の動きを伴って転調を重ねつつ、盛り上がっていった頂点で、ニ長調で曲を閉じる。

録音[編集]

世界初録音が販売されている。現在入手できる録音は、スリーシェルズ盤(齊藤一郎指揮、セントラル愛知)と世界初録音の2種類のみである[4]

参考文献[編集]

  • 『序曲 ニ長調』フルスコア(『山田耕筰全集』第1巻 春秋社
  • 上述フルスコア巻末の校訂報告書
  • 上述CDの、片山杜秀による楽曲解説。

脚注[編集]

  1. ^ フルスコアの校訂報告によれば、山田の楽壇生活25周年を記念して行われた『山田耕筰氏祝賀演奏会』の曲目解説に、3月22日に完成した旨の記述があるとのことである。
  2. ^ なお、この『序曲』ならびに『勝鬨と平和』と、交響詩暗い扉』『曼陀羅の華』との作風の大きな変遷を、序曲・交響曲を作曲したあとの、山田自身の急激な作風の変化と捉える向きがあることについて、片山杜秀は上述の楽曲解説において「作曲当時すでに山田の関心はワーグナー以後の音楽に向けられており、序曲や交響曲に関しては、ヴォルフの求めに応じて、古典的で厳格な作風に基づいて作曲していただけであったのではないか」と指摘している。
  3. ^ 三浦俊三郎 著『本邦洋楽変遷史』日東書院、1931年、807頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1178367/1/4282023年3月9日閲覧 
  4. ^ この他に、2015年12月に行われた山田耕筰没後50年記念演奏会のライブ映像が、相愛大学公式チャンネルより配信されている。 序曲「ニ長調」 尾高忠明 相愛フィルハーモニア