愛について語るときに我々の語ること

愛について語るときに我々の語ること
What We Talk About When We Talk About Love
著者 レイモンド・カーヴァー
訳者 村上春樹
発行日 アメリカ合衆国の旗 1981年4月20日
日本の旗 1990年8月20日
発行元 アメリカ合衆国の旗 クノップフ社
日本の旗 中央公論社
ジャンル 短編小説集
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
形態 ハードカバー
ページ数 176
前作 Furious Seasons and Other Stories (1977年)
次作 ファイアズ (炎) (1983年)
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愛について語るときに我々の語ること』(あいについてかたるときにわれわれのかたること、原題:What We Talk About When We Talk About Love)は、アメリカ小説家レイモンド・カーヴァーの短編小説、およびそれを収録した短編小説集である。1981年4月20日、クノップフ社から刊行された。本項目ではこの短編小説と短編小説集両方について記述する。

表題作「愛について語るときに我々の語ること」[編集]

概要[編集]

表題作である短編「愛について語るときに我々の語ること」は、同名の短編集に収録されるのと同じ時期に、文芸誌『アンタイオス(Antaeus)』1981年冬春号に掲載された。

元のタイトルである「ビギナーズ」は次の一節から取られた。

"What do any of us really know about love?" Mel said. "It seems to me we're just beginners at love." 「我々は愛についていったい何を知っているだろうか?」とメルは言った。「僕らはみんな愛の初心者みたいに見える」

そしてリッシュは、メル・マギニスが別の箇所で述べた次の言葉を取って本作品と短編集の両方のタイトルとした。

"You see, this happened a few months ago, but it's still going on right now, and it ought to make us feel ashamed when we talk like we know what we're talking about when we talk about love." 「このことは二、三ヵ月前に起こった。でもそれは今でも続いていて、この話を聞いたら僕らはみんな恥じ入ってしかるべきなんだ。こういう風に愛についてしゃべっているときに自分が何をしゃべっているか承知しているというような偉そうな顔をしてしゃべってることについてね」

オリジナル原稿は『ザ・ニューヨーカー』2007年12月24日-31日号に元のタイトルどおりで掲載され[1]、その2年後、2009年刊行の短編集『ビギナーズ』(ジョナサン・ケープ)に収録された。

日本語版は『ミステリ・マガジン』1988年11月号が初出。翻訳は村上春樹。村上が独自に編纂した単行本『ささやかだけれど、役にたつこと』(中央公論社、1989年4月20日)に収録され、のちに『THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER 2 愛について語るときに我々の語ること』(同社、1990年8月10日)に収録された。 

オリジナル原稿「ビギナーズ」との主な異同[編集]

  • 友人のメル・マギニスはオリジナル原稿では「ハーブ・マクギニス」となっている。
  • 冒頭で「メル・マギニスは心臓の専門医なのだが、そのせいで往々にして彼が話し手の役をつとめることになった」という説明が入るが、オリジナル原稿にはこの部分がない。
  • メルが言い間違えた「入れ物」(Vessels)という言葉を「家来」(Vassals)と訂正するのは妻のテリだが、オリジナル原稿では語り手のニックである。
  • 交通事故に遭う老夫婦の名前はないが、オリジナル原稿ではそれぞれ「ヘンリー・ゲイツ」「アンナ・ゲイツ」という名前が与えられている。
  • 老夫婦のエピソードの大部分をリッシュはオリジナル原稿から削除している。
  • オリジナル原稿では、ハーブ(メル)が精神的に不安定な人間であることがテリの口から伝えられるが、リッシュはその部分を削除した。

エピソード[編集]

短編集[編集]

概要[編集]

本短編集によりカーヴァーは商業的な成功を収めた。発売から間もない5月上旬には15,000部の売り上げを記録。ヴィンテージ・ブックスはペーパーバック版の権利を2万ドルで獲得したという[3]

担当編集者のゴードン・リッシュは本書の出版に際してオリジナル原稿を大幅に削除した。オリジナル原稿はのちになってすべて『Beginners』(ジョナサン・ケープ、2009年)に収録された[4]。『Beginners』はその翌年2010年3月、『ビギナーズ』というタイトルで日本でも出版された。

内容[編集]

タイトル 初出(本国) 初出(翻訳)
1 ダンスしないか?
Why Don't You Dance?
Quarterly West, No.7
(Autumn 1978)
』1983年5月号
2 ファインダー
Viewfinder
The Iowa Review, 9, No.1
(Winter 1978)
波の絵、波の話
文藝春秋、1984年3月25日)
3 ミスター・コーヒーとミスター修理屋
Mr. Coffee and Mr. Fixit
TriQuarterly, No.48
(Spring 1980)
4 ガゼボ
Gazebo
The Missouri Review, 4, No.1
(Fall 1980)
5 私にはどんな小さなものも見えた
I Could See the Smallest Things
The Missouri Review, 4, No.1
(Fall 1980)
『ささやかだけれど、役にたつこと』
(中央公論社、1989年4月20日)[5]
6 菓子袋
Sacks
Perspective, 17, No.3
(Winter 1974)
『海』1983年5月号
7 風呂
The Bath
Columbia, No.6
(Spring/Summer 1981)
8 出かけるって女たちに言ってくるよ
Tell the Women We're Going
Sou'wester Literary Quarterly,
Summer 1971
『海』1983年5月号
9 デニムのあとで
After the Denim
New England Review, 3, No.3
(Spring 1981)
10 足もとに流れる深い川
So Much Water So Close to Home
Spectrum, 17, No.1
(Fall 1975)
11 私の父が死んだ三番めの原因
The Third Thing That Killed My Father Off
Discourse, 10, No.3
(Summer 1967)
12 深刻な話
A Serious Talk
The Missouri Review, 4, No.1
(Fall 1980)
13 静けさ
The Calm
The Iowa Review, 10, No.3
(Summer 1979)
14 ある日常的力学
Popular Mechanics
Furious Seasons
(1977)
小説新潮』1989年3月臨時増刊
「アメリカ青春小説特集」
15 何もかもが彼にくっついていた
Everything Stuck to Him
Chariton Review, 1, No.2
(Fall 1975)
ぼくが電話をかけている場所
(中央公論社、1983年7月25日)
16 愛について語るときに我々の語ること
What We Talk About When We Talk About Love
Antaeus, No.40-44
(Winter-Spring 1981)
ミステリ・マガジン』1988年11月号
17 もうひとつだけ
One More Thing
North American Review, 266, No.1
(March 1981)
3. 「ミスター・コーヒーとミスター修理屋」の元々の題名は「みんなは何処に行ったのか?」(Where is Everyone?)。ゴードン・リッシュは本書の収録に際してオリジナル原稿の「78パーセント」を削除した。オリジナルの「みんなは何処に行ったのか?」は1983年4月刊行の『ファイアズ (炎)』(キャプラ・プレス)に収録された。
6. 「菓子袋」は元々の題名を「浮気」(The Fling)といい、2冊目の短編集『怒りの季節』(キャプラ・プレス、1977年11月)に収録されていた。リッシュはこれを「61パーセント」削除して本書に載せた。
7. 「風呂」の元々の題名は「ささやかだけれど、役にたつこと」(A Small, Good Thing)。リッシュは本書の収録に際してオリジナル原稿の「78パーセント」を削除した。「ささやかだけれど、役にたつこと」は1983年9月刊行の『大聖堂』(クノップフ社)に収録された。
10. 「足もとに流れる深い川」は『怒りの季節』に収録されていたが、リッシュはこれを「70パーセント」削除して本書に載せた。削除前のロング・バージョンは『ファイアズ (炎)』に収録された。
11. 「私の父が死んだ三番めの原因」は元々の題名を「ダミー」(Dummy)といい、『怒りの季節』に収録されていた。リッシュはこれを「40パーセント」削除して本書に載せた。
14. 「ある日常的力学」は元々の題名を「私のもの」(Mine)といい、『怒りの季節』に収録されていた。またほぼ同じ版が「小さなものごと」(Little Things)という題名で『フィクション』1978年号に掲載されている。リッシュはほとんど削除せず本書に載せている。
15. 「何もかもが彼にくっついていた」は元々の題名を「隔たり」(Distance)といい、『怒りの季節』に収録されていた。リッシュはこれを「45パーセント」削除して本書に載せた。オリジナルの「隔たり」は『ファイアズ (炎)』に収録された。

日本語版[編集]

『THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER 2 愛について語るときに我々の語ること』
中央公論社 / 1990年8月20日 / ISBN 978-4-12-402932-1
翻訳は村上春樹。トバイアス・ウルフの「レイモンド・カーヴァーのこと――彼はケーキを手にして、それを食べた」が収録されているほか、付録には池澤夏樹稲越功一がエッセイを寄せている。
『村上春樹翻訳ライブラリー 愛について語るときに我々の語ること』
中央公論新社 / 2006年7月10日 / ISBN 978-4-12-403499-8
この翻訳ライブラリー版で村上は訳文を改めている。

脚注[編集]

  1. ^ BEGINNERS BY RAYMOND CARVER, December 24, 2007The New Yorker
  2. ^ 引用されるのは文末の「I could hear my heart beating. I could hear everyone's heart. I could hear the human noise we sat there making, not one of us moving, not even when the room went dark.」。
  3. ^ キャロル・スクレナカ 著、星野真理 訳『レイモンド・カーヴァー 作家としての人生』中央公論新社、2013年7月10日、549頁。 
  4. ^ 『Beginners』(邦題『ビギナーズ』)の編纂者、ウィリアム・L・スタルとモーリーン・P・キャロルは同書収録の「『ビギナーズ』のためのノート」で改変の概要・過程を書き記している。
  5. ^ 『ささやかだけれど、役にたつこと』(中央公論社)は村上春樹が独自にセレクト・翻訳した単行本。