月レーザー測距実験

アポロ11号のミッションでの月レーザー測距実験

月レーザー測距実験(つきレーザーそくきょじっけん、Lunar Laser Ranging experiment)は、LIDARを用いた地球と月の距離の測定である。地球上のレーザーで、アポロ計画により面に設置された再帰反射器(コーナーキューブ)を狙い、反射した光が戻ってくるまでの時間を測定する。

初期の試験、アポロ、ルノホート[編集]

アポロ15号のミッションで用いられた再帰反射器
アポロ15号のミッションで用いられた再帰反射器の模式図

1962年、マサチューセッツ工科大学のチームが初めて反射レーザーのミリ秒パルスを観測することに成功した。同様の測定は、クリミア天体物理天文台のチームにおいても、Qスイッチルビーレーザーを用いて同年になされている[1]。1969年7月21日に、アポロ11号の乗組員によって再帰反射器アレーが月面に設置されると精度が更に向上した。アポロ14号アポロ15号では、さらに2つの再帰反射器アレーが設置され、実験に貢献した。月までの距離の測定は、リック天文台、アリゾナ州の空軍ケンブリッジ研究所月測距観測所、フランスのピク・デュ・ミディ天文台、東京天文台、テキサス州のマクドナルド天文台によって初めて報告された。

ソビエト連邦のルノホート1号ルノホート2号によっても同様のアレーが運ばれた。ルノホート1号からの反射シグナルは当初は受信されたが、1971年以降は、2010年4月にカリフォルニア大学のチームがルナー・リコネサンス・オービターの画像からアレーを再発見するまで、検出されなくなった[2]。ルノホート2号のアレーは、地球にシグナルを返し続けた[3]。ルノホートのアレーは、アポロ計画のものと同じように、太陽からの直射光を受けて性能が落ちていった[4]

アポロ15号のアレーは、先の2度のアポロ計画で設置されたものと比べて3倍の大きさを持つ。その大きさにより、最初の25年間で行われた実験のうち、4分の3の標的となってきた。それ以降の技術の進歩によって、より小さなアレーが用いられるようになった。

詳細[編集]

月までの距離は、次の式を用いて概算値を求めることができる。

距離 = (光速 × 往復の時間) / 2

実際は、往復で約2.5秒は、地球と月の相対運動、地球の自転、月の秤動気象極運動、地球の大気による伝播遅延、地殻運動潮汐作用による観測局の運動、大気中の経路による光速の差、相対性理論による効果等の影響を受ける[5]。それにも拘らず、地球と月の間の距離は、過去35年間で最も高い精度で求められた。様々な理由により、観測毎の距離は異なるが、平均値は約38万4,467kmであった。

月の表面では、ビームはわずか約6.5kmの幅であり[6]、これは3km離れたところから動く10セント硬貨ライフル銃で撃つようなものだと喩えられる。反射光は裸眼では見えないほど弱く、数秒毎に反射器に向けて発射される1017個の光子のうち地球に戻ってくるのは、良い条件の時でわずか1個である。レーザーは高い単色性をもつため、この光子はレーザーを反射したものだと判断できる。これは、史上最も正確な距離測定の1つであり、ロサンゼルスニューヨークの間の距離を100分の1インチ精度で測定することに匹敵する[4][7]。2002年時点で、反射器の性能は年を経る事に悪くなっているが、月と地球の間の距離をmm単位の精確さで測定するための研究が続けられている[4]

結果[編集]

長期間の実験による発見は次のとおり:

  • 月は、年間 3.8 cm の速さで、地球かららせん状に遠ざかっている[6][8][9][10]。この速度は、異常に速いと言われる[11]
  • 月は、恐らく半径の20%程度の液体のを持つ[3]
  • 万有引力理論は非常に安定している。この実験では、1969年以降、ニュートンの重力定数Gの上限を、1011分の1引き上げただけである[3]
  • ノルドベッド効果英語版は、高い確度で排除され[12][13]強い等価原理の妥当性が示唆された。
  • アインシュタインの一般相対性理論は、月の軌道を高い精度で予測した[3]

月面の反射器の存在は、アポロ計画陰謀論への反証として利用されてきた。例えば、 APOLLO Collaboration の光子パルスのパターンは、既知の着陸地点の付近に反射器が存在することと整合している。

ギャラリー[編集]

出典[編集]

  1. ^ Bender, P. L., The Lunar Laser Ranging Experiment, UCSD
  2. ^ McDonald, Kim (2010年4月26日). “UC San Diego Physicists Locate Long Lost Soviet Reflector on Moon”. UCSD. http://ucsdnews.ucsd.edu/newsrel/science/04-26SovietReflector.asp 2010年4月27日閲覧。 
  3. ^ a b c d James G. Williams and Jean O. Dickey. “Lunar Geophysics, Geodesy, and Dynamics” (PDF). ilrs.gsfc.nasa.gov. 2008年5月4日閲覧。 13th International Workshop on Laser Ranging, October 7-11, 2002, Washington, D. C.
  4. ^ a b c It’s Not Just The Astronauts That Are Getting Older”. Universe Today (2010年3月10日). 2012年8月24日閲覧。
  5. ^ Seeber, Gunter. Satellite Geodesy 2nd Edition. de Gruyter, 2003, p. 439
  6. ^ a b Fred Espenek (1994年8月). “NASA - Accuracy of Eclipse Predictions”. eclipse.gsfc.nasa.gov. 2008年5月4日閲覧。
  7. ^ Apollo 11 Experiment Still Going Strong after 35 Years”. www.jpl.nasa.gov (2004年7月20日). 2008年5月4日閲覧。
  8. ^ Britt Scharringhausen (2002年5月). “Is the Moon moving away from the Earth?”. Ask an Astronomer. Astronomy Department at Cornell University. 2013年12月4日18:56:02時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月16日閲覧。
  9. ^ C.D. Murray & S.F. Dermott (1999). Solar System Dynamics. Cambridge University Press. p. 184 
  10. ^ Dickinson, Terence (1993). From the Big Bang to Planet X. Camden East, Ontario: Camden House. pp. 79–81. ISBN 0-921820-71-2 
  11. ^ Bills, B.G., and Ray, R.D. (1999), “Lunar Orbital Evolution: A Synthesis of Recent Results”, Geophysical Research Letters 26 (19): 3045-3048, Bibcode1999GeoRL..26.3045B, doi:10.1029/1999GL008348, http://www.agu.org/pubs/crossref/1999/1999GL008348.shtml 
  12. ^ Adelberger, E.G., Heckel, B.R., Smith, G., Su, Y., and Swanson, H.E. (1990-Sep-20), “Eotvos experiments, lunar ranging and the strong equivalence principle”, Nature 347 (6290): 261-263, Bibcode1990Natur.347..261A, doi:10.1038/347261a0, http://www.nature.com/nature/journal/v347/n6290/abs/347261a0.html 
  13. ^ Williams, J.G., Newhall, X.X., and Dickey, J.O. (1996), “Relativity parameters determined from lunar laser ranging”, Phys. Rev. D 53: 6730-6739, Bibcode1996PhRvD..53.6730W, doi:10.1103/PhysRevD.53.6730, http://prola.aps.org/abstract/PRD/v53/p6730_1 

外部リンク[編集]