本部半島カルスト地域

座標: 北緯26度40分32秒 東経127度54分50秒 / 北緯26.67556度 東経127.91389度 / 26.67556; 127.91389

山里の円錐カルスト(沖縄県本部町)

本項の本部半島カルスト地域(もとぶはんとうカルストちいき)[注 1]では、沖縄本島北部の本部半島北西部に位置するカルスト地形について説明する。

地形・地質[編集]

大堂(うふどう)ポリエ

沖縄本島北部、本部半島の北西部に位置し[2]沖縄県国頭郡本部町山里(やまざと)、大堂(うふどう)、同郡今帰仁村今泊(いまどまり)にまたがる[3]

本部半島を中心に、古生代ペルム紀から中生代三畳紀石灰岩(本部石灰岩)が分布している[4]。特に山里一帯には、石灰岩の溶食が進行し、窪地が形成された結果、円錐状に取り残された凸地が際立つ「円錐カルスト」が見受けられる[5][注 2]。比高約30メートルの円錐状のが点在し、頂上部に切り立った石灰岩(カレン)が露出している[7]。また、丘との間に星形のドリーネが形成され[8]、幅70 - 200メートルに達する[9]

大堂に長さ1.2キロメートル、幅0.5キロメートルの三角形状の低地があり、「大堂ポリエ」と呼ばれる[10]。一般的には「盆地」に分類される地形であるが、河川は無く、雨水は「ポノール」といわれる穴から地下へ流入し、ときに大雨で一時的にが出現するという[2]。地下に鍾乳洞が存在している[7]。本部町嘉津宇には、「キジキナ川」と呼ばれるがあり、当地域で唯一表流する河川である[11]

当地域のカルスト地形は、熱帯地域に発達する「円錐カルスト」と考えられ[12][注 3]、本部石灰岩とほぼ同年代の石灰岩から成る本州秋吉台九州平尾台のカルスト地形とは、成因環境が異なるものとされる[14][15]。本部半島の山里における地中と地下水炭酸ガス濃度が、秋吉台と平尾台より高いことから[16]、高温で多湿な気候により石灰岩の溶食速度が大きく、起伏のあるカルスト地形がつくられたと推測される[17]

採掘計画から公園へ[編集]

アメリカ軍統治時代の当地では岩石採掘が行われていたが、日本復帰後において、海洋博開催前に景観保全を理由に採掘が中止となった[18]。1991年(平成3年)、山里における砕石工場の建設計画に周辺住民は反対、本部町長に要請文を送付した[19]。2000年(平成12年)、採石場建設計画が再び進められたが[20]、住民の反対により取り下げられた[21]。2002年(平成14年)に、今帰仁村今泊でも採掘計画が浮上したが、住民の反対により中止となった[22]

1999年(平成12年)、本部町は公園化に向けた調査を行い[20]、翌年の採石場建設計画を受け、公園の実現を目指して推進するとした[23]。本部町と今帰仁村は沖縄県に公園指定を要請[24]、2005年(平成17年)、沖縄県は編入計画案を環境省へ提出[25]、翌年の3月28日に沖縄海岸国定公園へ編入された[26]。カルスト地形を望み、今帰仁城を巡る「ふれあい自然公園」と位置づけられ[25]、本部町山里に博物展示施設や野営場、今帰仁村今泊には今帰仁城と集落を通る遊歩道の設置計画が追加された[24]

当地域を含む本部半島を中心とするジオパーク構想が立てられ、日本ジオパークネットワーク準会員から正会員への申請手続きがなされた[27]。2013年(平成25年)8月に日本ジオパーク委員会による審査が行われたが[28]、結果は「見送り」となった[29]

カルスト地域の山[編集]

「ミラムイ(本部富士)[30]」(標高250メートル[31])をはじめ、円錐形の山々が点在し[32]ヤブニッケイが生息している[3]。当地域最高峰の「シジマヌ」は、今帰仁村に属する[33]。山の名前は、山が位置する小字や麓の屋号などから名付けられている[34]。本部町は、カルスト地域を探訪する「ふるさと歩道」として5路線、登山道を「カルスト歩道」として6路線を設定した[35]。付近に沖縄県道115号線が通る[36]

ユネームイ
ヘービラムイ
本部半島カルスト地域における山の位置と名称[注 4]
01 シンブトムイ 15 デーサンダームイ
02 マングシクグワァー 16 ヌファムイ
03 マングシク 17 ウフンジャムイ
04 タビウクイムイ 18 クシマガヤームイ
05 チバムイ 19 ギマムイ
06 ハラガー 20 ヘービラムイ
07 シジマヌ 21 ヤーグワァームイ
08 クバの御嶽(西の峯) 22 イラサームイ
09 クバの御嶽(東の峯) 23 ギシキリムイ
10 メーラムイ 24 シマジュウムイ[30](ジマジョウムイ[38]
11 トミザトムイ 25 ソウジムイ
12 ミラムイ(本部富士) 26 ユネームイ
13 デークムイ 27 ウチントウ
14 ウフグシクムイ 出典は主に本部町企画政策課編(2005年)による[38]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 沖縄海岸国定公園へ追加指定された際の名称[1]
  2. ^ 「円錐カルスト」は、本部半島で当地域のほかに、嘉津宇岳頂上部にみられる[6]
  3. ^ 「円錐カルスト」のほかに、塔状に形成された「塔カルスト」があり、これらは合わせて熱帯特有の石灰岩地形であるから、「熱帯カルスト」と呼ばれる[13]
  4. ^ 山名にある「ムイ(森)」は、方言で盛り上がった地形をいい、御嶽が存在している[37]

出典[編集]

  1. ^ 尾方(2014年)、p.62
  2. ^ a b 「大堂ポリエ」、目崎(1988年)、p.32
  3. ^ a b 「第1章 本部町の概況 動植物・天然記念物」、本部町企画政策課編(2016年)、p.11
  4. ^ 目崎(1984年)、p.148
  5. ^ 町田ほか(2001年)、p.33, 248
  6. ^ 「嘉津宇岳」、目崎(1988年)、p.28
  7. ^ a b 「2. 島じまの地形めぐり」、沖縄地学会編著(1997年)、p.16
  8. ^ 目崎茂和「19. 円錐カルストは熱帯なり 大堂と山里」、堀ほか(1982年)、p.123
  9. ^ 「6. 気候地形としての沖縄島」、目崎(1985年)、p.133
  10. ^ 町田ほか(2001年)、p.248
  11. ^ 「IV-4. 地域別整備構想」、本部町企画政策課編(2005年)、p.50
  12. ^ 「7. 沖縄島の円錐カルスト地形」、目崎(1985年)、p.133
  13. ^ 「5. 山水画の世界 - 円錐カルスト -」、河名(1988年)、p.50
  14. ^ 「5. 山水画の世界 - 円錐カルスト -」、河名(1988年)、p.49
  15. ^ 「6. 気候地形としての沖縄島」、目崎(1985年)、p.134
  16. ^ 「5. 山水画の世界 - 円錐カルスト -」、河名(1988年)、p.53
  17. ^ 前門晃「熱帯カルスト」、沖縄県教育庁文化財課史料編集班編(2015年)、pp.163 - 164
  18. ^ 「本部富士を自然公園化」『沖縄タイムス』第16202号、1994年5月12日、朝刊、8面。
  19. ^ 「採石工場容認できぬ 町長に建設反対要請」『琉球新報』第29616号、1991年9月3日、朝刊、23面。
  20. ^ a b 「採石場計画が再燃」『沖縄タイムス』第18514号、2000年9月21日、夕刊、5面。
  21. ^ 「採石場計画を断念」『沖縄タイムス』第18584号、2000年11月30日、朝刊、27面。
  22. ^ 「I-1. 利用整備構想の目的と位置づけ」、本部町企画政策課編(2005年)、p.1
  23. ^ 「公園化計画 推進を強調」『琉球新報』第32909号、2000年9月26日、夕刊、3面。
  24. ^ a b 「カルストが国定公園に」『琉球新報』第34913号、2006年3月29日、朝刊、1面。
  25. ^ a b 「本部のカルスト 国定公園に編入」『沖縄タイムス』第20523号、2006年3月29日、夕刊、4面。
  26. ^ 「第1章 本部町の概況 沿革」、本部町企画政策課編(2016年)、p.7
  27. ^ 尾方(2014年)、p.55
  28. ^ 尾方(2014年)、p.59
  29. ^ 尾方(2014年)、p.61
  30. ^ a b 尾方ほか(2011年)、p.14
  31. ^ 「250. 本部富士」、吉野(2000年)、p.251
  32. ^ 目崎茂和「19. 円錐カルストは熱帯なり 大堂と山里」、堀ほか(1982年)、p.122
  33. ^ 「III-2. 保護規制計画の概要」、本部町企画政策課編(2005年)、p.11
  34. ^ 山里誌編集委員会編(1999年)、pp.60 - 61
  35. ^ 「III-4. 利用施設計画の概要」、本部町企画政策課編(2005年)、pp.15 - 16
  36. ^ 「II-1. 検討地域の状況と利用検討対象地」、本部町企画政策課編(2005年)、p.6
  37. ^ 尾方ほか(2011年)、p.10
  38. ^ a b 「資料4. 利用状況図」、本部町企画政策課編(2005年)、資料編p.4

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 尾方隆幸ほか 『島々のジオツアー 本部半島の石灰岩とカルスト』 琉球列島ジオサイト研究会、2011年。
  • 尾方隆幸 「琉球列島におけるジオパーク活動 - 本部半島ジオパーク構想の申請・審査 - 」、『沖縄地理 第14号』 沖縄地理学会、2014年。ISSN 0916-6084
  • 沖縄県教育庁文化財課史料編集班編 『沖縄県史 各論編 第1巻 自然環境』 沖縄県教育委員会、2015年。
  • 沖縄地学会編著 『沖縄の島じまをめぐって 増補版』 築地書館〈日曜の地学 14〉、1997年。ISBN 4-8067-1033-4
  • 河名俊男 『琉球列島の地形』 新星図書出版〈シリーズ沖縄の自然 3〉、1988年。全国書誌番号:88030779
  • 堀淳一ほか 『地図の風景 九州編III 鹿児島・沖縄』 そしえて〈そしえて文庫 100〉、1982年。ISBN 4-88169-299-2
  • 町田洋ほか 『九州・南西諸島』 財団法人東京大学出版会〈日本の地形 7〉、2001年。ISBN 4-13-064717-2
  • 目崎茂和 「日本の主要カルストの地形形成について」、琉球大学法文学部編 『琉球大学法文学部紀要 史学・地理学篇 第27・28合併号』 琉球大学法文学部、1984年。ISSN 0387-7213
  • 目崎茂和 『琉球弧をさぐる』 沖縄あき書房、1985年。
  • 目崎茂和 『南島の地形 - 沖縄の風景を読む -』 沖縄出版、1988年。ISBN 4-900668-09-5
  • 本部町企画政策課編 『本部町円錐カルスト国定公園検討地域利用整備構想』 本部町企画政策課、2005年。
  • 本部町企画政策課編 『第4次本部町総合計画 太陽と海と緑 - 観光文化のまち』 本部町企画政策課、2016年。
  • 山里誌編集委員会編 『山里誌』 山里創設五十周年記念事業期成会、1999年。
  • 吉野晴朗 『ふるさとの富士250山をゆく』 毎日新聞社、2000年。ISBN 4-620-60560-3

外部リンク[編集]