毒見

毒見(どくみ)とは、誰かに出される食物が安全であるかどうかを実際に食して確認すること。が含まれていないか、腐敗していないかなどを確認する。毒見を担当する役割を毒見役という。毒味や毒味役の「味」は当て字である。

概要[編集]

通常は、重要な人物(皇帝君主、あるいは暗殺や危害が加えられそうな人物)に対して行う。

食物の安全性は、毒見役がその後、体に異常がないかどうかで確認される。そのため、毒見は急性毒に対しては効果的であるが、遅効性の毒に対しては効果的ではない。

近年では似たような役割に検食が存在する。検食とは食事を提供する側(病院教育施設福祉施設刑務所自衛隊等)の長、若しくはそれに順ずる責任者が提供する前に食し、異物、調理の異常の有無、食事の量、質などを検査する。簿冊が備えられている場合が多く、検食者(検食官)が食後に記入し、調理師の参考とする。

世界における毒見[編集]

古代ローマでは為政者が毒を盛られることが頻繁だったので、ローマ皇帝は、紀元前27年に即位した初代皇帝アウグストゥス以降、歴代の皇帝が毒見奴隷を抱えることとなった[1]。毒見奴隷の寿命は、おおむね短かったという。ハロタス英語版クラウディウスの毒見役で使用人頭であったが、西暦54年、クラウディウスが毒キノコに当たって死んだ後も、後継の皇帝の毒見役を務めたことから、暗殺に関わったとも考えられている[2]

13世紀エジプトの将軍イッズッディーン・アイバクは、スルタンの奴隷として毒見役をつとめたことから出世し、ついにはスルタンにまで登りつめている。

オスマン帝国(13世紀終わり - 20世紀初頭)のハレムにおいては、まず新人の女奴隷として宮廷に入り、3年を経験したのち、洗濯係や毒見係・妃の侍女などに配属された[3]

中国では、毒見役は試毒(中国語:试毒)、嘗毒と呼ばれ、一般的に宦官が行った[4]清朝時代では、毒見役は尝膳太监と呼ばれた[5][6]

20世紀ソビエト連邦の政治家スターリンは、自分が食事を取る前に部下に食べさせていたという。

日本における毒見[編集]

平安時代には薬子(くすりこ)という毒見役があり、宮中で元旦の屠蘇などの毒味をしていたという[7]。また、毒見は「鬼食ひ」と呼ばれていた[8]

江戸時代寛文6年(1666年)、仙台藩の幼藩主伊達綱村は数え8歳の時に毒殺されかけたが、毒見役の働きによって難を逃れている。

徳川将軍家では「御膳奉行」が毒見をし、問題がなければ運ばれ、最終的に小姓が毒見をするという二重の毒見制とされる[9]

磯田道史古文書研究による解読によれば、近世期の毒見役とは毒見をする係ではなく、毒見をさせる係であり、その毒見をさせられたのは調理担当者と御膳を運ぶ者とされる[10]

近代皇室では侍医長が御試食(おしつけ)として事前に天皇に出させる食事の毒見を行なっていた。現在でも行なわれているが検食に近く、栄養管理が主目的である。

西南戦争において西郷隆盛の料理番となった平田源吉という人物は、元々は鹿児島城下の鰻屋であったが、その正直さをかわれて料理番となり、自ら毒見をした[11]

毒見役を主題とする作品[編集]

著名な毒見[編集]

出典[編集]

  1. ^ ヴィッキー・レオン 『古代仕事大全』 p.117、原書房 2009年。
  2. ^ Jacob Abbott Nero Harper & Bros., 1881
  3. ^ 朝日新聞2022年5月14日(土曜)付、読書頁。小笠原弘幸『ハレム 女官と宦官たちの世界』。書評・澤田瞳子。
  4. ^ 加藤徹 KATO Toru's Webpage”. www.isc.meiji.ac.jp. 明治大学、加藤徹. 2023年12月18日閲覧。
  5. ^ sina_mobile (2019年2月23日). “清朝皇帝用膳,每餐几十上百道菜,吃剩的饭菜都是怎么处理的”. k.sina.cn. 2023年12月18日閲覧。
  6. ^ 网易 (2023年2月17日). “在古代,为什么不通过下毒来杀掉皇帝?溥仪:压根没吃过一口热饭”. www.163.com. 2023年12月18日閲覧。
  7. ^ "薬子(くすりこ)". デジタル大辞泉. 小学館. 2020. goo辞書より2021年4月11日閲覧
  8. ^ "鬼食ひ(おにくい)". デジタル大辞泉. 小学館. 2020. goo辞書より2021年4月11日閲覧
  9. ^ 図解! 江戸時代. 三笠書房. (2015). p. 144 
  10. ^ 磯田, 道史 (2018). 日本史の内幕 (10 ed.). 中公新書. p. 130 
  11. ^ 磯田, 道史 (2018). 素顔の西郷隆盛. 新潮新書. pp. 224-225 
  12. ^ Ellingwood, Susan (2019年2月22日). “Hitler Had Food Tasters, Anne Frank Lived and Maud Baum Wanted to Be Heard”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2019/02/22/books/review/at-wolfs-table-rosella-postorino.html 2019年4月4日閲覧。 
  13. ^ ヒトラーの毒味役だった独女性「常に死の恐怖におびえていた」”. Reuters (2013年7月2日). 2023年12月22日閲覧。
  14. ^ Vladimir Putin employs a full-time food taster to ensure his meals” (英語). The Independent (2014年7月24日). 2023年12月19日閲覧。

関連項目[編集]

  • 徳川将軍家御台所 - 大奥での毒見の様子の説明がある。
  • 礼記 医三世(ウィクショナリー)
  • 目黒のさんま - 複数の毒見を経た将軍の食事は冷めてて不味いことから。
  • Cup-bearer英語版 - 酌人とも訳される飲み物を管理する役人で、毒見も行った。
  • 接吻 - 中世ヨーロッパでは、食器、枕やベッドなど様々なものに接吻(キス)をして毒がないか確認を行った。
  • 歩哨動物英語版(歩哨生物種) - 炭鉱のカナリアなど人間よりも先に毒などの影響を見つける種を指す。
  • TAS2R38英語版 - 毒を検知するために発達したとされる苦味味覚受容体
毒対策
  • ユニコーン - 角が解毒の効果があるとされたことから、実際はクジラのイッカクの角などを食べ物に接触させるなどした。
  • 銀食器 - 朝鮮の両班は毒を警戒して、銀の箸を用いた。
  • 青磁 ‐ イスラム世界では、毒と反応して変色すると信じられた。

外部リンク[編集]