腎臓学

腎臓とネフロン糸球体

腎臓学(じんぞうがく、英語: nephrology)は、腎臓尿路系の疾患を中心に診療・研究する内科学から発展していった医学の一分野。

同じ領域を扱う外科学の分野として泌尿器科学がある。

歴史[編集]

症候[編集]

  • 乏尿
  • 無尿
  • 多尿
  • 血尿
  • 夜間尿
    夜間尿(やかんにょう)は、夜間に出る尿。失禁とは独立した概念。
    • 状態
      排尿のために夜間頻繁に起きる。
    • 病態
      糸球体濾過を経た尿を原尿と言う。糸球体では昼夜問わず血液の濾過が行われるので、原尿は昼夜を問わず生成される。夜間は尿細管で原尿の中から水分を多めに再吸収する事で尿を濃縮している。腎臓が尿を濃縮する力を腎濃縮力と言う。腎濃縮力が正常であれば、原尿を充分濃縮して朝まで排尿をせずに居られる。しかし腎濃縮力が低下していると原尿が濃縮されずに膀胱に溜まるため、夜間尿を呈する。
  • タンパク尿
    • 生理的タンパク尿
      • 体位性タンパク尿
      • 運動性タンパク尿
    • 病的タンパク尿
  • 腎不全

検査[編集]

腎臓針生体検査[編集]

腎生検(じんせいけん、腎臓針生検腎針生検)は、腎臓に中空の針を刺して組織を抜き取り、顕微鏡で調べる病理学検査。

  • 方法
    肋骨椎体角部(Costo-Vertebral Angle:以下CVA)に腎生検用の針を刺す。まずCVAを皮膚消毒する。次に無菌のビニール袋を被せた超音波検査装置のプローブで腎臓の位置を調べる。プローブのソケットに針ガイドがついていて、局所麻酔を注射する。麻酔針と腎生検用針をとりかえて、超音波ガイド下に生検針を腎臓付近まで進める。腎臓付近まで生検針を進めたら、引き金を引いて検体採取用の針を発射し、針を抜いて圧迫止血する。これを3~6回繰り替えす。
  • 痛み
    麻酔針を刺すときに多少の痛みがあるが、それ以外の痛みは殆どない。むしろ検査後、長時間にわたる安静臥床によって起こる腰痛が苦しい。
  • 合併症
    • 腎被膜下血腫
      腎被膜下血腫は、腎臓の皮膜の内側に血液が溜まる事。圧迫止血が充分でないと起こる。皮膜が伸展されると痛い。出血がコントロールできず、後腹膜血腫に至る場合がある。検査後の輸血等の処置が必要となる可能性は1人/1000人前後。検査による死亡は1人/15000人と言われている。

糸球体濾過量[編集]

糸球体濾過量(しきゅうたいろかりょう、GFR)は、糸球体濾過した原尿の量。基準値は100~120ml/分。糸球体濾過量を測定の指標物質には、人体に無害であり、体内にトラップされることなく糸球体で濾過され、濾過後は尿細管で何ら分泌再吸収されない、等の性質が求められる。糸球体濾過量を測定する検査には以下の物がある。

  • イヌリンクリアランス
    イヌリンは、人体に無害であり、体内にトラップされることなく糸球体で濾過され、濾過後は尿細管で何ら分泌再吸収されない。この性質の為に、糸球体濾過量を測定するのに都合がよい。しかし生体内に存在しない物質なので、静脈注射とその後の体内への均等な分配を待つ必要があり、検査として不便。
  • クレアチニンクリアランス(Ccr、CLcr)
  • シスタチンC (CysC, Cys-C)

腎血流量[編集]

腎臓の血流量を腎血流量(RBF)と言う。腎血流量を調べる検査として以下のものがあげられる。

  • レノグラムレノグラフィrenogram
    レノグラムは、腎血流量を計る検査。
    • 原理
      放射線標識したMAG3等が近位尿細管から分泌される事を用いて、腎血漿流量(RPF)を測定することにより、腎血流量を求める。
    • 方法
      標識物質として99mTc-MAG3等を用いる。

糸球体病変[編集]

糸球体病変では血尿の場合、尿沈さ鏡検で、赤血球に破壊、変形が見られる。

主にネフローゼを示す糸球体病変[編集]

糸球体腎炎[編集]

  • 感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)
    • 原因
      • A群β溶連菌感染。感染後約2週間後に腎症が発症するため、この感染の事を先行感染と言う。
    • 症状
    • 検査
      • 血清免疫学検査
        急性期には血清補体価は低値を示す。
      • 血清免疫学検査
        溶連菌感染によって血清ASO高値を示す。また、病態に応じて血清補体価の低下が見られる。
      • 腎生検
        • 蛍光C3抗体染色
          糸球体係蹄に沿って沈着が見られる。この半円状の沈着をlinear patternと言う。
    • 診断
      病期は乏尿期、利尿期、回復期と言う経過を取る。
    • 治療
      • 乏尿期には安静臥床とする。
        • 食事療法
          • 水分
            水分は「前日の尿量+不感蒸泄」とする。
          • 塩分
            浮腫の増悪予防のために、3~5g/日とする。
        • 薬物療法
          薬物療法は対症療法的に用いる。
  • 急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
  • 慢性糸球体腎炎
  • IgA腎症

間質性病変[編集]

尿細管病変[編集]

  • 黄疸出血性レプトスピラ症
    タンパク尿を呈する。
  • 尿細管性アシドーシス(RTA)
    • I型尿細管性アシドーシス(遠位尿細管性アシドーシス)
      • 原因
        シェーグレン症候群、等。
      • 病態
        遠位尿細管では水素イオンの排泄が行われ、これが損なわれると遠位尿細管性アシドーシスになる。
      • 統計
        原因はシェーグレン症候群が多い。
    • II型尿細管性アシドーシス(近位尿細管性アシドーシス)
      • 病態
        近位尿細管では炭酸水素イオンの再吸収が行われ、これが損なわれると近位尿細管性アシドーシスになる。
    • IV型尿細管性アシドーシス(高カリウム型尿細管性アシドーシス)
      • 病態
        遠位尿細管で水素イオンを排泄するポンプは鉱質コルチコイドによって活性化されるので、鉱質コルチコイド作用が低下すると遠位尿細管性アシドーシスになる。これを特に高カリウム型尿細管性アシドーシスと言う。
  • バーター症候群
  • リドル症候群

嚢胞性病変[編集]

全身の病変[編集]

透析骨症[編集]

血管の病変[編集]

悪性腫瘍[編集]

治療[編集]

透析[編集]

移植[編集]

iPS細胞による腎臓の再生および患者への移植に向けての始動[編集]

2018年8月、東京慈恵会医科大学熊本大学明治大学は共同で、iPS細胞を用いた腎臓再生治療についての臨床研究の実施を文部科学省に申請した。これはiPS細胞から腎臓の元となるネフロン前駆細胞を作成し腎臓へと育て、人工透析患者に移植することを目指すものである[1][2]。これまで動物実験段階では腎臓の再生および移植は実現していたが、臨床への応用は嚆矢である[3][4][5][6]

脚注[編集]

  1. ^ 「メディア掲載『iPS細胞での腎臓再生 慈恵医大など、世界初の臨床研究申請へ」東京慈恵会医科大学付属病院腎臓・高血圧内科
  2. ^ 「iPS細胞で腎臓再生 慈恵医大など、世界初の臨床研究申請へ」『日刊工業新聞』2018-8-23
  3. ^ Saito, Yatsumu & Takashi Yokote, 2020 "Functional kidney regeneration using pluripotent stem cells", Nephrology 12(4):418-25
  4. ^ Saito, Yatsumu & Shuichiro Yamanaka. 2019 ”Progress of de novo whole kidney regeneration : a review.” Journal of Japanese Society for Clinical Renal Transplantation 7(1):76-83
  5. ^ 兩坂誠, 長船健二2016「iPS細胞を用いた腎臓再生と腎疾患治療への応用 (特集 腎移植update : 腎臓病学・免疫学・再生医学からの新知見)」『腎臓内科・泌尿器科』3(2):153-9
  6. ^ 「ヒトiPS細胞から別個に分化させた複数の腎前駆細胞から腎組織を再生する」『京都大学iPS細胞研究所CiRA』2020-4-8

関連項目[編集]