鮫島浩 (ジャーナリスト)

さめじま ひろし

鮫島 浩
生誕 1971年(52 - 53歳)
兵庫県神戸市
国籍 日本の旗 日本
出身校 京都大学法学部
職業朝日新聞社新聞記者
ジャーナリスト
活動期間 1994年 -
受賞 日本新聞協会賞(2013年度)
公式サイト SAMEJIMA TIMES
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鮫島 浩(さめじま ひろし、1971年 - )は、日本のジャーナリスト。元朝日新聞社新聞記者。同社の特別報道部デスクとして、2013年度の日本新聞協会賞を受賞。2021年に退社し、ウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を立ち上げた[1]

来歴・人物[編集]

兵庫県神戸市生まれ[2]。母子家庭で育ち、小学6年生までは尼崎市に住んだ。奨学金を得て香川県立高松高等学校に進学。2年生での同級生に小川淳也がいた[3]。進学先を決める時期にさしかかったとき、小川は校長に「鮫島に東京大学に行ってもらうよう説得してくれ」と頼まれるが、関西圏指向の強かった鮫島は小川の勧めを固辞し、1990年に京都大学法学部に入学した[4]。入学当初はトイレも水道もない家賃1万円の下宿で生活した[5]。いくつかの会社から内定を受け、そのうちの朝日新聞社を断り、新日本製鐵を選んだ。社員の一人からは何度も呼び出され「君と一緒に仕事をしたい」と口説かれた。しかし、次第に「ビジネスの世界に身を投じることへの抵抗感」が湧き起こり、内定を断った各社に打診したところ、唯一「今からでも来ていい」と答えたのが朝日新聞社であった[6]

1994年4月、朝日新聞社に入社。初任地は茨城県のつくば支局であった[7]。水戸、浦和の各支局に赴任。

1999年春、浦和支局長の橘優の推薦により、政治部に移動。特ダネ政治記者として知られていた橘は半年後、順当に政治部長となった[注 1]

番記者として、菅直人竹中平蔵古賀誠与謝野馨町村信孝ら、与野党政治家を幅広く担当した[1][注 2]

2010年4月、政治部長に渡辺勉が就任。鮫島は政治部から特別報道センターに異動。同年6月2日、鳩山由紀夫首相が退陣を表明し[12]、6月8日に菅直人が首相に就任した。7月、渡辺は「民主党の政局が激しくなるので政治部に9月に戻ってもらう」と鮫島に告げ、9月下旬に鮫島は政治部次長(デスク)に抜擢された。キャップさえも経験していない30代の記者のデスク就任は異例であった[13]

2012年6月、特別報道部デスクに就任[14]福島第一原子力発電所事故における「被曝隠し」の調査報道を主導。同年7月21日朝刊1面のスクープ記事を皮切りに、取材班は原発作業員の劣悪な労働環境に迫るキャンペーンを続けた。

2013年1月初旬には、「手抜き除染横行」のスクープを報道。鮫島は証拠として動画や写真を朝日新聞のサイトで公開し、反響が広がった[15]

同年10月16日、新聞大会が開かれ、「手抜き除染」報道は日本新聞協会賞(編集部門)を受賞した[16]

吉田調書報道[編集]

2014年2月、特別報道部の市川誠一部長に呼び出され、木村英昭記者がいわゆる吉田調書を入手したことを知らされる。鮫島はデスクとして、木村、宮崎知己の取材チームに堀内京子を加わらせた[17]。同年5月20日、「政府事故調の『吉田調書』入手/所長命令に違反 原発撤退」との見出しが朝刊一面に載る[18][19]。この日の夜、鮫島は本社8階にあるローソンに夜食を買いに行ったところ、店内に入った途端、社員たちに取り囲まれ握手攻めにあったとのちに自著の中で綴っている[20]

同年6月から「待機命令を知らずに退避したのを命令違反と言えるのか」という指摘が出始める。鮫島は第一報の説明不足や不十分な表現を補うため、読者に丁寧に説明する特集紙面をつくることを会社側に提案した。編集局長の渡辺勉は了承するも、役員の反対に遭って紙面化は実現しなかった。社長の木村伊量が吉田調書スクープを新聞協会賞に申請すると意気込んでいたため、第一報を修正するような続報は出せないという説明がなされた[21]

同年8月5日、朝日新聞社は従軍慰安婦問題を巡る報道について、吉田清治の証言を虚偽と判断し、過去の記事16本を取り消した[22][23]。9月2日、「週刊文春」電子版が「池上彰が朝日新聞8月29日朝刊掲載予定であったコラムに朝日新聞の対応の遅さを批判する原稿を寄せたところ、木村が激怒し、コラム掲載を拒否した」とする記事を配信。各紙の吉田調書報道批判とあわせ、朝日バッシングは頂点に達した。9月11日、木村は記者会見し、吉田調書報道を誤報と認め、「関係者を厳正に処罰する」「経営トップとしての私の責任も逃れられない」と述べた[24][25]。鮫島は同年12月5日付で懲戒処分を受け、記者職を解かれ、知的財産室へ異動となった[26][注 3]

2016年9月、記者職に復帰し、編集局GLOBE編集部に配属。2018年、言論サイト「WEBRONZA」の再建に関わる。同サイトは2019年4月15日にリニューアルし、名前も「論座」に変わった[28][29]

2019年7月12日、れいわ新選組は街頭演説を含むイベント「れいわ祭」を品川駅港南口で開催[30]。たまたまこれを見た鮫島は、参院選候補者の木村英子の演説に感銘を受ける。「政治記者としてこれまで数え切れないほど街頭演説を聞いてきましたが、泣いてしまうなんて初めての体験でした」とこのときのことをのちに明かしている[31]

フリーランスへ[編集]

2021年2月、早期退職の書類を会社に提出。同年2月28日、ウェブサイト「SAMEJIMA TIMES」を立ち上げた。5月31日付で退職[32]。同年6月22日発売の「サンデー毎日」7月4日号から、政局・政界に関するコラムを不定期で執筆。

2022年5月27日、初めての著書『朝日新聞政治部』を出版。同書は初日に3刷、3万部を超え、話題となった[33]トーハン同年6月期月間ベストセラーにおいて「ノンフィクション・ライトエッセイ」部門で7位を記録した[34]

同年6月22日、第26回参議院議員通常選挙が公示。れいわ新選組のYouTube公式チャンネルに、鮫島のほか、白井聡内田樹想田和弘ら、計10人の動画応援メッセージがそれぞれ掲載される。鮫島は自身が行ってきた政治報道に対する反省の言葉を述べつつ、視聴者に向けて同党への支援ならびに投票を訴えた[35]

著書[編集]

  • 鮫島浩『朝日新聞政治部』講談社、2022年5月27日。ISBN 978-4065280348 
  • 泉房穂、鮫島浩『政治はケンカだ! 明石市長の12年』講談社、2023年5月1日。ISBN 978-4065318997 

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 橘優は2011年に退社し、2013年から2017年夏頃までジャパンライフの顧問を務めた。2017年12月26日、ジャパンライフは負債総額2405億円を抱え倒産[8]。橘は同社から計約3千万円の顧問料を受け取っていたとして、被害者から損害賠償を求めて提訴された[9]。2020年9月18日に元会長の山口隆祥元会長および旧経営陣14人が詐欺容疑で逮捕された[10]ことで、橘とジャパンライフの関係も広く報じられることとなった。
  2. ^ 菅直人番記者であった鮫島は、菅と幹事長代理の前原誠司(2001年9月~2002年9月在任)[11]から国政選挙に出ないかと熱心に誘われるが、断り続けていた。ちょうどその頃、当時総務省の官僚であった小川淳也地下鉄日比谷線広尾駅で偶然に出会う。高校時代以来の再開となった二人はそのまま飲み屋に行き、鮫島が「民主党はどう?」と尋ねると小川は出馬に積極的な返事をした。鮫島の紹介で小川は菅と会い、水面下で立候補に向けた準備が進んだ[3][4]。小川は2003年の総選挙は落選するが、2年後の総選挙で初当選した。
  3. ^ 2022年9月3日に公開されたインターネットの言論系チャンネルの動画で、鮫島は「私は今でも第一報は、新聞の報道の目的に照らして間違ったとは思っていません」「原発事故が一度起これば、大混乱の中で指揮命令系統が崩壊して、誰もいなくなる事態が起こり得るということを、解説でもっと丁寧にやればよかったという意味で反省はあります」と述べている[27]

出典[編集]

  1. ^ a b 『朝日新聞政治部』(鮫島 浩)”. 講談社BOOK倶楽部. 講談社. 2022年9月9日閲覧。
  2. ^ 鮫島浩氏「番記者制度は廃止を」元・朝日新聞記者が憂える大メディアの凋落”. 日刊ゲンダイ (2022年7月11日). 2022年9月9日閲覧。
  3. ^ a b 水道橋博士の異常な対談 (2022年8月27日). “【新事実】小川淳也を国会議員へ導いたのは●●だった!地元同級生の鮫島浩が素顔を語る”. YouTube. 2022年9月6日閲覧。
  4. ^ a b ネツゲンチャンネル (2020年12月30日). “『なぜ君は総理大臣になれないのか』スペシャルトーク第1弾!”. YouTube. 2022年9月6日閲覧。
  5. ^ 『朝日新聞政治部』著者・鮫島浩氏インタビュー【後編】 選挙報道はもっと面白くできる! “SAMEJIMA TIMES”の挑戦”. 集英社新書プラス. 集英社 (2022年9月4日). 2022年9月9日閲覧。
  6. ^ 鮫島 2022, pp. 24–26.
  7. ^ 鮫島 2022, p. 28.
  8. ^ ジャパンライフ(株)”. TSR速報. 東京商工リサーチ (2017年12月26日). 2017年12月26日閲覧。
  9. ^ 朝日新聞元政治部長も退社後に顧問 ジャパンライフ”. 朝日新聞 (2020年9月18日). 2022年9月9日閲覧。
  10. ^ ジャパンライフ元会長逮捕 8千万円詐取容疑、警視庁など”. 日本経済新聞 (2020年9月18日). 2020年9月17日閲覧。
  11. ^ プロフィール”. 衆議院議員 前原誠司(まえはらせいじ). 2022年9月6日閲覧。
  12. ^ “鳩山首相が辞任、小沢幹事長も 4日に新代表選出へ”. 朝日新聞. (2010年6月2日). http://www.asahi.com/seikenkotai2009/TKY201006020114.html 2021年11月30日閲覧。 
  13. ^ 鮫島 2022, pp. 160–163.
  14. ^ 鮫島 2022, p. 179.
  15. ^ 鮫島 2022, pp. 183–190.
  16. ^ 新聞協会賞、新聞技術賞、新聞経営賞受賞作|表彰事業|日本新聞協会について|日本新聞協会”. 日本新聞協会. 2022年9月23日閲覧。
  17. ^ 鮫島 2022, pp. 203–208.
  18. ^ 木村英昭、宮崎知己 (2014年5月20日). “「福島第一の原発所員、命令違反し撤退 吉田調書で判明」”. 朝日新聞. オリジナルの2014年8月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140830083015/http://www.asahi.com:80/articles/ASG5L51KCG5LUEHF003.html 2014年8月23日閲覧。 
  19. ^ 木村英昭 (2014年5月20日). “葬られた命令違反 吉田調書から当時を再現”. 朝日新聞. 2014年5月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月7日閲覧。
  20. ^ 鮫島 2022, pp. 225–226.
  21. ^ 鮫島 2022, p. 232.
  22. ^ “「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断”. 朝日新聞デジタル. (2014年8月5日). http://www.asahi.com/articles/ASG7L71S2G7LUTIL05N.html 2014年8月5日閲覧。 
  23. ^ 鮫島 2022, pp. 236–237.
  24. ^ “朝日新聞 「吉田調書」記事取り消し”. NHK. (2014年9月11日). オリジナルの2014年9月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140911113259/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140911/k10014539401000.html 2014年9月11日閲覧。 
  25. ^ “朝日新聞:吉田調書の報道で誤り認める…社長、引責辞任へ”. 『毎日新聞』. (2014年9月11日). オリジナルの2014年9月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140911115528/http://mainichi.jp/select/news/20140912k0000m040046000c.html 2014年9月11日閲覧。 
  26. ^ 鮫島 2022, p. 262.
  27. ^ videonewscom (2022年9月3日). “鮫島浩×宮台真司×神保哲生:なぜ朝日新聞はこうまで叩かれるのか【ダイジェスト】”. YouTube. 2022年9月19日閲覧。
  28. ^ 進化する「論座」。目ざすのは論をかわす広場=座”. 論座編集部 (2019年4月15日). 2019年4月16日閲覧。
  29. ^ 論座について”. 論座 (2019年4月). 2019年4月16日閲覧。
  30. ^ れいわ新選組 公式チャンネル (2019年7月12日). “れいわ新選組 「れいわ祭」 品川駅港南口”. YouTube. 2022年9月19日閲覧。
  31. ^ 中島岳志、鮫島浩 (2022年6月15日). “「死に体」野党の見どころは山本太郎だけ? 2022参院選を大胆予想”. 現代ビジネス. 講談社. 2022年9月19日閲覧。
  32. ^ 鮫島 2022, p. 296.
  33. ^ 朝日新聞政治部の内部告発、“捏造記者”と罵られたエリートがたどり着いた「暴露の理由」”. 週刊女性PRIME (2022年6月23日). 2022年9月9日閲覧。
  34. ^ トーハン調べ 2022年6月期 月間ベストセラー”. トーハン. 2022年9月9日閲覧。
  35. ^ れいわ新選組 公式チャンネル (2022年6月22日). “【山本太郎・れいわへの応援メッセージ!】鮫島浩氏(ジャーナリスト)【 #参院選2022 】”. YouTube. 2022年9月19日閲覧。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]