ベンヌ (小惑星)

ベンヌ
101955 Bennu
オサイリス・レックスにより高度24 kmから撮影されたベンヌ。
オサイリス・レックスにより高度24 kmから撮影されたベンヌ。
仮符号・別名 1999 RQ36
分類 地球近傍小惑星 (PHA)[12]
軌道の種類 アポロ群[12]
発見
発見日 1999年9月11日
発見者 LINEAR
軌道要素と性質
元期:2011年1月1日 (JD 2455562.5)[12]
軌道長半径 (a) 1.126391025894812 au[12]
近日点距離 (q) 0.8968944004459729 au[12]
遠日点距離 (Q) 1.355887651343651 au[12]
離心率 (e) 0.2037450762416414[12]
公転周期 (P) 1.20 [12]
軌道傾斜角 (i) 6.03494377024794 [12]
近日点引数 (ω) 66.22306084084298 度[12]
昇交点黄経 (Ω) 2.06086619569642 度[12]
平均近点角 (M) 101.703952002457 度[12]
ティスラン・パラメータ (T jup) 5.525[12]
物理的性質
三軸径 0.5047 x 0.4918 x 0.4567 km[12]
平均直径 0.482 km[12]
平均密度 1.194 g/cm3[12]
自転周期 4.296061±0.000002 時間[12]
スペクトル分類 B[12]
絶対等級 (H) 20.21[12]
Template (ノート 解説) ■Project

ベンヌ[13]またはベヌー[14] (101955 Bennu) は、アポロ群に属する地球近傍小惑星の1つである。1999年リンカーン地球近傍小惑星探査 (LINEAR) によって発見された[12]アメリカ航空宇宙局 (NASA) の宇宙探査機オサイリス・レックスのターゲットとなり、同機は2018年年末にベンヌに到達[15]、周回軌道上からの探査と地表からのサンプル採取をおこなった。

地球への衝突の可能性

ベンヌの自転画像(高度80 kmから撮影)

2009年に数学者のアンドレア・ミラニと共同研究者が報告した天体力学に基いた研究によると、ベンヌは2169年から2199年までの間に8回、地球に接近し、そのどれかで地球へ落下する可能性が有ると判明した。2009年の段階では、この小惑星を構成する物質が何であるかはほとんど分かっておらず、さらに、小惑星の形状すらも正確には判っていなかったために不確定な要素が多いものの、衝突の確率は8回の可能性を合計しても、最大で0.07パーセントと、2009年に推定された[16]。しかしながら、この確率は、他の既知の天体よりも際立って高い確率である。地球近傍小惑星は一般に公転軌道が不安定である[17]ため、ベンヌが地球に衝突する可能性をさらに精密に計算するには、この小惑星の形状をより正確に把握し、少なくとも複数年に及ぶレーダー観測と光学観測を継続してヤルコフスキー効果による影響がどの程度かを見極める必要がある。

2021年8月、2300年までにベンヌが地球に衝突する確率は、2014年の研究結果から得られた2700分の1とする確率よりも高い、1750分の1であるとする研究結果が発表された[18]。これは、オサイリス・レックスによる観測結果から得られたデータを基に2135年9月にベンヌが地球近辺を通過する際の地球との距離が精密に求められ、さらに太陽系の惑星や300以上の小惑星の重力がベンヌに与える影響を計算した結果、従来の計算よりも2100年代後半から2200年代初頭にかけて地球に衝突する可能性が上がったことによるものである[18]

探査

ベンヌ地表の拡大画像

ベンヌは、アレシボ天文台の天体レーダーと、ゴールドストーンディープスペースネットワークによって詳細に観測され、平均直径は560 メートル程度とされた[19][20][21]

地球近傍小惑星であるベンヌは、より小さな速度変化(Delta-V)で探査機を到達させることが可能なため、探査機を対象の天体近くに直接送り込んで詳細な探査を行うミッションの候補に何度も挙げられてきた。2009年には、アメリカ航空宇宙局 (NASA) の探査機オサイリス・レックスの探査対象として選定され、同機は2018年12月3日に、ベンヌに対してランデブーした[22][23][24]。オサイリス・レックスがベンヌを周回する軌道に乗ったことで、ベンヌは宇宙機が周回軌道に乗った最も小さな天体となった[25]。オサイリス・レックスは、周回軌道上から搭載機器のレーザー高度計などを利用して詳細な形状などを調査した[26]

オサイリス・レックスによる撮像からベンヌの赤道付近が膨らんだ外見が明らかとなり、オサイリス・レックスと同時期に日本の探査機はやぶさ2によるサンプルリターン計画が行われていた小惑星のリュウグウと瓜二つであると、日本で話題となった[27][28]。このソロバンの玉やコマにもたとえられる形状は、比較的高速で自転する小型の小惑星においてしばしば見られる[27]。リュウグウと比較すると、ベンヌの直径はリュウグウの約半分、体積は約1/8と小さい[27]

2020年10月20日、オサイリス・レックスは、4つのサンプル採取候補地の中の1つ「Nightingale」地点でサンプル採取を試み、2020年10月21日にNASAは採取に成功したと発表した[29]。その成否は、2023年に予定されている地球への再突入カプセルの投下後に明らかとなる。

名称

固有名

2012年9月4日にNASAは、オサイリス・レックス計画でサンプルリターンミッションが予定されていた、当時は (101955) 1999 RQ36仮符号で呼ばれていたこの小惑星の名称を、全世界の18歳未満の人物から募集すると発表した[30]。締め切りは当初同年12月2日までの予定であったが、12月31日に延長された。結果、2013年5月1日に、アメリカ合衆国ノースカロライナ州に住む9歳(当時)の Michael Puzio が応募した Bennu を、国際天文学連合の小天体命名委員会 (Committee for Small Body Nomenclature) に提案し、承認されたと発表した[31]。「ベンヌ」(Bennu) とは、エジプト神話に登場する不死鳥で、オシリスの魂であるとされることもある。

ベンヌの地名

2019年8月、国際天文学連合の惑星系命名法ワーキンググループ (WGPSN)は、ベンヌの地形には「伝説上の鳥または鳥に似た生物」の名前を付けるというNASAの提案を承認した[32]

2019年8月にNASAは、4つの着陸・サンプリング地点候補を、エジプトに住む鳥の名前から「Nightingale (サヨナキドリ)」「Kingfisher (カワセミ)」「Osprey (ミサゴ)」「Sandpiper (シギ)」と命名した[33][注釈 1]。2020年10月20日のサンプル採取は、Nightingaleで実施された[29]

地形一覧

地域

ベンヌの地域の名は、神話の鳥に由来する。

地名 由来
トラヌワ地域 (Tlanuwa Regio) トラヌワ

岩塊

ベンヌの岩塊の名は、大半が神話やフィクションの鳥、または、鳥に似た生物に由来する。

地名 由来
アエロプス岩塊 (Aellopus Saxum) アエローの別名
アエトス岩塊 (Aetos Saxum) アエトス
アミハン岩塊 (Amihan Saxum) アミハン
ベンベン岩塊 (Benben Saxum) ベンベン
ブーブリエ岩塊 (Boobrie Saxum) ブーブリエ
カムラトズ岩塊 (Camulatz Saxum) カムラトズ
ケラエノ岩塊 (Celaeno Saxum) ケラエノ
キーンクウィア岩塊 (Ciinkwia Saxum) キーンクウィア
ドードー岩塊 (Dodo Saxum) ドードー鳥
ガマユン岩塊 (Gamayun Saxum) ガマユン
ガーゴイル岩塊 (Gargoyle Saxum) ガーゴイル
グリンカムビ岩塊 (Gullinkambi Saxum) グリンカムビ
フギン岩塊 (Huginn Saxum) フギン
コンガマトー岩塊 (Kongamato Saxum) コンガマトー
ムニン岩塊 (Muninn Saxum) ムニン
オキュペテ岩塊 (Ocypete Saxum) オーキュペテー
オデット岩塊 (Odette Saxum) オデット
オディール岩塊 (Odile Saxum) オディール
ポウカイ岩塊 (Pouakai Saxum) ポウカイ
ロック岩塊 (Roc Saxum) ロック鳥
シームルグ岩塊 (Simurgh Saxum) シームルグ
ストリクス岩塊 (Strix Saxum) ストリクス
ソロンドール岩塊 (Thorondor Saxum) ソロンドール

クレーター

ベンヌのクレーターの名は、神話やフィクションの鳥、または、鳥に似た生物に由来する。

地名 由来
アリカント (Alicanto) アリカント
ブラルガフ (Bralgah) ブラルガフ
ディネワン (Dinewan) ディネワン
ホキオイ (Hokioi) ホキオイ
フフク (Huhuk) フフク
リリトゥ (Lilitu) リリートゥ
ミノカワ (Minokawa) ミノカワ
オーニヴァク (Ohnivak) オーニヴァク
ペガサス (Pegasus) ペーガソス
サムパティ (Sampati) サムパーティ
ウチョーセン (Wuchowsen) ウチョーセン
ウトゥトゥ (Wututu) ウトゥトゥ

脚注

注釈

  1. ^ 地球を除く太陽系の各天体の地形の名称は国際天文学連合 (IAU) の 惑星系命名法ワーキンググループ (WGPSN) によって認証されるが、これらの名称は2021年現在承認されていない[34]

出典

  1. ^ OSIRIS-REx”. 日本惑星協会. 2019年3月12日閲覧。
  2. ^ 小惑星「ベンヌ」のかけらには何が含まれていた? 探査機「OSIRIS-REx」の成果が明らかになり始めた”. Wired. 2023年10月20日閲覧。
  3. ^ オシリス・レックスのカプセルを開封、試料から炭素・水の証拠”. アストロアーツ. 2023年10月20日閲覧。
  4. ^ NASA 地球に帰還のカプセルを回収 小惑星の石など中身の確認へ”. NHK. 2023年10月20日閲覧。
  5. ^ 「リュウグウ」ってどんな小惑星?”. JAXA. 2019年3月12日閲覧。
  6. ^ To Bennu and Back:Journey's End”. NASA. 2023年9月25日閲覧。
  7. ^ 「リュウグウ」ってどんな小惑星?”. JAXA. 2019年3月12日閲覧。
  8. ^ Bennu発音サイト”. YouTube. 2023年9月25日閲覧。
  9. ^ 小惑星(101001-102000)”. 宇宙用語研究会. 2023年9月25日閲覧。
  10. ^ 山田陽志郎 Twitter”. 山田陽志郎. 2023年9月25日閲覧。
  11. ^ SpaceTopics Twitter”. SpaceTopics2023. 2023年9月25日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 101955 Bennu (1999 RQ36)”. JPL Small-Body Database Browser. JPL. 2021年9月24日閲覧。
  13. ^ OSIRIS-REx”. 日本惑星協会. 2019年3月12日閲覧。
  14. ^ 「リュウグウ」ってどんな小惑星?”. JAXA. 2019年3月12日閲覧。
  15. ^ "NASA's OSIRIS-REx Spacecraft Arrives at Asteroid Bennu" (Press release). NASA. 2018年12月4日閲覧
  16. ^ Milani, Andrea et al. (2009). “Long term impact risk for (101955) 1999 RQ36RQ36”. Icarus 203 (2): 460-471. arXiv:0901.3631. Bibcode2009Icar..203..460M. doi:10.1016/j.icarus.2009.05.029. ISSN 00191035. 
  17. ^ 小谷太郎 2020, p. 210.
  18. ^ a b 小惑星ベンヌ、地球に衝突する確率が上昇、なぜ?”. ナショナルジオグラフィック日本版. 日経BP (2021年8月17日). 2021年9月24日閲覧。
  19. ^ Goldstone Delay-Doppler Images of 1999 RQ36” (html). Asteroid Radar Research. Jet Propulsion Laboratory. 2010年8月10日閲覧。
  20. ^ Michael C. Nolan, Chris Magri, Lance Benner, et al., 2009, Radar observations of 1999 RQ36, in prep.
  21. ^ Hudson, R. S.; Ostro, S. J.; Benner, L. A. M.. “Recent Delay-Doppler Radar Asteroid Modeling Results: 1999 RQ36 and Craters on Toutatis”. Bulletin of the American Astronomical Society (American Astronomical Society) 32: 1001. https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2000DPS....32.0710H/abstract. 
  22. ^ 小谷太郎 2020, p. 77.
  23. ^ NASA's OSIRIS-REx Spacecraft Arrives at Asteroid Bennu”. asteroidmission.org (2018年12月3日). 2019年10月10日閲覧。
  24. ^ NASA's OSIRIS-REx Spacecraft Arrives at Asteroid Bennu”. NASAホームページ(RELEASE 18-109). 2018年12月4日閲覧。
  25. ^ NASA's OSIRIS-REx Spacecraft Enters Close Orbit Around Bennu, Breaking Record” (html). OSIRIS-REx Mission. アメリカ航空宇宙局 (2018年12月31日). 2019年12月7日閲覧。
  26. ^ 小谷太郎 2020, p. 78.
  27. ^ a b c 渡邊 誠一郎; 吉川 真 (2018年6月19日). “330~240 kmの距離から見たリュウグウ” (html). はやぶさ2プロジェクト. 宇宙航空研究開発機構. 2019年2月23日閲覧。
  28. ^ 池田知広; ポール・エーブル (2018年11月8日). “小惑星ベンヌ 見た目リュウグウそっくり NASA博士” (html). 『毎日新聞』 (毎日新聞社). https://mainichi.jp/articles/20181108/k00/00m/040/204000c 2019年2月23日閲覧。 
  29. ^ a b NASA's OSIRIS-REx Spacecraft Successfully Touches Asteroid”. NASA (2020年10月21日). 2020年10月21日閲覧。
  30. ^ NASAが探査予定の小惑星の名前を募集 12月初めまで”. アストロアーツ (2012年9月10日). 2012年9月11日閲覧。
  31. ^ "NASA Spacecraft Will Visit Asteroid with New Name" (Press release). NASA. 1 May 2013. 2013年5月2日閲覧
  32. ^ Asteroid Bennu’s Features to be named after Mythical Birds”. IAU (2019年8月8日). 2019年12月30日閲覧。
  33. ^ オシリス・レックスの着陸候補地点を4か所選定”. アストロアーツ (2019年8月14日). 2019年12月30日閲覧。
  34. ^ Nomenclature Search Results Target: BENNU”. Gazetteer of Planetary Nomenclature. International Astronomical Union (IAU) Working Group for Planetary System Nomenclature (WGPSN). 2021年9月24日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク