3つの立方数の和
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3つの立方数の和(3つのりっぽうすうのわ、Sums of three cubes)は整数の立方数3つを合計したものである。
任意のnに対して、条件を満たす解の組を求める問題は、1950年代に数学者ルイス・モーデルによって考え出された[1]。いくつかのに対する解の探索には長い時間を要するが[2]、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究グループでは効率の良いアルゴリズムの探求や分散コンピューティングを利用することで計算を行っている。すべてのに対して解となる組は無限に存在するという予想もあるが、証明はされていない[3]。
準備
[編集]ここでの値について、9を法として4、5に合同な値を除外する条件が付けられているのは、そのようなが存在し得ないからである。このことは以下のように確かめられる。
まず最初に、全ての立方数は9を法として0、1、8のいずれかに合同となることを示す。すべての整数は以下3パターンのいずれかで表すことができる(ここでは整数)。
- …(1)
- …(2)
- …(3)
これらを立方し、9を法としたときの剰余を考えると、
- …(1)の場合
- …(2)の場合
- …(3)の場合
となり、題意は示された。
次に3つの立方数の和を考えると、以下の10パターンが存在する。
したがって3つの立方数の和は9を法とした場合、4、5と合同にはならないことがわかる。
小さなn
[編集]が0、1、2の場合、題意を満たすようなは無限に存在する。を整数とすると、
なお、の場合はこれ以外の解はない(必ず1個は0となる)。ゼロを1つも含まない解を仮定すると、フェルマーの最終定理の冪数が3の場合の解を得られることになってしまう。
の場合はこれで全ての解が生成されるわけではない。例えば、以下の解は上記の式からは出てこない。
推移
[編集]この問題は、1953年にルイス・モーデルが論文中で、の場合について
以外の解は存在するであろうかと問題提起したことに端を発する。モーデルは非特異代数曲線上の有理点の個数に関する予想を提起するなど広く存在が知られた大数学者であったこともあり、数学者による取り組みが始まり、やがて1955年にはが100以下の場合についての解を求めるという問題に発展。発見方法も手計算から計算機へと主役が変わり、2016年の時点では以下の場合ではの場合を除いて解が発見された[1]。
しかしの場合の解の発見は困難を極め、2015年11月の時点での場合については以下の範囲には解がないことが判明していた。ここでイギリス・ブリストル大学のアンドリュー・ブッカー教授がこの問題に興味を示し、取り組むこととなった。ブッカーはこの時点で解が発見されていなかったが1000以下の場合を再確認し、
これらがすべて9を法として3または6と合同であることに着目し、解を求めるアルゴリズムを考案。大学のスーパーコンピュータを用いて、2019年2月にの解を見つけ出した。計算には約3週間を要した[2][4]。
次にブッカーはの場合に取り組むが、より困難な計算となることが予想されたため並列処理の第一人者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のアンドリュー・サザーランド教授に協力を仰いだ。チャリティー・エンジンと呼ばれる、世界中にある50万台以上のパソコンのバックグラウンド処理能力を結集したスーパーコンピュータを使用し、アルゴリズムも適宜改良していくことで、2019年9月にの解を見つけ出した[4]。
直後にはモーデルによるオリジナルの問いかけである、の場合の第3の解についても二人のアンドリューによって発見された。2週間で発見されているが、40万台のパソコンを並列して使用したため、総合計では全世界で400万時間分の処理時間を要している[5]。
イギリスの数学者ロジャー・ヒース=ブラウンは以下のように扱いやすい式に変形することを提案し、発見作業の効率化につながった。ブラウン自身は一つのに対しては解が無限に存在すると予想している[3]。
nが100以下の場合
[編集]が100以下の場合についてのは以下の通りとなる。ただし前述したように0、1、2の場合は無限に存在するなど1つのに対しては複数の解が存在しうるため、ここでは代表的なもののみを示す。
n | x | y | z |
---|---|---|---|
0 | 0 | 0 | 0 |
1 | 0 | 0 | 1 |
1 | 9 | 10 | -12 |
2 | 0 | 1 | 1 |
2 | 1214928 | 3480205 | -3528875 |
3 | 1 | 1 | 1 |
3 | 4 | 4 | -5 |
3 | -472715493453327032 | -569936821113563493509 | 569936821221962380720 |
6 | -1 | -1 | 2 |
6 | 10529 | 60248 | -60355 |
7 | 0 | -1 | 2 |
8 | 0 | 0 | 2 |
9 | 0 | 1 | 2 |
10 | 1 | 1 | 2 |
11 | -2 | -2 | 3 |
12 | 7 | 10 | -11 |
15 | -1 | 2 | 2 |
16 | -511 | -1609 | 1626 |
17 | 1 | 2 | 2 |
18 | -1 | -2 | 3 |
19 | 0 | -2 | 3 |
20 | 1 | -2 | 3 |
21 | -11 | -14 | 16 |
24 | 2 | 2 | 2 |
24 | -2901096694 | -15550555555 | 15584139827 |
25 | -1 | -1 | 3 |
26 | 0 | -1 | 3 |
27 | 0 | 0 | 3 |
27 | -4 | -5 | 6 |
28 | 0 | 1 | 3 |
29 | 1 | 1 | 3 |
30 | -283059965 | -2218888517 | 2220422932 |
33 | -2736111468807040 | -8778405442862239 | 8866128975287528 |
34 | -1 | 2 | 3 |
35 | 0 | 2 | 3 |
36 | 1 | 2 | 3 |
37 | 0 | -3 | 4 |
38 | 1 | -3 | 4 |
39 | 117367 | 134476 | -159380 |
42 | 12602123297335631 | 80435758145817515 | -80538738812075974 |
43 | 2 | 2 | 3 |
44 | -5 | -7 | 8 |
45 | 2 | -3 | 4 |
46 | -2 | 3 | 3 |
47 | 6 | 7 | -8 |
48 | -23 | -26 | 31 |
51 | 602 | 659 | -796 |
52 | 23961292454 | 60702901317 | -61922712865 |
53 | -1 | 3 | 3 |
54 | -7 | -11 | 12 |
55 | 1 | 3 | 3 |
56 | -11 | -21 | 22 |
57 | 1 | -2 | 4 |
60 | -1 | -4 | 5 |
61 | 0 | -4 | 5 |
62 | 2 | 3 | 3 |
63 | 0 | -1 | 4 |
64 | 0 | 0 | 4 |
64 | -3 | -5 | 6 |
65 | 0 | 1 | 4 |
66 | 1 | 1 | 4 |
69 | 2 | -4 | 5 |
70 | 11 | 20 | -21 |
71 | -1 | 2 | 4 |
72 | 7 | 9 | -10 |
73 | 1 | 2 | 4 |
74 | 66229832190556 | 283450105697727 | -284650292555885 |
75 | 4381159 | 435203083 | -435203231 |
78 | 26 | 53 | -55 |
79 | -19 | -33 | 35 |
80 | 69241 | 103532 | -112969 |
81 | 10 | 17 | -18 |
82 | -11 | -11 | 14 |
83 | -2 | 3 | 4 |
84 | -8241191 | -41531726 | 41639611 |
87 | -1972 | -4126 | 4271 |
88 | 3 | -4 | 5 |
89 | 6 | 6 | -7 |
90 | -1 | 3 | 4 |
91 | 0 | 3 | 4 |
92 | 1 | 3 | 4 |
93 | -5 | -5 | 7 |
96 | 10853 | 13139 | -15250 |
97 | -1 | -3 | 5 |
98 | 0 | -3 | 5 |
99 | 2 | 3 | 4 |
100 | -3 | -6 | 7 |
nが1000以下の場合
[編集]2015年11月の時点では未解決だった以下の場合についても、以下のように解が発見されている。
出典
[編集]- ^ a b “60年解けなかった数学の難題 世界中のPCつなぎ解決”. 朝日新聞. (2019年10月24日). オリジナルの2019年10月24日時点におけるアーカイブ。 2025年3月1日閲覧。
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、|newspaper=
引数が重複しています。 (説明)⚠ - ^ a b “33は3つの立方数の和で表せるのか——64年来の数学上の難題が解かれる”. fabcross. (2019年5月7日) 2025年3月1日閲覧。
- ^ a b “MITなどの研究グループが「立方数の和の解」を短期間で求める手法を見出す”. fabcross. (2021年4月25日) 2025年3月1日閲覧。
- ^ a b “人生、宇宙、すべての答えの「42」を3つの立法数の和で表す難問がついに解ける”. ギズモード. (2019年9月19日) 2025年3月1日閲覧。
- ^ “42に続き3の難問もあっさり解決!地球スパコン連続快挙”. ギズモード. (2019年9月24日) 2025年3月1日閲覧。
- ^ オンライン整数列大辞典の数列 A060465
- ^ オンライン整数列大辞典の数列 A060466
- ^ オンライン整数列大辞典の数列 A060467
- ^ a b c Andrew V. Sutherland