Bcl-2ファミリー

Apoptosis regulator proteins, Bcl-2 family
プログラム細胞死の阻害因子であるヒトBcl-xLの構造[1]
識別子
略号 Bcl-2
Pfam PF00452
InterPro IPR002475
SMART SM00337
PROSITE PDOC00829
SCOP 1maz
SUPERFAMILY 1maz
OPM superfamily 40
OPM protein 2l5b
Membranome 232
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
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Bcl-2ファミリー(Bcl-2 family、TC# 1.A.21)は、Bcl-2相同ドメイン(BHドメイン)を持つ、進化的に保存された多くのタンパク質から構成されるタンパク質ファミリーである。Bcl-2ファミリーは、ミトコンドリアにおける、プログラム細胞死の一形態であるアポトーシスを調節する役割が最もよく知られている。Bcl-2ファミリーのタンパク質はアポトーシスの促進もしくは阻害を行う因子から構成され、アポトーシスの内因性経路(intrinsic pathway)の重要な段階である、ミトコンドリア外膜透過性英語版(MOMP)の制御によってアポトーシスを制御する。2008年の段階で、25種類のBcl-2ファミリーの遺伝子が同定されている[2]

構造[編集]

Bcl-2ファミリーのドメイン構造[3]

Bcl-2ファミリーのタンパク質には、疎水性αヘリックスが両親媒性αヘリックスで囲まれた一般的構造が存在する。メンバーの一部にはC末端に膜貫通ドメインが存在し、主にミトコンドリア局在化機能を果たす。

Bcl-xLは233アミノ酸残基からなるタンパク質で、膜貫通αヘリックスと推定される非常に疎水的な領域(210–226番残基)が存在する。Bcl-xLのホモログにはBaxBakがあり、これらもアポトーシスに影響を与える。ヒトBcl-xLの単量体可溶型構造がX線結晶構造解析NMRによって高分解能で決定されている[4]。中心的な2つの疎水性αヘリックスが両親媒性ヘリックスで囲まれた構造をしており、αヘリックスの配置はジフテリア毒素英語版コリシン英語版のものと類似している。ジフテリア毒素は膜を貫通するポアを形成し、毒性を持つ触媒ドメインを細胞質へ移行させる。コリシンも同様に脂質二重層にポアを形成する。この構造的相同性は、BH1ドメインとBH2ドメインを持つBcl-2ファミリーのメンバー(Bcl-xL、Bcl-2、Bax)が同じように機能することを示唆している。

ドメイン[編集]

Bcl-2ファミリーのメンバーは、BHドメインと呼ばれる4つの特徴的なドメイン(BH1、BH2、BH3、BH4)を1つ以上持つ。BHドメインはそのタンパク質の機能に重要であることが知られており、これらのドメインの欠失は細胞の生存とアポトーシスの割合に影響を与える。Bcl-2やBcl-xLなどの抗アポトーシス性Bcl-2タンパク質は、4つのBHドメイン全てが保存されている。BHドメインは、アポトーシス促進性のBcl-2タンパク質を複数のBHドメインを持つもの(BaxやBakなど)とBH3ドメインのみを持つもの(Bim英語版BidBadなど)へ分類する際にも利用される。

Bcl-2ファミリーに属する全てのタンパク質は、BH1、BH2、BH3、BH4ドメインのいずれかを持っている[5]。全ての抗アポトーシス性タンパク質はBH1、BH2ドメインを持ち、その一部(Bcl-2、Bcl-xL、Bcl-w英語版)はさらにN末端にBH4ドメインを持つ。BH4ドメインは、Bcl-xS、Diva英語版Bok-L英語版、Bok-Sなど一部のアポトーシス促進タンパク質にも存在する。一方、全てのアポトーシス促進性タンパク質にはBH3ドメインが存在し、このドメインは他のBcl-2ファミリーとの二量体化に必要であり、細胞死活性に重要である。アポトーシス促進性タンパク質の一部(Bax、Bak)はBH1、BH2ドメインも持っている。BH3ドメインは一部の抗アポトーシス性タンパク質(Bcl-2,Bcl-xL)にも存在する。BH1、BH2、BH3ドメインは空間的に近接して長い溝を形成し、この溝は他のBcl-2ファミリーのメンバーの結合部位となっている可能性がある。

機能[編集]

アポトーシスに関与するシグナル伝達経路の概要

アポトーシスは成長因子の除去や毒素などによって誘導される。その過程は調節因子によって制御されており、それらはプログラム細胞死に対して阻害効果を示すか、もしくはこうした阻害因子の保護効果を遮断する[6][7]。多くのウイルスは、標的細胞がすぐに死滅することを防ぐ抗アポトーシス遺伝子を自身でコードすることで、アポトーシスによる防御に対抗する手段を獲得している。

Bcl-x英語版は哺乳類細胞のプログラム細胞死における支配的な調節因子である[8][9]。長いアイソフォームであるBcl-xLは細胞死抑制活性を示すが、短いアイソフォームであるBcl-xSとβアイソフォーム(Bcl-xβ)は細胞死を促進する。Bcl-xL、Bcl-xS、Bcl-xβはいずれも選択的スプライシングに由来するアイソフォームである。

Bcl-2ファミリーがどのようにアポトーシス促進または抗アポトーシス作用を発揮しているかに関しては、多くの仮説が存在する。重要な仮説の1つでは、ミトコンドリアマトリックスCa2+pH、電位の調節に関与するミトコンドリア膜透過性遷移孔英語版の活性化または不活性化によって行われているとされる。また、Bcl-2ファミリーのタンパク質はシトクロムc細胞質基質への放出を誘導したり阻害したりするとも考えられている。放出されたシトクロムcはカスパーゼ-9カスパーゼ-3を活性化し、アポトーシスを引き起こす。シトクロムcの放出はミトコンドリア内膜の透過性遷移孔によって間接的に媒介されていることも示唆されているが[10]、外膜のミトコンドリアアポトーシス誘導性チャネル英語版(MAC)の早期の関与を示唆する強い証拠が得られている[11][12]

他の仮説では、Rhoタンパク質がBcl-2、Mcl-1英語版、Bidの活性化に関与していることが示唆されている。Rhoの阻害は抗アポトーシス性のBcl-2とMcl-1の発現を低下させ、アポトーシス促進性のBidのタンパク質レベルを増加させるが、BaxやFLIP英語版のレベルには影響を与えない。ヒトの培養内皮細胞において、Rhoの阻害はカスパーゼ-9とカスパーゼ-3に依存的なアポトーシスを誘導する[13]

作用部位[編集]

これらのタンパク質は動物細胞ではミトコンドリア外膜に局在しており、そこで電位依存性アニオンチャネル(VDAC)と複合体を形成していると考えられている。Bcl-2とVDAC1英語版VDAC3英語版由来ペプチドとの相互作用は、シトクロムcの放出を阻害することで細胞死から保護する。脂質二重層で再構成された精製VDACとBcl-2との直接的な相互作用は実証されており、Bcl-2がチャネルの伝導性を低下させることが示されている[14]

ミトコンドリア内にはアポトーシス誘導因子(シトクロムc、Smac/Diablo英語版Omi英語版)が存在しており、これらが放出された場合にはアポトーシスの実行因子であるカスパーゼが活性化される[15]。Bcl-2ファミリーのタンパク質は活性化されると、各々の機能に応じて、これらの因子の放出を促進したり、ミトコンドリア内に隔離したりする。アポトーシス促進性のBakやBaxは活性化されるとMACを形成してシトクロムcの放出を媒介し、抗アポトーシス性のBcl-2はおそらくBaxやBakの阻害によってこの過程を遮断すると考えられている[16]

Bcl-2ファミリーのタンパク質は核膜にも存在し、また体内の多くの組織に広く分布している。これらは人工脂質二重層中でオリゴマーのポアを形成することが記載されているが、このポア形成の生理的重要性は明らかではない。これらのタンパク質には、ある程度のイオン選択性など、それぞれ異なる性質が存在する[17]

BH3-onlyファミリー[編集]

Bcl-2ファミリーのタンパク質の一部は、1つのBH3ドメインのみを持つ。こうしたBH3-onlyファミリーのメンバーはアポトーシスの促進に重要な役割を果たす。BH3-onlyファミリーのメンバーには、Bim、Bid、Badなどがある。さまざまなアポトーシス刺激が特定のBH3-onlyファミリーのメンバーの発現を誘導したり活性化したりし、これらはミトコンドリアへ移行してBax/Bak依存的なアポトーシスを開始する[18]

出典[編集]

  1. ^ “X-ray and NMR structure of human Bcl-xL, an inhibitor of programmed cell death”. Nature 381 (6580): 335–41. (May 1996). Bibcode1996Natur.381..335M. doi:10.1038/381335a0. PMID 8692274. 
  2. ^ Youle, Richard J.; Strasser, Andreas (2008). “The BCL-2 protein family: opposing activities that mediate cell death”. Nature Reviews Molecular Cell Biology 9 (1): 47–59. doi:10.1038/nrm2308. PMID 18097445. 
  3. ^ “BCL-2 family: regulators of cell death”. Annu. Rev. Immunol. 16: 395–419. (1998). doi:10.1146/annurev.immunol.16.1.395. PMID 9597135. 
  4. ^ Muchmore, S. W.; Sattler, M.; Liang, H.; Meadows, R. P.; Harlan, J. E.; Yoon, H. S.; Nettesheim, D.; Chang, B. S. et al. (1996-05-23). “X-ray and NMR structure of human Bcl-xL, an inhibitor of programmed cell death”. Nature 381 (6580): 335–341. Bibcode1996Natur.381..335M. doi:10.1038/381335a0. ISSN 0028-0836. PMID 8692274. 
  5. ^ Structure-function analysis of Bcl-2 family proteins. Regulators of programmed cell death. Advances in Experimental Medicine and Biology. 406. (1996). 99–112. doi:10.1007/978-1-4899-0274-0_10. ISBN 978-1-4899-0276-4. PMID 8910675 
  6. ^ Vaux DL (1993). “A boom time for necrobiology”. Curr. Biol. 3 (12): 877–878. doi:10.1016/0960-9822(93)90223-B. PMID 15335822. 
  7. ^ “BID: a novel BH3 domain-only death agonist”. Genes Dev. 10 (22): 2859–2869. (1996). doi:10.1101/gad.10.22.2859. PMID 8918887. 
  8. ^ Boise, L. H.; González-García, M.; Postema, C. E.; Ding, L.; Lindsten, T.; Turka, L. A.; Mao, X.; Nuñez, G. et al. (1993-08-27). “bcl-x, a bcl-2-related gene that functions as a dominant regulator of apoptotic cell death”. Cell 74 (4): 597–608. doi:10.1016/0092-8674(93)90508-n. hdl:2027.42/30629. ISSN 0092-8674. PMID 8358789. https://deepblue.lib.umich.edu/bitstream/2027.42/30629/1/0000270.pdf. 
  9. ^ Tsujimoto, Y.; Shimizu, S. (2000-01-21). “Bcl-2 family: life-or-death switch”. FEBS Letters 466 (1): 6–10. doi:10.1016/s0014-5793(99)01761-5. ISSN 0014-5793. PMID 10648802. 
  10. ^ “Subcellular and submitochondrial mode of action of Bcl-2-like oncoproteins”. Oncogene 16 (17): 2265–82. (April 1998). doi:10.1038/sj.onc.1201989. PMID 9619836. 
  11. ^ “A tale of two mitochondrial channels, MAC and PTP, in apoptosis”. Apoptosis 12 (5): 857–68. (May 2007). doi:10.1007/s10495-007-0722-z. PMID 17294079. 
  12. ^ “The role of the mitochondrial apoptosis induced channel MAC in cytochrome c release”. J. Bioenerg. Biomembr. 37 (3): 155–64. (June 2005). doi:10.1007/s10863-005-6570-z. PMID 16167172. 
  13. ^ “Rho protein inactivation induced apoptosis of cultured human endothelial cells”. Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 283 (4): L830–8. (October 2002). doi:10.1152/ajplung.00467.2001. PMID 12225960. 
  14. ^ Arbel, Nir; Shoshan-Barmatz, Varda (2010-02-26). “Voltage-dependent anion channel 1-based peptides interact with Bcl-2 to prevent antiapoptotic activity”. The Journal of Biological Chemistry 285 (9): 6053–6062. doi:10.1074/jbc.M109.082990. ISSN 1083-351X. PMC 2825399. PMID 20037155. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2825399/. 
  15. ^ “Controlling the caspases”. Science 294 (5546): 1477–1478. (2001). doi:10.1126/science.1062236. PMID 11711663. 
  16. ^ “Regulation of the mitochondrial apoptosis-induced channel, MAC, by BCL-2 family proteins”. Biochim. Biophys. Acta 1762 (2): 191–201. (February 2006). doi:10.1016/j.bbadis.2005.07.002. PMID 16055309. 
  17. ^ Antonsson, B.; Montessuit, S.; Lauper, S.; Eskes, R.; Martinou, J. C. (2000-01-15). “Bax oligomerization is required for channel-forming activity in liposomes and to trigger cytochrome c release from mitochondria”. The Biochemical Journal 345 (2): 271–278. doi:10.1042/0264-6021:3450271. ISSN 0264-6021. PMC 1220756. PMID 10620504. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1220756/. 
  18. ^ Michael Kastan; Abeloff, Martin D.; Armitage, James O.; Niederhuber, John E. (2008). Abeloff's clinical oncology (4th ed.). Philadelphia: Churchill Livingstone/Elsevier. ISBN 978-0-443-06694-8 

関連項目[編集]