SI基本単位

SI基本単位(エスアイきほんたんい、フランス語: fr:unités de base du Système international英語: base units of the SI 又はSI base units)とは、国際単位系(SI)において、基本単位として位置付けられている7つのSI単位である。これらは国際量体系(ISQ)において基本量として位置付けられている7つの物理量に対する単位である。

概要[編集]

SI基本単位およびその定義の関係

SI基本単位は、SIの前身であるメートル法において、物理量に対して複数ある単位度量衡を統一することを目的として選ばれた。すなわち、一つの物理量を表現する単位は一つとすること[注釈 1]を目的とする。SI基本単位は7つ存在し、時間長さ質量電流温度物質量光度の各物理量について、それぞれメートルキログラムアンペアケルビンモルカンデラが定められている。

7つのSI基本単位はSIの主骨格を成している。また、全ての物理量は、物理法則を通じて、基本量の組み合わせにより表現することができる[注釈 2][注釈 3]2019年の改訂施行によりSI基本単位は7つの定義値(固定された曖昧さのない物理定数および物質固有の特性値)をもとに定義されるようになった。現在もSI基本単位の重要性に変わりはないが、この結果として、全ての一貫性のあるSI単位が7つの定義値をもとに直接に定義・構築できるようになったため、SI基本単位とそれ以外のSI単位(SI組立単位)との間に原理上の区別はない[1]

一覧[編集]

7つのSI基本単位を以下の表に記載する[2][注釈 4]。これらの単位は、7個の定義定数(defining constants[3]をもとに定義されている。これら7つの定数は数値が固定された一切の曖昧さをもたない値であり、それぞれ物理定数や物質に固有の物性値を指すものである。この値を固定値と見做すことで、7つのSI基本単位はそれぞれ規定されている。

物理量 単位 現在の定義[4][5] かつての定義(例)
時間 s 秒(記号はs)は、時間のSI単位であり、セシウム周波数ΔνCs、すなわち、セシウム133 原子の摂動を受けない基底状態超微細構造遷移周波数を単位Hz(s−1 に等しい)で表したときに、その数値を9192631770と定めることによって定義される。 平均太陽日の1/86400
長さ メートル m メートル(記号はm)は長さのSI単位であり、真空中の速さcを単位m s−1 で表したときに、その数値を299792458と定めることによって定義される。ここで、秒はセシウム周波数ΔνCsによって定義される。 地球のパリを通る北極点から赤道までの長さの1000万分の1
質量 キログラム kg キログラム(記号はkg)は質量のSI単位であり、プランク定数hを単位J s(kg m2 s−1 に等しい)で表したときに、その数値を6.62607015×10−34と定めることによって定義される。ここで、メートルおよび秒はc およびΔνCs に関連して定義される。 最大密度温度での1 Lの質量
電流 アンペア A アンペア(記号はA)は、電流のSI単位であり、電気素量eを単位C(A s に等しい)で表したときに、その数値を1.602176634×10−19 と定めることによって定義される。ここで、秒はΔνCsによって定義される。 真空中に1メートルの間隔で同じ大きさの電流が流れているとき、両者の間に働く力が1メートルにつき2×10−7ニュートンであるときの電流
熱力学温度 ケルビン K ケルビン(記号はK)は、熱力学温度のSI単位であり、ボルツマン定数kを単位J K−1(kg m2 s−2 K−1 に等しい)で表したときに、その数値を1.380649×10−23と定めることによって定義される。ここで、キログラム、メートルおよび秒はhc およびΔνCsに関連して定義される。 水の標準大気圧下での融点沸点の温度差の100分の1
物質量 モル mol モル(記号はmol)は、物質量のSI 単位であり、1モルには、厳密に6.02214076×1023の要素粒子が含まれる。この数は、アボガドロ定数NAを単位mol−1 で表したときの数値であり、アボガドロ数と呼ばれる。系の物質量(記号はn)は、特定された要素粒子の尺度である。要素粒子は、原子分子イオン電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体のいずれであってもよい。 1 g/molの原子量または分子量
光度 カンデラ cd カンデラ(記号はcd)は、所定の方向における光度のSI単位であり、周波数540×1012 Hz単色放射視感効果度Kcd を単位lm W−1(cd sr W−1あるいはcd sr kg−1 m−2 s3に等しい)で表したときに、その数値を683と定めることによって定義される。ここで、キログラム、メートルおよび秒はhc およびΔνCsに関連して定義される。 (ろうそく1本の光度)

表の通り、基本単位の定義の記載順序は、2019年の再定義を経て「時間、長さ、質量、電流、温度、物質量、光度」の順となっている[6]。参考までに、その前の定義の際は「長さ、質量、時間…(以下同じ)」の順序であった[7]

2019年の再定義[編集]

上記のすべてのSI基本単位は、2018年11月16日の第26回国際度量衡総会の決議・採択の結果、新しい定義に置き換えられ、2019年5月20日より新定義は施行、運用されている。この定義の変更では特に、キログラムとアンペア、ケルビン、モルには大きな修正が加えられた[8]

計量法の定義の変更[編集]

第26回国際度量衡総会の決議に基づき、日本の計量単位令におけるSI基本単位の定義が改正された。この改正では、必要最小限の簡潔な定義となっている[9]。なお、秒、メートル、カンデラの定義文は改正されていない。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 少なくとも国際的・公的には、たとえば空間上の長さを示すにあたってはメートル(及びその倍量・分量単位)のみを用い、他の体系による単位(ヤード海里など)は用いない、という意味である。
  2. ^ この単位間の関係は、次元解析をすることで、容易に見出すこともできる。
  3. ^ 一貫性のあるSI単位は、SI基本単位の組み合わせのみによって表現することが可能である。
  4. ^ SI基本単位の定義において、SI基本単位ではない単位が含まれるものもあるが、いずれも別のSI基本単位に由来するものであり、循環定義ではない。

出典[編集]

  1. ^ SI文書第9版(2019)日本語版及び関連資料 「国際単位系(SI)基本単位の定義改定と計量標準」”. 国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター. p. 98. 2023年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月4日閲覧。
  2. ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 p.98、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、2020年4月
  3. ^ 『国際単位系(SI)第9 版(2019)日本語版』国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター、2020年3月。 
  4. ^ "Table 1: The seven base units of the SI" (PDF). A concise summary of the International System of Units, SI (英語). p. 2. 2021年6月21日閲覧
  5. ^ 『国際単位系(SI)第9 版(2019)日本語版』国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター、2020年3月。 
  6. ^ 表1 SIの七つの基本単位 国際単位系(SI)第9版(2019)要約 日本語版、計量標準総合センター、産総研、経済産業省
  7. ^ 『Le Système international d’unités (SI)』(8版)国際度量衡局、2006年。 
  8. ^ A concise summary of the International System of Units, SI Table 1 The seven base units of the SI
  9. ^ 計量単位令の一部を改正する政令案新旧対照条文 経産省 産業技術環境局 計量行政室、2019年5月14日

参考文献[編集]