シラカンバ

シラカンバ
シラカンバ
分類APG III
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: ブナ目 Fagales
: カバノキ科 Betulaceae
: カバノキ属 Betula
: シラカンバ(広義) B. platyphylla
学名
広義: Betula platyphylla Sukaczev (1911)[1]
シノニム
和名
シラカンバ、シラカバ
英名
White Birch, Japanese White Birch
変種品種

シラカンバ(白樺[13]シラカバ[14])は、カバノキ科カバノキ属落葉樹の一種。樹皮が白いことからこの名がある。

形態

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落葉高木広葉樹で、樹高は10 - 25メートル (m) [15][16]。明るい場所を好む典型的な陽樹である[17]。寿命は短く大木になるものは多くなく[18]、大きなものでも幹径は50センチメートル (cm) ほどである[19]。樹皮は白色で、横筋が多く薄紙のように横向きに剥がれ、枝の落ちた跡が黒く残る[20][16]。樹皮が白色を保っているのは、樹齢20年からせいぜい30年が限度といわれている[19]。ごく若い木の樹皮は暗褐色で、横長の皮目が目立つ[16]。若い枝は暗紫褐色で毛はなく、短枝がよく発達する[16]互生[13]、長さ4 - 9 cmの三角状広卵形で鋸歯がある[20][15]。葉脈の数は6 - 8対ある[21]葉柄は長さ1.5 - 3.5 cm[15]。秋になると黄葉する[22]

花期は春(4 - 5月)[13][16]雌雄同株で、葉の展開とともに、長さ5 - 7 cmほどの雄花序は、長枝の先から動物の尾状に数個垂れ下がる[20][15][18][16]。雌花序は短枝に4 cmほどの細長い棒状の花穂を1個つけ、最初は立ち上がっているが、やがて下を向いて果穂をつくる[20][23][16]

果期は10月[13]。果穂は長さ2 - 4 cmで垂れ下がる[15]。果苞は長さ約4ミリメートル (mm) [15]自家不和合性が強く、別の個体同士で受粉し種子を付ける。種子は3 mm程度の大きさで、風を利用して散布するのに適した薄い翼を持った形状。100グラム当たり34万個と大量に散布されるが、成木まで成長するのはごく一部である[24]

冬芽は互生し、雄花序以外は芽鱗に覆われて長楕円形[16]。芽鱗は、濃褐色で4 - 6枚つき、しばしば樹脂をかぶる[16]。雄花序の冬芽は円筒形の裸芽で、枝の先に数個つく[16]。冬芽のわきにある葉痕は半円形や三日月形で、維管束痕が3個ある[16]

他の樹木が育ちにくい火山灰地や砂地でも育つことができる[17]。明るい初期の林地に生えるいわゆるパイオニア的な樹種で[17][13]山火事の跡地や崩壊地などに一斉に芽生えて生長し、純林を作る[17][25]。不適地に散布された場合には地中で待機できる休眠性があり、山火事の熱を感知する事で休眠を解除して発芽する場合や、湿原が乾燥し陸地化した後に発芽する場合など、先駆種としての能力を持つ[24]。やがてシラカンバのまわりのミズナラやトドマツなどの陰樹が大きくなって、次第に日当たりが悪くなってくると、シラカバは次々に立ち枯れする[17][13]。シラカンバが立ち枯れしたあと、幹には木材腐朽菌の一種ツリガネタケなどのキノコがたくさん出てくる[13]。塩害や煙害には弱い性質があり、台風の影響を被って一斉に枯れてしまうこともある[21]

生態

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ブナ科広葉樹やマツ科針葉樹と同じく菌類と樹木のが共生して菌根を形成することで知られる。樹木にとっては菌根を形成することによって菌類が作り出す有機酸や抗生物質による栄養分の吸収促進や病原微生物の駆除等の利点があり、菌類にとっては樹木の光合成で合成された産物の一部を分けてもらうことができるという相利共生の関係があると考えられている。菌類の子実体は人間がキノコとして認識できる大きさに育つものが多く、中には食用にできるものもある。土壌中には菌根から菌糸を通して、同種他個体や他種植物に繋がる広大なネットワークが存在すると考えられている[26][27][28][29][30][31]

シラカンバは植生遷移の初期に出現する陽樹として知られる。

分布

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北半球の温帯から亜寒帯地方に多く見られる[14]。基変種であるコウアンシラカンバ Betula platyphylla var. platyphylla とそれにごく近縁にオウシュウシラカンバ Betula pendula は、アジア北東部の朝鮮半島[13]中国[13]東シベリア[13]樺太[13]・ヨーロッパの広い範囲に分布する。

日本では、変種Betula platyphylla var. japonica が、本州の福井県岐阜県以北の中部地方[20][14]関東地方北部[14]、東北地方[14]北海道[13]まで、高冷地の落葉広葉樹林帯と亜高山帯下部に分布する。特に北海道では多く見られる[22]。高原の深山などに生え[15]、日当たりのよい山地に群落を作って自生する[20]。近縁種にダケカンバがあるが、シラカンバは高山には及ばず比較的低地に分布し、ダケカンバは高地に分布する[13]

人間との関係

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木材

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気乾比重は0.6程度、道管の配置は散孔材、心材と辺材の境および年輪は不明瞭である。

材は比較的やわらかく、腐りやすい欠点をもつが、白い肌をそのまま活かして、山小屋の内外装、ベランダの手すり、デッキ、柵などに好まれる[19]。強い芳香がないことから食器用材としても使われる。北海道津別町には国内で唯一のシラカンバ製のアイス用スプーンを作る工場がある。国産カバノキ属の木材で最も価値が高いのはウダイカンバおよびミズメであり、シラカンバはそれらに比べると劣る。

樹皮・枝葉

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樹皮は細工物に使われたり[20]、油分を多く含んで容易に燃えるので松明としても使われたり[14]、水を通さず長持ちするので北ヨーロッパなどでは屋根葺きの材料に使われる[19]。特に北アメリカ、北ヨーロッパ、北東アジアなどでは、シラカバ樹皮を使った生活用具が多く作られた[32]。北アメリカでは、アルゴンキンインディアンがシラカバ樹皮製のカヌーを19世紀ごろに製作していた[32]。ロシアの民俗工芸品ベレスタは、シラカバ樹皮を使った容器である[32]。中国大陸側では、ロール状に巻いた樹皮を浮子にして漁網につけられている[33]。長野県や岩手県の一部地域では、樺皮とよばれるロール状に巻いたシラカバの樹皮を、盆の迎え火、送り火に家の前で焚くのに使う[33]。アイヌ民族はシラカバ皮を巻き上げた松明をチノイエタッ(我らが巻いた樺皮)と呼び、先端を割った木に挟んで点火したものを夜間のサケ漁の照明、あるいはハレの日の照明に用いた。また、樹皮を焚いた煤は入れ墨を入れる際の染料にも用いられた[34][35]

サウナ文化はフィンランド周辺が発祥と言われるが、現地ではただサウナに入るだけでなくシラカバ類の枝を状に束ねたもので体を叩きながら過ごすという風習がある。この束ねたものをフィンランド語名 vasta もしくは vihtaと呼ぶ。

食用・薬用

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樹液は採取できる量も多く、甘みもあり飲用可能である[36]アイヌ民族はこの樹液を「タッニ・ワッカ」(シラカバの水)と呼び、水場がない場所で野営する際の、炊事の水に用いてきた[35][34]。樹液からシロップ、煮詰めて白樺糖、さらには酒が造られる[21]。樹液に含まれる成分にヒト表皮保湿を促進する効用があることから化粧品にも利用される。

ロシアでは、雪解けの頃近郊の森に出かけ樹液を飲む習慣がモスクワにも残っており、「百薬の長だと今でも信じている」と報道されている[誰によって?]民間療法で、シラカンバに寄生するチャーガ(和名:カバノアナタケ)というキノコ胃腸の調子が悪い時にお茶のようにして飲む風習がある。ソルジェニーツィンの『ガン病棟』ではガン民間薬として書かれている。

花粉症

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風媒花であるため花粉症の原因にもなる。日本ではスギ、ヒノキを一般に欠く北海道においてシラカンバの花粉症が多いことで知られる[37]。シラカンバの花粉症の陽性者はしばしば果物にも反応し、特にバラ科植物(リンゴ、ナシ、モモ、サクランボなど)と重複反応を示すことで知られている[38]。北海道におけるシラカンバ花粉症の陽性率には地域性があり、道北や道東の沿岸部では比較的低いという[39]

防災・風致

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遷移初期に出現する種であり、痩せ地にや乾燥に耐えることから草本やマツ類などと並んで荒廃地の治山緑化用として用いられることがある。庭園樹にも使われる。

象徴

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皇室では、平成時代の皇后美智子お印になっている。

ヨーロッパでは、五月祭にシラカンバの葉や花で飾り付けたメイポール (Maypole) を広場に立て、その周りを踊りながら廻るという風習があった[要出典]ルーン文字のひとつにこれをあらわすものがある[要出典]

シラカンバの花言葉は、「光と豊富」「柔和」「あなたを待ちます」などとされている[13]。盛大な結婚式のことを「華燭の典」というが、この華燭とはシラカバなどの樺の樹皮を松明にして明るくすることを指す言葉である[14]。   

都道府県・市町村の木に指定する自治体

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日本において、高原を代表する樹木で、長野県の県木に指定されているほか、市町村の木に指定する地方自治体もある[20]

その他、フィンランドでは事実上の国の木として扱われている[40]

名前

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和名のシラカンバは一般にシラカバともよばれ、樹皮が白いカバ(樺)がその名の由来である[15][22]。カバはカバノキの古名「かには」が転訛したものである[22]。和名はシラカンバやシラカバの他に、ガンビ[14]、シロザクラ[14]など多くの呼び名がある。中国名は、白樺[1]

脚注

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  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula platyphylla Sukaczev シラカンバ(広義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula pendula Roth var. japonica (Miq.) Rehder シラカンバ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula mandshurica auct. non (Regel) Nakai シラカンバ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula mandshurica (Regel) Nakai var. japonica (Miq.) Rehder シラカンバ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula japonica (Miq.) Siebold ex H.J.P.Winkl. シラカンバ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula tauschii (Regel) Koidz. シラカンバ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  7. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula platyphylla Sukaczev var. cuneifolia (Nakai) H.Hara シラカンバ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  8. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula platyphylla Sukaczev var. pluricostata (H.J.P.Winkl.) Tatew. シラカンバ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  9. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula platyphylla Sukaczev var. platyphylla コウアンシラカンバ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  10. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula platyphylla Sukaczev var. japonica (Miq.) H.Hara f. laciniata (Miyabe et Tatew.) H.Hara キレハシラカンバ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  11. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula platyphylla Sukaczev var. kamtschatica (Regel) H.Hara エゾノシラカンバ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  12. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Betula platyphylla Sukaczev var. mandshurica (Regel) H.Hara カラフトシラカンバ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月27日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m n 田中潔 2011, p. 129.
  14. ^ a b c d e f g h i 辻井達一 1995, p. 85.
  15. ^ a b c d e f g h 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編 2009, p. 159.
  16. ^ a b c d e f g h i j k 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 130.
  17. ^ a b c d e 辻井達一 1995, p. 87.
  18. ^ a b 長谷川哲雄 2014, p. 20.
  19. ^ a b c d 辻井達一 1995, p. 86.
  20. ^ a b c d e f g h 平野隆久監修 1997, p. 162.
  21. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 88.
  22. ^ a b c d 亀田龍吉 2014, p. 96.
  23. ^ 長谷川哲雄 2014, pp. 20, 138.
  24. ^ a b 渡辺一夫 『イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか:樹木の個性と生き残り戦略』 築地書館 2009 ISBN 9784806713937 pp.174-179.
  25. ^ 長谷川哲雄 2014, p. 139.
  26. ^ 谷口武士 (2011) 菌根菌との相互作用が作り出す森林の種多様性(<特集>菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性). 日本生態学会誌61(3), pp. 311 - 318. doi:10.18960/seitai.61.3_311
  27. ^ 深澤遊・九石太樹・清和研二 (2013) 境界の地下はどうなっているのか : 菌根菌群集と実生更新との関係(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る). 日本生態学会誌63(2), p239-249. doi:10.18960/seitai.63.2_239
  28. ^ 岡部宏秋,(1994) 外生菌根菌の生活様式(共生土壌菌類と植物の生育). 土と微生物24, pp. 15 - 24.doi:10.18946/jssm.44.0_15
  29. ^ 菊地淳一 (1999) 森林生態系における外生菌根の生態と応用 (<特集>生態系における菌根共生). 日本生態学会誌49(2), pp. 133 - 138. doi:10.18960/seitai.49.2_133
  30. ^ 宝月岱造 (2010)外生菌根菌ネットワークの構造と機能(特別講演). 土と微生物64(2), pp. 57 - 63. doi:10.18946/jssm.64.2_57
  31. ^ 東樹宏和. (2015) 土壌真菌群集と植物のネットワーク解析 : 土壌管理への展望. 土と微生物69(1), p7-9. doi:10.18946/jssm.69.1_7
  32. ^ a b c 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 257.
  33. ^ a b 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 131.
  34. ^ a b 角田陽一 2018, p. 116.
  35. ^ a b 更科源蔵 1977, p. 28-29.
  36. ^ 寺沢実 (1995) 樹液を飲む. 化学と生物 33(11), p.755-760. doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.33.755
  37. ^ 山本哲夫, 朝倉光司, 白崎英明, 氷見徹夫, 小笠原英樹, 成田慎一郎, 形浦昭克 (2004) 札幌のシラカバ花粉症と口腔アレルギー症候群. アレルギー 53(4), p.435-442. doi:10.15036/arerugi.53.435
  38. ^ 日本花粉学会 編 (2008) 新装版 花粉学事典. 朝倉書店, 東京.国立国会図書館書誌ID:000009373822
  39. ^ 安部裕介, 柳内充, 長門利純, 荻野武, 原渕保明 (2005) 北海道における花粉症原因抗原の地域性. アレルギー54(2), p.59-67. doi:10.15036/arerugi.54.59
  40. ^ フィンランドの概略(フィンランド大使館)

参考文献

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関連項目

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  • チャーガ (カバノアナタケ/Chaga mushroom/Inonotus obliquus)

外部リンク

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