ノベルティ建築



ノベルティ建築(ノベルティけんちく、Novelty architecture) とは、プログラマチック建築(programmatic architecture)や擬態建築(mimetic architecture)とも呼ばれ、広告目的や有名な建物を本物らしく再現する意図なしに模倣するなどの理由で、建築物やその他の構造物に風変わりな形状を与える建築様式の一種である。これらの建物はその大きさや新奇さから、しばしばランドマークとしての役割を果たす。フォリー建築とは異なり、ノベルティ建築は風変わりな形をしていても基本的には利用可能な建築物であるのに対し、フォリーは同様に頻繁に風変わりな形状をしているものの利用不可な純粋に装飾的な建物であることから区別される。
概要
[編集]計画されながら完成しなかったパリの「バスティーユの象」のような初期の例も存在するが、1930年代に自動車による観光旅行が増加するにつれて、この様式は一般的にアメリカ合衆国で普及し、後に他のいくつかの国にも波及した[1]。ニューヨークの自由の女神像は、彫刻でありモニュメントでもある像で、その後の斬新な建築の多くの例と同様に、内部にアクセスできるようになっており、観光名所となった。
道路の近くに斬新な建築物を建てることは、ダイナーやコーヒーショップ、あるいはロードサイド・アトラクションにドライバーを惹きつける方法のひとつとなり、建物は変わった形、特にそこで売られているものの形で建てられた[2]。こうして「擬態」建築がトレンドとなり、多くのロードサイドのカフェやコーヒーショップは巨大なコーヒーポットの形で建てられたり[3]、ホットドッグスタンドは巨大なホットドッグの形で建てられていき、フルーツスタンドはオレンジや他のフルーツの形で建てられていった。「テイル・オー・ザ・パップ」はホットドッグの形をしたホットドッグスタンド、「ブラウンダービー」はダービーハットの形をしたレストラン[3]、「バンドランズファーマシー」はすり鉢と杵の形をした薬局、「ビッグ・アップル・レストラン」と「Big Duck」はそれぞれ10.7メートル (35 ft)背の高いリンゴとアヒルの形をした鶏肉店(現在はギフトショップ)、という具合である。モントリオールには、1966年に高さ12mのオレンジ色の切り立った球体として建てられ(1945年に建てられた小さな球体に取って代わる)、現在も営業しているレストラン「ギボー・オレンジ・ジュレップ」がある[1]。
このような斬新な、もしくはプログラマチック的な(模倣的な)建築は、キャラクター、動物、人物、日用品など、通常建築物とは結びつかないものの形をとることがある。「象のルーシー」[4]やロンガバーガー社の本社社屋がその例である。建築物には、風刺画や漫画の要素が含まれていることもあり、巨大な動物、果物、野菜、あるいは有名な建物のレプリカは、それ自体がアトラクションとして機能することが多いが[1]、単に変わった形をしていたり、珍しい素材で作られていたりするものもある。
こうして、ノベルティ建築の多くの例は、中で販売されている商品の形をとることでドライブ中の客を惹きつけるように造形されている。また、ラスベガスやマカオのカジノのように、世界中の有名なランドマークをモチーフにしたものもある。
ギャラリー
[編集]世界各地の建物
[編集]- 京都にあるフェイスハウス。
- ポーランドキエルツェのUFO型バスターミナル(2012年)。
- オーストラリアのナンブールのビッグ・パイナップル。
- カナダ、ケベック州モントリオールのギボー・オレンジ・ジュレップ。
- 台湾の高跟鞋教堂。
- オーストラリア、ニューサウスウェールズ州ゴールバーンのビッグメリノ。
- オーストラリア、ダッズウェルズ・ブリッジの巨大コアラ。
- カナダのオンタリオ州ミンデンにあるトゥイスティートリートレストラン。
- デンマークのコペンハーゲンにあるTuborgボトル。
- ポーランド、Szymbarkにある逆さまの家。
アメリカの建築物
[編集]- ニュージャージー州マーゲイト・シティの『象のルーシー』(1881年)
- ニューヨーク州フランダースの“ビッグ・ダック”(1931年)
- カリフォルニア州ロングビーチのHot Cha Cafe、現Koffee Pot Cafe (1932年頃)。
- ミネソタ州ロチェスターのコーンコブ給水塔(1931年)
- イリノイ州コリンズビルにあるブルックス・キャッツアップ・ボトル給水塔(世界最大のキャッツアップ・ボトル給水塔、1949年)
- アラバマ州オーバーン近郊、「The Bottle」と呼ばれる地域にあったネヒー瓶(1933年に焼失)。高さ 64-フート (20 m)。
- アリゾナ州ホルブルックの、ウィグワム・モーテル
- コロラド州ベイリーのコニーアイランド・ホットドッグスタンド(1966年)
- カリフォルニア州カバゾンのカバゾン・ダイナソーにて。
- ジョージア州マリエッタの“ビッグチキン”
- シェル・サービス・ステーション(ノースカロライナ州ウィンストン・セーラム)
- カンザスシティ公共図書館の駐車場(2004年)[5]。
- カリフォルニア州ロサンゼルス(ベニス)にあるフランク・ゲーリーによるキアット/デイ・ビルディング(1991年)。
- ワシントン州ジラーにあるティーポット・ドーム・サービスステーション
- 「マミーズ・カップボード」レストラン、ミシシッピ州アダムス郡(1940年)
像
[編集]- ポール・バニヤンとベイブ・ザ・ブルー・オックス、米国ミネソタ州ベミジにて (1936年)
- アメリカ、カリフォルニア州クラマスのTrees of Mysteryにあるブルーオックスのベイブ (1949年)
- オクラホマ州タルサのゴールデン・ドリラー像(1953年)
- オレゴン州ポートランドにあるポール・バニヤン像(1959年)
- アメリカ、ノースカロライナ州ダーラムのノースカロライナ生命科学博物館にあるアパトサウルス像(1967年)
- アメリカ、オレゴン州アロハにあるハーヴィーマリーンのハーヴィー像
- カナダ、アルバータ州ドラムヘラーの世界最大の恐竜(2000)
- アメリカ、ウィスコンシン州ヘイワードの世界最大のマスケルンジ(National Freshwater Fishing Hall of Fameにて)。
- ニュージーランド、セントラルオタゴ、クロムウェル郊外の大きな果物
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ a b c Heimann 2001, p. [要ページ番号].
- ^ a b Carbone, Cristina (2020年1月24日). “Mimetic and Programmatic Architecture in America” (英語). SAH ARCHIPEDIA. Society of Architectural Historians. 2025年5月17日閲覧。
- ^ a b c “California Crazy: pop architecture from the past – in pictures” (英語). the Guardian. (2018年5月31日). ISSN 0261-3077 2025年5月17日閲覧。
- ^ Andrews 1984, p. 14.
- ^ a b c Adams, Cathy. “Mimetic architecture: Why does this building look like a fish?” (英語). CNN. 2021年11月12日閲覧。 “擬態建築: なぜこの建物は魚のように見えるのか”
- ^ 佐藤健寿 (2021年9月29日). “《厳選写真》死者を担いで踊る奇習、幽霊が蘇らせた小さな村の廃教会…各地を巡る写真家が目にした“奇妙すぎる世界””. 文春オンライン. 文藝春秋. 2025年5月16日閲覧。
- ^ Anicic 2005, p. 83.
- ^ “Fontana, California: Big Orange Stand (In Transition)”. Roadsideamerica.com. Roadside America.. 2010年12月22日閲覧。 “カリフォルニア州フォンタナ - 巨大オレンジスタンド”
- ^ “Encinitas Boat Houses”. Atlas Obscura. 2023年2月14日閲覧。 “住宅街に漂着した巨大ボートのような珍しい家々”
- ^ “The Boathouses”. Encinitas Historical Society & 1883 Schoolhouse (2016年8月13日). 2023年2月14日閲覧。 “ボートハウス”
参考文献
[編集]- Andrews, J.J.C. (1984-05-01) (英語). The Well-Built Elephant, and Other Roadside Attractions: A Tribute to American Eccentricity. Congdon & Weed. ASIN 0809229366
- Anicic, John Charles (2005) (英語). Fontana: Images of America. Mount Pleasant, South Carolina: Arcadia Publishing. ISBN 0-7385-2900-1 2011年2月6日閲覧。
- Heimann, Jim; Gebhard, David (2018) (英語). California crazy: American pop architecture. Köln: Taschen. ISBN 978-3-8365-7283-5
- Heimann, Jim (2001) (英語). California Crazy and Beyond: Roadside Vernacular Architecture. Chronicle Books. ISBN 0-8118-3018-7