メルセデス・ベンツ・SSK

メルセデス・ベンツ・W06 > メルセデス・ベンツ・SSK
メルセデス・ベンツ・SSK
SSK
概要
設計統括 フェルディナント・ポルシェ
ボディ
乗車定員 2人
ボディタイプ 2座席・ロードスター
駆動方式 FR
パワートレイン
エンジン メルセデス・ベンツ・M06エンジン英語版 直列6気筒 7,065 cc SOHC, スーパーチャージャー搭載
変速機 4速ノンシンクロMT
車両寸法
ホイールベース 2,950 mm
全長 4,250 mm
全幅 1,700 mm
全高 1,725 mm
車両重量 2,000 kg(総重量)
1,400 kg(車体)
その他
製造台数 33台[1](37台という説もある[2]
系譜
先代 S (W06)
後継 SSKL (W06 RS)
テンプレートを表示

メルセデス・ベンツ・SSK(W06 II / W06 III / WS06)は、ダイムラー・ベンツが1928年から1932年にかけて製造・販売した自動車である。メルセデス・ベンツ・Sシリーズのショートホイールベース仕様の車両で、2座席のスポーツカーとして販売され、レースにおいても活躍した。特にレースにおいて数多くの勝利を挙げたことから、戦前のメルセデス・ベンツや、レーシングカー、スポーツカーを代表する車両のひとつとして知られる[3]

概要[編集]

SSKはフェルディナント・ポルシェがダイムラー・ベンツを去る前、最後に設計した自動車である。1927年に発売したタイプSが基になっており、タイプSはレースにおいても活躍したが、元々グランドツアラーとして開発されたこともあって全長が長く、旋回性能に難があった。そこで、ホイールベースを短くし、旋回性能を向上させたのがSSKである。全長とホイールベースが短縮されたこと以外は同時に開発されたモデルSSと基本的に同じで[W 1]、SSKは車体長が短くなったことで重量も軽くなり、ヒルクライムやツイスティーなレースにおいて優位性を持った[W 1]

まずヒルクライムに投入され、1928年7月末のデビュー戦、8月のレースで楽勝したことで、通常のサーキットレースでも使用することや[W 2]、量産車を少量市販することが決定した[W 3]。そうして、市販仕様は1928年10月にSSとともに製品ラインナップに加えられた[W 3]

SSKはSSKLを含めて33台が製造されたが、その内の20台は1929年までに製造された[W 3]。姉妹車のSSは1928年から1933年にかけて計111台が製造されたとされており、SSKの製造台数は少なかった。SSKは1928年10月から一般販売が始められ[W 2]、1933年2月までカタログに載っていた[W 3]

バリエーション[編集]

4座席のツアラー仕様などが様々に作られたSやSSとは異なり、車体が短いSSKは4座席にすることはできないため、2座席のロードスターとして販売された[注釈 1]

エンジンは7.1リッター(7,079 cc)・直列6気筒という点はSSKの各仕様で共通しているが、性能は仕様によって異なり(→#主要諸元)、エンジン本体は140馬力から180馬力を発生し、スーパーチャージャーを使用することで、一時的に200馬力から250馬力の出力を発生させることができた。最高時速はおよそ190 kmに達し、当時の市販車としては最速の車両だった。

名前[編集]

製品名(モデル名)として使われた「SSK」は「ドイツ語: Supersport Kurz」の略で、同時期に発売された「SS」(Supersport)よりもホイールベースが短い仕様であるため、「Kurz(短い)」を意味する「K」が加えられた。

名称は「S」の短縮型ということで「SK」でもよかったのだが[W 3]、姉妹車である「SS」との共通性を強調するため「SSK」という名称になった[W 3]

レースにおける活躍[編集]

当時のドイツではヒルクライムの人気が高かったため、SSKは蛇行する山道を登るのに適したショートホイールベースの車両として開発された[W 2][W 1]

SSKは1928年7月29日にガベルバッハ・ヒルクライムドイツ語版でデビューし、ルドルフ・カラツィオラによって新記録を樹立し、翌月に開催された複数のヒルクライムレースでも圧勝した[W 2]。開発当初、ダイムラー・ベンツのワークスチーム(自社チーム)は、SSKをヒルクライムに用い、SSを通常のレースに使うという使い分けをする予定だったが、SSKがデビュー後すぐに高い性能を示したことから、通常のレースにおいてもSSだけではなくSSKも使うことを決定した[W 2]

主要諸元[編集]

仕様 27/140/200PS 27/160/200PS 27/170/225PS 27/180/250PS
車両型式 W06 II W06 III WS06
製造・販売期間 1928年 - 1929年 1929年 - 1932年 1928年 - 1930年 1929年 - 1930年
エンジン
搭載エンジン メルセデス・ベンツ・M06エンジン英語版
排気量 7,069 cc
ストローク長×ボア径 150 mm × 100 mm
圧縮比 5.2:1 6.2:1
最大出力(非過給時) 140馬力 @ 3,300 rpm 160馬力 @ 3,300 rpm 170馬力 @ 3,300 rpm 180馬力 @ 3,300 rpm
最大出力(過給時) 200馬力 @ 3,300 rpm 225馬力 @ 3,300 rpm 250馬力 @ 3,300 rpm
最大トルク 450 Nm @ 1,920 rpm 458 Nm @ 1,900 rpm 562 Nm @ 1,900 rpm
車体
全長 / 全幅 / 全高 4,250 mm / 1,700 mm / 1,725 mm
ホイールベース 2,950 mm
トレッド(前 / 後) 1,425 mm / 1,425 mm
重量(車体 / 車両 / 総重量 1,400 kg / 1,700kg / 2,000kg
駆動系
トランスミッション 4速マニュアル(ギア比:2.75 / 1.55 / 1.12 / 1.0)
クラッチ 乾式多板クラッチ(4枚)
性能
燃費 L/100 km 27
km/L 3.7
最高時速 185 192
その他
製造台数 計33台(SSKLを含む)[注釈 2]
価格ライヒスマルク 29,000 RM(車体)、33,000 RM(スポーツ2シーター架装済み)
出典 [W 5] [W 6] [W 7]

レース仕様[編集]

市販仕様の初期型の公称出力は、高性能版(27/170/225PS)でも225馬力程だったが、レース仕様では、「エレファント」と呼ばれる巨大なブロワーを装着し、過給時に最大で275馬力を出力したとされる[4]。1929年にはさらに性能が増し、レース仕様車の最大出力は300馬力に到達したと言われている[4]

現存車両[編集]

SSKは全体で33台が製造されたとされ、その内の約半数はレーシングカーとして販売された。

その多くはレース中のクラッシュなどで破損し、共食い整備が行われたため、オリジナルの状態を完全に保って現存している車両は4、5台のみだと言われている。

また、SSKは製造台数そのものが少なかったため、販売されていた当時も入手は困難であったことから、SSの全長を短くしてSSK仕様にするという改造が行われた例もあり、それらがSSKの現存車として認識されている例もあると言われている[5]

取引価格[編集]

公道仕様の数も必然的に少ないため、その希少性と当時の人気、数々の逸話によって、現存車両は高額で取引されている。

  • 2004年9月にボナムズ英語版が行った競売で、1929年型SSKが出品され、417万ポンド(740万USドル)で落札された。これは当時の時点で自動車の取引価格としては史上2番目の高値となった。

著名な個体[編集]

SSKカウント・トロッシ

関連作品[編集]

アニメ
ゲーム

関連項目[編集]

  • メルセデス・ベンツ・SSKL - SSKに軽量化やスーパーチャージャーの強化といったレース用の改良を施して開発されたレース専用モデル。1931年に製造された。
  • エクスカリバー英語版 - SSKを基に製作・販売されたレプリカの自動車。1963年から1990年にかけて、3,500台以上が製造されたとされる。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ただし購入後に4座席に改造した顧客もいた。
  2. ^ SSKLは製造時に「SSK」として扱われているため、製造記録から両者を区別することはできない[W 4]

出典[編集]

  1. ^ MB 重厚な技術、名車を生む(スタインウェーデル/池田1973)、p.106
  2. ^ 世界の自動車2 メルセデス・ベンツ──戦前(高島1979)、p.82
  3. ^ MB 栄光の歴史(ハイリッグ/増田2000)、p.32
  4. ^ a b German Racing Silver(Ludvigsen 2009)、p.43
  5. ^ メルセデス・ベンツの思想(ザイフ/中村1999)、「数々の名レーサーを誕生させたSSK」 pp.155–158
ウェブサイト
  1. ^ a b c The Mercedes-Benz compressor cars of the S-Series” (英語). Mercedes-Benz Cars (2019年4月5日). 2023年6月28日閲覧。
  2. ^ a b c d e From Mercedes-Benz K model to SSKL” (英語). Mercedes-Benz Group Media (2019年9月13日). 2022年1月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月28日閲覧。
  3. ^ a b c d e f S, SS, SSK, SSKL, 1927 - 1933” (英語). M@RS – The Digital Archives of Mercedes-Benz Classic. 2023年6月28日閲覧。
  4. ^ SSKL 27/240/300 hp / W 06 RS, 1931” (英語). M@RS – The Digital Archives of Mercedes-Benz Classic. 2023年6月28日閲覧。
  5. ^ SSK 27/140/200 hp, from 1929: SSK 27/160/200 hp / W 06 II, 1928 - 1932” (英語). M@RS – The Digital Archives of Mercedes-Benz Classic. 2023年6月28日閲覧。
  6. ^ SSK 27/170/225 hp / W 06 III, 1928 - 1930” (英語). M@RS – The Digital Archives of Mercedes-Benz Classic. 2023年6月28日閲覧。
  7. ^ SSK 27/180/250 hp / WS 06, 1929 - 1930” (英語). M@RS – The Digital Archives of Mercedes-Benz Classic. 2023年6月28日閲覧。

参考資料[編集]

書籍
  • Louis William Steinwedel (1969). The Mercedes-Benz Story. Chilton Book Company. ASIN 0801954983 
    • ルイス・W・スタインウェーデル 著、池田英三 訳『メルセデス・ベンツ 重厚な技術、名車を生む』サンケイ新聞出版局、1973年3月2日。ASIN B000J9SSQANCID BA62696167 
  • 高島鎮雄(編著)『世界の自動車2 メルセデス・ベンツ──戦前』二玄社、1979年10月15日。ASIN B000J8DT06NCID BN10749444 
  • Ingo Seiff (1989). Mercedes Benz: Portrait of a Legend. Gallery Books. ASIN 0831758597 
  • John Heilig (1998-09). Mercedes Nothing but the Best. Chartwell Books. ASIN 0785809376. ISBN 9780785809371 
    • ジョン・ハイリッグ(著)、増田小夜子(翻訳)、大埜佑子(翻訳)『Mercedes:メルセデス-ベンツ 栄光の歴史』TBSブリタニカ、2000年11月26日。ASIN 4484004119ISBN 4-484-00411-9NCID BA50479172 
  • Karl Ludvigsen (2009) (英語). German Racing Silver. Ian Allan Publishing. ASIN 0711033684. ISBN 978-0-7110-3368-9