沖縄北部方言

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沖縄北部方言
国頭方言/国頭語
山原言葉/ヤンバルクトゥーバ
話される国 日本
地域 沖縄島北部
話者数 5,000(2004年)[1] 
言語系統
言語コード
ISO 639-3 xug
青が沖縄北部方言の範囲
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沖縄北部方言(おきなわほくぶほうげん)または国頭方言(くにがみほうげん)とは沖縄県沖縄諸島北部(沖縄本島北部および伊江島伊是名島伊平屋島など)で話される沖縄語方言である。エスノローグにおいては国頭語(くにがみご)(Kunigami language)とされるが、沖永良部島方言与論島方言をあわせた沖永良部与論沖縄北部諸方言を国頭語(国頭方言)と呼ぶこともある[2]。沖縄北部方言と沖縄中南部方言との境界は、東シナ海側では恩納村恩納と谷茶の間にあり、太平洋側では金武町屋嘉とうるま市石川の間にある。

地域区分[編集]

アクセント(音調)[編集]

琉球祖語のアクセントに想定されるA、B、Cの3系列(類)の区別は、金武方言や今帰仁方言で比較的明瞭に保存されている[3]。一方、伊江島方言ではA系列とC系列が同じアクセント型に統合している[4]

表に金武方言の音調を示す。ピッチの高い部分を上線、上昇位置を[、下降位置を]で示す。金武方言の場合、1拍名詞は助詞を付けた場合に、A系列は高く平板な発音、B系列は始めが低く最後の1拍のみ高い発音となり区別される。2拍名詞の場合、B系列は助詞なしでは最終音節が長音化して上昇調が現われるが、助詞付きでは長音化せず最初の2拍のみ高くなり、C系列では最終音節が長音化せずに高くなる。表に記載はないが、2拍名詞のC系列は第1拍も高くなったり、第1拍のみが高く助詞が高くならない場合もある[3]

金武方言の音調[3]
1音節名詞 2音節名詞 3音節名詞
A系列 ʃiː、ʃi[ː(血)
ʃiː nu(血が)
hana(鼻)
hana nu(鼻が)
kibuʃi(煙)
kibuʃi] nu(煙が)
B系列 ti[ː(手)
tiː[nu(手が)
haː]na[ː(花)
haː]na nu(花が)
kaga]mi[ː(鏡)
kaga]miː nu(鏡が)
C系列 該当語なし naː[ka(中)
naːka [nu(中が)
kata[na(刀)
katana [nu(刀が)

国頭村浜方言の場合、a、b、cの3種類の音調型がある(それぞれの所属語彙はA系列、B系列、C系列とは必ずしも対応しない)。a型は全ての拍が高く、b型は語句の最終拍のみが高く、c型は語末から2拍目が高くなる[5]

浜方言の音調
(ハイフン付きは1拍助詞を付けた場合の高低)[5]
2拍名詞 3拍名詞
a型 高高
高高-高
高高高
高高高-高
[tʔʃiː](血)、[ɸana](鼻) [çibuʃi](煙)
b型 低高
低低-高
低低高
低低低-高
[tiː](手)、[ɸana](花) [kagaɴ](鏡)
c型 高低
高低-低
低高低
低高低-低
[naka](中) [ʔatʃaː](明日)

文法[編集]

動詞[編集]

以下、本部町瀬底方言の動詞について解説する[6]

語幹[編集]

瀬底方言の動詞活用を整理すると、基本語幹、連用語幹、派生語幹、音便語幹の4種の語幹に活用語尾が付いていることが分かる。動詞の種類ごとに語幹を整理すると、下記の通りである。

瀬底方言の動詞一A類の語幹
日本語 頭語幹 語幹末
基本語幹 連用語幹 派生語幹 音便語幹
書く ha k k ku
行く ʔi k k ku
漕ぐ ɸu g g gu
殺す kuru s s su
立つ taQ t t tu
死ぬ si n n nu
飛ぶ tu b b bu r
結ぶ kuN b b bu
眠る niN b b bu t
読む ju m m mu r
瀬底方言の動詞一B類の語幹
日本語 頭語幹 語幹末
基本語幹 連用語幹 派生語幹 音便語幹
取る tu r i t

一B類には他に、hain(刈る)、waraːin(笑う)、hoːin(買う)、ʔumuin(思う)、wuin(居る)、ʔain(有る)が属す。

瀬底方言の動詞二類の語幹
日本語 頭語幹 語幹末
基本語幹 連用語幹 派生語幹 音便語幹
見る m ir i ii itʃ
起きる ʔuk ir i ii it

活用形[編集]

上記の語幹には、下記のようにそれぞれ活用語尾が付いて活用形を成す。下の表には各活用語尾と、例として一A類の「書く」、一B類の「取る」、二類の「見る」の語形を示す。

本部町瀬底方言の動詞の活用語尾
  志向形 未然形 条件形1 条件形2 命令形1 命令形2 連体形1 連用形 条件形3 終止形 連体形2 du係結形 ga係結形 禁止形 準体形 接続形
語幹 基本語幹 連用語幹 派生語幹 音便語幹
活用語尾 /aa/ /a/ /i/ /ee/ /i/ /ee/ /u/ /i/ /ra/ /N/ /N/ /ru/ /ra/ /i/
書く hakaː haka haki hakeː haki hakeː haku haki hakura hakun hakun hakuru hakura haku haku hatʃi
取る turaː tura turi tureː turi tureː turu tui tuira tuin tuin tuiru tuira tui tui tuti
見る miraː mira miri mireː miri mireː miru miː miːra miːn miːn miːru miːra miː miː mitʃi
主な接続形式 ba(条件) jo(よ) ba 体言 na

瀬底方言には、上記以外の活用をする動詞として、ʔjuːn(言う)、keːn(食う)、suːn(する)、kuːn(来る)がある。

志向形語尾は-aːが普通だが、-anとなる場合もある。

未然形には、n(否定)、sun(-せる)、riːn(-れる)、ba(条件)が接続する。

連体形1には、gariː(-まで)、haːdʒi(-の度に)などが付く。また、nuːga(なぜ)の結びとしても使われる。

連用形には、buʃeːn(-たい)、nʃeːn(-なさる)、bakeː(-ばかり)、n(-も)などが付く。

連体形2の語尾はnとなるのが普通だが、nuやruとなる場合もある。

準体形には、mi(か。尋ね)、sa(さ)、ʃi(の)、gaja(-かしら)などが付く。

派生語幹からは、上記の他にhakutan(書いていた。継続過去)、hakuteːn(書いていたに違いない。継続結果過去)のような形式も形成される。また一B類や二類の派生語幹末尾のiの代わりにjuが現われる場合もある。例えば終止形はtujun(取る)、mijun(見る)、du係結形はtujuru、mijuruなどである。

接続形からは、さらにhatʃiːn(書いている。持続)、hatʃan(書いた。過去/完了)、hatʃen(書いてある。結果過去)のような形式も形成される。

脚注[編集]

  1. ^ Kunigami at Ethnologue (18th ed., 2015)
  2. ^ ユネスコ危機に瀕する言語では沖永良部与論沖縄北部諸方言をさして「国頭語」としており、沖縄北部はその方言としている。
  3. ^ a b c 松森晶子(2009)「沖縄本島金武方言の体言のアクセント型とその系列:「琉球調査用系列別語彙」の開発に向けて」『日本女子大学紀要 文学部』58 NAID 110007097760
  4. ^ 松森晶子(2000)「琉球アクセント調査のための類別語彙の開発:沖永良部島の調査から」『音声研究』4-1
  5. ^ a b 﨑村弘文(2006)『琉球方言と九州方言の韻律論的研究』明治書院、147-150頁。
  6. ^ 内間直仁(1984)『琉球方言文法の研究』笠間書院、355-371頁。

外部リンク[編集]